ooxo-hug hug kiss,hug-

抱きしめられるだけで安心する様になってどれだけの
時が流れたんだろう。
肌を合わせて抱きしめられるのも良いけど、寝巻越し
に温もりをじわじわ感じながら抱きしめられるのもこ
の頃好きになってきた。枯れてきたって言う感覚なん
だろうか。
とは言え、暖房+フリース寝巻+毛布+冬布団で6時間
も同衾してれば流石に熱いし一寸鬱陶しい。でも矛盾
した事に起き上がりたくはないんだな。物理的な熱さ
からの待避よりも精神的な温もり保持の方を優先した
くなるから。
いっそこうなるなら肌着だけで眠る事にしようか。不
埒な悪戯心と言う副産物は出来るけど。
……我が事ながら、そう言う事を丹念に考えている高
校生ってなんか嫌だ。

寝巻を着る事を切り出したのは、実は僕の方から。
理由は実に単純。肌にこびりつく体液の違和感が嫌に
なったから。
体温が上がっている間のその感覚は好きなんだけど、
冷め切った後で感じてしまうとね…湿っている間も乾
いてしまった後もかなり嫌だ。
それから後付の理由として。不意の来客に慌てない様
に。
二人の関係を判ってる人が勝手に上がって来るにして
も、今の今まで情を交わしてましたって風情を晒すの
はなんだかな、と。美しくないじゃない?取り繕いと
笑われるかも知れないけど、せめて寛いでましたくら
いの感じを演出する気遣いはしておきたい。
高校生なんだからそこまで気を使わなくて良いだろう
って?判ってないなぁ。
確かにそう言う欲求に対しては動物的ではあるんだけ
どさ、飢えてるガキと思われるのって恥臭いっしょ?
一応同級生相手ではあるにしてもそこはそれ。不埒で
ある時ない時の区別は付けとかないとだらしなくなっ
てしまう。そのだらしない部分から恋愛崩壊が起こる
なんて幾らなんでも洒落にならない。
……と、言う部分も年上の同級生と付き合い出して判
った事なんだけどね。タメ口で過ごしていてもふと気
付けば相手は僕より少し人生経験積んでる訳で。まし
てやこういう方向の経験値なんて、僕より五年余分に
積んでるという状況だそうなんで、正直洒落にならな
い。どっちの初めてもこの人相手に捨てたしなぁ。何
重の意味合いでも太刀打ち出来ないと思う。する気は
端からないけど。

とりあえず、体に巻きついた上肢下肢を振り解く事か
ら試みてみる。
まったく、抱き枕じゃないんだからここまでしがみ付
かないで欲しい。たとえ抱き枕相手にした所でこの圧
力で抱きしめられたんじゃウレタンがすぐにへたって
取替えと言う事になってしまいそうだ。全蕎麦殻かあ
るいは竹の編み込みかと言う感じで行かないと保ちは
すまい。竹の編み込みの場合は余程使い込まないと多
分一見では愛着が涌き難いだろう。
……って、どういう思考をめぐらせてるんだ僕は。
それだけ愛されてると言うか執着されてるんだろうな
ぁと言う感慨は無論ある。男同士でこうなった、とい
う事に対して一切疑念もないしね。何の事はない。幼
稚園の頃から抱いていた違和感に対する答えを貰った
と言うだけの話だ。相方も同じ様な感じかも知れない。
突っ込んで聞いた事は無いけど、天然の恋愛体質だっ
たらしいから。
告白は向こうから。その時点での僕の経験値、むしろ
マイナス。そこから自覚を棚上げした逡巡が一瞬あっ
て、ほぼ即答で首を縦に振ってた。ほぼ直感だったな。
この人と恋愛すれば何か判る、みたいな。事実相当判
ってしまったけどね。自覚してなかった受け身な自分
とか、結構支配欲のある攻め手の自分とか。肌を重ね
るというのはきっとそう言う事なんだろう。そしてそ
こから得た安心を糧にして、今恋愛のプラトニックな
部分を補完してるんじゃないかな……って何思考モー
ドに入ってるんだ。おまけに考えが現状から明後日の
方向に飛んでるし。
まあ、幸いな事に局部硬直の対応を心配しなくて良い
から少しは気が楽だ。堅い言葉で考えてしまってるけ
ど要は朝勃ち。オスの元気加減のバロメーターらしい
けど、こう言う時は不思議と軟らかいままなんだよな
ぁ。全く感じない訳じゃないけど、性欲よりも別のも
のを優先させたくなって、結果軟らかいままという感
じなのかも。生理的な部分のリズムが少し変わってい
るのもあるかも知れない。脈は相当速くなってるんだ
けどね。何回肌を重ねてるんだとは自分でも思うんだ
けど、無邪気な密着は本当に心臓に悪い。心の熱まで
ストレートに伝わってきそうで、変に飛んで紛らわせ
る事が出来ないんだ。体液に塗れて狂っている時の方
が余程心身ともに熱の放射率が良い。こういう比較を
してしまいながら思い出して興奮しそうになる自分も
一寸嫌だな。
それにしても……抱かれてる当人が言うのも変な話な
んだけどさ、男の体ってそんなに抱き心地良い物なの
かな?自分でも疑問に思うもの。熱さはあるけど相当
筋張って堅いしさ。そう言う体を抱き枕みたいに出来
るって言うのは、どういう理屈なんだろう?
例えばこれが小坊の時とか中坊の最初の頃の肉付きな
ら判らないでもないんだよね。柔らかいし、コンパク
トだし。肌だって多分今よりツルツルサラサラだ。
……って、また思考がずれてるよ。どうやら僕の本心
はこの状況に就いて真面目に考えたくない様だ。多分
惚気の一人ボケ一人ツッコミ状態なのかも知れない。
オイオイ勘弁してよ。

