さらりさらり

 風呂から上がるとなにやら部屋の様子が変わ
っていた。大仰な変わり方ではなく、ほんの一
寸の違和感と言う程度の感じ方だけど、何かが
変わっている。
 「飯、食うでしょ?」
 「ん?うん」
 「ならとっとと着替えといで」
 同居人に促され、箪笥のある別間に移動する。
その間に紛れて違和感の正体を確認しようとし
たけど、
 「ホラ、行った行った!」
 手際よく追いやられてる俺。同居人の可愛ら
しさは何時の間に逞しさに変わっちまったかね?
いや、肝心の部分は可愛らしいままなんだから
良いけどさ。

 で、着替えて戻ると変化と言うか違和感は更
に深みを増している訳で。炬燵の位置も収納ボ
ックスの位置もカラーボックスの位置も変わっ
ていない。テレビもいきなり最新型に変わった
なんて事もなく鎮座ましましてる。一体何が変
わったのかと思って炬燵の上を観て、俺は漸く
今日が何日だったか思い出した。
 「…で、何で焼き鳥な訳?」
 「七面鳥なんて贅沢でしょ?」
 だからと言ってパプリカを塗した鶏肉と白葱
の串、そして深緑の皿でクリスマスを表現する
のもどうかと俺は思うぞ?珍しく敷いてあるテ
ーブルクロスが白レースと言うのには反対しな
いけど。
 「ま、良いじゃない。先ずは一杯」
 「クリスマスに熱燗かよ!」
 「文句ある?」
 「……ありません」
 同居人の実家からの支援物資に日本酒がある
と言うのはひとえに商売柄の所為。こう言う始
末になって色々思われてるんだろうなと思って
いたら案外そうでもなかったらしい。
 『諦めかも知れないね』
 当事者があっけらかんと言うなよ。無い頭を
絞って俺も考えてるのに。御両親に会う度に一
瞬言葉に詰まっているのを知らない訳は無いだ
ろ?
 坏とぐるぐる考えつつ猪口を傾けて、瞬間咽
た。
 「…っエホッ…ちょ…こ…」
 「んー?」
 「これって、クリスマスだから?」
 「そ。ほんの少しのサプライズ」
 「沢山のサプライズだっての」
 幾ら無意識に猪口を傾けて居たとは言え、温
めた白ワインと日本酒の区別がつかなかったと
言うのはとても恥ずい。
 「そもそもホットワインって赤だろ?」
 「白があっても良いんじゃない?」
 言いつつ空の猪口に次を注いでくる。
 「僕等みたいなもんだし、ね」
 其処に来るのか。

 小学校では同級生。中学校ではクラスメート。
そして、高校生で恋愛関係。勿論其処に行き着
くまでも葛藤が無かった訳じゃない。
その葛藤をとりあえず乗り越えて現在の同居に
至って五年間。お互いネクタイを締め始めて二
年少し。周りとの折り合いも何とかつけてきた。
こいつの御両親とのお付き合いもとりあえず上
手く行っている、と思う。でもそれはあくまで
俺が抱いている感触であって実際はどうか判ら
ない。とりあえずこいつ経由と言う事ならば大
丈夫じゃないかと思う。少なくとも、俺がこい
つを好きだと表現している限りは。
 そう言う類のハードルを二人で大なり小なり
今まで越えてきたし、これからも越えて行くの
だろう。二人で、と言う条件が付いている限り
かなり嬉しいリスクではある。
 そうしてみると、これは相当に幸せな状況な
のだろう。

 「猪口一杯の暖かさ、と言うのは如何?」
 「良いね、それ」
 返杯を飲み干し、微笑まれる。
 多分二人が望んでいるのはそう言うささやか
な気持ちの共有だと思う。そのささやかな気持
ちの共有があるからこそ、お互いを毎日愛しく
思えるのかも知れない。
 「苦い一杯だけは避けたいね」
 「努力します」
 「判ってればよろしい」
 聖夜最後の一献は半分ずつ。そして…。
              (2005.11.30メールマガジンにて発表/2007.12.24再録)               作者:葡萄瓜XQO

クリスマスならではのボーナストラック、と言う事で再録を。
こういう試みもしてますよ、と言う事で。
年齢制限は…スレスレで無しって所ですか。
 
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