皆様、小劇場へようこそお越しを。暫くの間様々な恋愛風景を御覧下さい。
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「クリスマスって好いタイミングで存在するね」
「なんだよいきなり」
「新年を迎える前の身辺整理の為には丁度好い安息だな、と思って」
「ちょ、一寸。それって…」
「いらない恋を捨てるにも丁度良さそうだし」
「で、捨てるの?」
「なんで?」
背中からの静かな抱擁。
「僕が持ってるのは恋じゃなくて愛だから、棄て様が無いでしょ」
「……莫迦」
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誰でもが赤い糸をきちんと一本は持っている。只違うのはその
結び目の強度だ。強ければ愛になるし一番弱いものは友愛の
情で留まるのだろう。
そして理不尽な話だが、極々稀に赤い色の投網を持つ人間も
存在するものだ。その投網を整理しきれず足を取られて自滅する
人間も居るけれども。
サンタクロースの衣装と言うのはその赤い糸の慣れの果てかも
知れない。自戒の為か、それとも今も静かに熾き火が萌えている
のか。
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「柊の葉はなんで刺で囲まれているんだろう?」
「無礼者を撃退する為なんじゃないの?」
言いつつ彼の手を柊の枝で撫でて差し上げる。
「公衆の面前で不埒をするんじゃ無いの」
「クリスマスだから良いじゃんかよ」
「クリスマスだから、だよ」
そして出来るだけさり気無い口調で。
「クリスマスの夜って長いんだっての、知ってた?」
赤面絶句し固まった彼を捨て置いて、僕は其の侭歩いている。
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プレゼントもいらなきゃディナーもいらない。
今日が12月24日だと感じさせてくれれば他に何もいらない欲しがらない。
どうせ君が帰ってゆくのは他の誰かの所だから。
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シャンパンの勢いを借りて永遠を誓わないで欲しいな。
缶酎ハイで誓ってしまう誰かの歌じゃないんだし。
気持ちと体で成立している関係だから、こういう時には
普通の関係より余計に不安になるんだ。
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豪華なクリスマスカードの群れの中にポツリと存在する君の
下手糞な字でかかれたシンプルなカードを観るとホッとする。
君の不器用な想いに僕がどれだけ救われているかって、知ってた?
暖かいって、多分そう言う事。
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「トナカイにしようかサンタにしようか」
「如何したの?」
「いや、聖誕節のコスプレを如何しようかと」
「誰が着る衣装なのかな?」
手元にあったクリスマスカラーの蝋燭をナイフの様に突きつけて微笑んでやる。
「いっそ樅の木のコスプレでもしたら?最後には熱く熱く燃やしてあげるから」
「サンタに燃やされるなら本望かな」
冗談で返された、と思ったけど目は本気だ。
樅の木って結構色々されるんだけどな。(モールや飾り鎖に)縛られたり、
(色々な飾りを)吊り下げられたり。……ま、手心は加えるつもりけどさ、
多分。
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「幾らクリスマスだからってさァ…」
「じゃ、他にどんなのがいいの?」
「光る奴とか薫る奴とか」
「どっちもどっちだと思わない?」
「…かもね」
僕達はクリスマスカラーで彩られたゴム製品を前にして頭を抱えていた。
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「あんまり熱くしないでおくれよ」
「凍えなくて丁度良いだろうさ」
「駄目だってば。あんまり絡み付いちゃ」
「私達のことなんざ誰も気に留めちゃいないさ。見ては居るけど」
コンペイトウ電飾が樅の木にそっと囁いた。
「見られているから萌えるのだろう?」
「……莫迦」
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目の前にそっとクリスマスプディングが差し出される。
何となく、去年の状況を思い出してしまった。
「何時の間に仕込んでたの?」
「ン。去年のクリスマスの直後にね」
「又随分早い仕込みで」
「思い立ったが吉日、って言うでしょ?」
軽口を叩きながら彼のクリスマスプディングを吟味する。
具合は悪くない。……ん?
「何?」
紙ナプキンの上に舌でそっとそれを送って外気に触れさせる。
それは、指輪だった。
「永久に、って解釈でOK?」
「はい」
ふわりと背中が温かくなる。
「去年、君が選んでくれて良かった」
「クリスマスプディング様様だね」
今年は君の愛を運んでくれたし。
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「見守り続けるのもそうそう楽なことぢゃないね」
「でも、見守り続けないとね」
慰め半分のくちづけ。
「満月で無いだけ良いぢゃ無いですか」
「私達を見ている者は居ないだろうしね」
下弦の月の裏側で、お月さんとお星さんが睦言を交わしている。
クリスマスイブの月齢、22.5。
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「ホワイトクリスマス、かぁ…」
「今の状況?」
「揃い過ぎてるでしょ?」
「これで僕等が萌え尽きていれば完璧だけどね。如何する?」
〜十二月二十六日に於ける或る恋人達のベッド上での会話〜
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では皆様、よきクリスマスを。 (了)
2005.12.3脱稿/2005.12.3UP/2005.12.4加筆
葡萄瓜XQO
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