力ずくで上肢下肢の縛から逃れようとするのは諦めて、
暑苦しいけど抱き枕に徹する事にした。不埒な気分に
ならなきゃ良いんだ,うん。それに相手も人間なんだ
からいつも通りに起きる筈。そしたら快適な開放感が
待っている。
と、割り切ってはみるもののそうなったらなったで寝
巻き越しに感じる余りにも平然とした心拍音に一寸腹
が立つ。いや、良いんだけどさ。なし崩しに抱かれる
と言う心配をしなくて良いんだけどさ。そんだけ大事
にされてるかもなんて一寸安心するんだけどさ。
……こういう抱き方でも毎回ドキドキしてて欲しいな
んて強請ってしまいそうになるのは、我儘…なんだろ
うな。慣れるのは良いけど、腐れ縁から緊張感のない
関係になるのは嫌だ。こういう関係だからこそ余計に
何かの証が欲しい。些細な事で良いんだ。自覚があれ
ば自信が持てる。
「眉間に皺寄せてるんじゃないっての」
「…起きてたんだ。悪趣味」
こういう囁きにさえ甘さが欲しくなると言うのは、我
儘なんだろうか?
「野郎相手に恋愛してる時点ですでに悪趣味だろうな
ぁ。自覚した当座は思ってたもの」
「今は?」
「そう悪いもんじゃないと思ってる。お前さんに会っ
てから以降は特に」
「ふうん」
「抱きしめて安らげる相手に会えたんだから悪くない
よな、ってね」
「安心してくれるのは良いけどさ」
そう思ってくれてた訳ね。じゃあ、と、この際だから
こっちから我儘を言ってみる。
「力を緩めるか興奮するか、どっちかオプションつけ
て欲しいな」
「興奮はパス。四六時中勃たせて雪崩れ込んでたら身
が持たないでしょ?」
「まーね」
「半分はこっちが受け止める様にしたとしても、やり
方次第ではマンネリ化を招くかと」
「道具使えば?」
「使いたい?」
「どっちかと言えば、やだ」
「ぼくもやだ。道具で達っちゃうお前さんを見るのも
やだ」
そしてふっ、と抱きしめられ方の加減が変わる。
「力加減は、善処します。最近は不安も無いし」
「不安?」
「捨てられる、切られるって言う不安」
「……僕の台詞じゃない?それ」
軽く返したら、返事が首筋に響く。
『心で人を好きになったの、初めてだもの』
こういう時に可愛くなるってのは、とても反則だ。しか
もこういう恋愛初心者の僕よりも純情だなんてフェイン
ト過ぎる。お陰で新しい局面が拓けてしまいそうで、愉
しみだけど自分が暴走しそうで一寸怖い。

それでも時間はきちんと過ぎる訳で。
目覚ましのアラームが鳴り掛けた所で一はたき。時間を
確認して、カレンダーももう一度確認する。
「もう起きる?それとももう少し?」
「後20分」
「じゃ、その20分は体位変えてよ」
「やだ」
「何で?」
「折角のデートを鼻血でキャンセルしたら、勿体無い」
ま、そうだね。
起きたら身支度して、お出かけのフルコース。クリスマ
スイブだから、ただ並んで歩くだけでも気分には浸れる
しね。
向き合っての抱っこは、今夜の楽しみにおいておこうか。



          (2007.11.26脱稿/2007.12.1UP)
              作者:葡萄瓜XQO
 

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