Web上で実際の性体験を告白している、と切り出すと
面白い様に反応は二つに分かれる。好奇心か冷笑だ。
僕が男で相方も男だから余計にそう言う反応になるのかも
知れない。
実際Web日記…最近はBLOGなんて言い方もされるみたい
だけど…で日常雑事の記録に紛れてそう言う告白を開陳すると
面白い様にコメントが一件も付かなかったりする。そう言う状況を
観てこちらは多分眉唾に思われてるんだろうな、とディスプレイの
向こうで北叟笑んでいるのだけど。
顕示欲と秘匿欲、人を動かす力はどちらがより強いのだろう。
「音声ファイルでも載せてみる?」
「美意識が許さんから止めれ」
布団の中から更新と環境整備。少し寒いから相方の肌を湯たんぽ
代わりにして。一回り違いの相方の肌は滑らかさがなくなってしまった
けど瑞々しさはまだまだ健在だ。
「最初は洒落のつもりだったのにね」
「僕一人で遣るつもりだったのにな…なんで乱入してきたんだっけ?」
「回数の問題だったかな」
「あー、そうか」
確かに納得。相方の歳なら回数も一種のステータス。乱入したくなる
気持ちは判らないでも無い。大人気ないとは思うけど。
「あ、誤字見っけ」
「ん?どこ?」
「その3行目の…うん、其処」
「OA字典ではこっちでも良い事になってんの」
「そーなんだ」
ディスプレイを覗き込んできた拍子に相方の髪が僕の鼻先に触る。
共用しているシャンプーの香りと程好く馴染んだその体臭に、つい
不埒な気分になり、足をじわりと絡ませてみる。
「又一汗?」
喉の奥の笑い。そして、軽く噛まれる耳朶。
「いいの?」
「ネタになるでしょ?」
パジャマの下に手をかけられる。
「更新が終わるまでは俺が遣ってあげるね」
片手でしっかり下半身を剥かれ、そして翻弄される。キーボード入力で
良かった。音声入力なら、間違いなく誤認識の連続になっているから。
「…今日、何か苛めっ子入ってない?」
「泣かせたくはあるね。最近俺ばっか鳴いてるから」
「しょうが無いっしょ。役割ってもんが」
「でも、俺も男」
唇を割られたのと同時に双丘も割られる。
「…!…」
そして内側から開かれてゆく。こう言う感覚は嫌いじゃない。寧ろ、好きだ。
たまには自分自身が原稿用紙になってみるのも悪くはない、と思う様に
なった事実は少し哀しいけど。こう言う状況を整えた文章で書こうとする
から胡散臭く思われているんだろうな。大抵告白文と言うのは妄念の
侭突っ走った文体が多いし。
でも、ただ体液の臭いが漂っていれば臨場感があるのかと言われれば
そうでも無い訳で。
愛撫を受けながら何処か醒めた思考をしている自分ってのは本当に業が
深いと思う。クリスマスの睦言だと言うのに、艶消し甚だしい話だ。
「いっそ、環境も正直に申告する?」
相方も相方でこう言う艶消しな事を時々平気で口にする。
「歳の差萌えで固定客がつくかな?」
「下克上なら尚更ね」
男子中学生に組み伏せられる大学生…萌え、なんだろうか。いや、
小学生に組み伏せられる大学生なら…微妙かも。そう言うマンガも
参考書として読んだ事があるけど、どうもピンと来なかった。微妙に
状況が違っていたからかも知れない。互いに絆された訳でもなければ
遊びの延長だった訳でもない。二人共そう言う自覚を持っていた上で
気付いたら傍に居た。そんな感じ。役割決めも暗黙の内に。尤も
こればかりは現在時々交代するけど。
「太くなったよな」
「まだなんだけど」
「指だよ、ゆ・び」
「そりゃ成長期だし」
「今年もあのセットあげよっか」
「微妙だね」
「良いじゃん。後始末楽だし」
去年の僕からのプレゼントは使い捨てラテックス手袋3ケース。
使い道は…もう充分判って貰えると思う。事の後はシャワー浴びるから
良いと言えば良いんだけど、何となく嫌だし。お湿りは好みと気分の
問題もあるからその場次第って事で。
「薄くても、壁は壁なんだよね」
くぐもった声。肌を滑る熱い息。こう言う瞬間に自分の年嵩故の賢しらさを
感じてしまう。熱い気持ちの侭交じり合ってしまいたいと思っても、足を
引き摺り留めてしまうものが有るのだ。
返事の代わりに唇を重ねる。深く合わせる前に体温を刻みける様に
ゆっくりと。お互い鼻で呼吸できる余裕が出来るまで。
「隔てる為の壁じゃない。判るでしょ」
「もう判ってる。ただ、特別な贈りものにそう言う考え方は無いでしょって
思っただけ」
「ごめん。こっちが甘えてたね」
負うた子に教えられ、なんて老成した気分に浸るつもりはないけど
こういう時には相方の成長を実感して頼もしいなと思ってしまう。
甘えじゃなくて寄りかかりたくなる時があるから。
* * * *
此処まで入力して相方に確認を促す。無言で読み進めていく相方の
横貌の変貌に改めて付き合いの長さを思い知る。成人後の10年なら
そう大した差は感じないだろうと思うが、第二次性徴前からの10年ならば
それなりの重みはある。それだけのクリスマスを一緒に過ごしてきたと
言う事は実際幸せであると言う以外に無いのだろう。
「随分ひねくれた引っ掛けやね」
「フィクションフィクション。此処まで都合の好い話があるなんて思う?」
「んー、現実が現実だから何とも言えない」
「僕等をサンプルにしても仕様が無いっしょ?」
「そやね、兄ちゃん」
一呼吸置いて耳を一噛み。
「まだ足りへんの?」
「こーこーせーだしね」
謳う様にアクセントをつけて強調してみる。じゃれ合いの延長みたいな感じで。
「俺、中坊やし」
含み笑いと共にツボに当る様に耳を噛み返され理性がショートする。
経験値が本能を凌駕した瞬間、かもね。
自分達で始めた戯言とは言え時々眩暈を覚えてしまう。WEB上の文字の
中で戯れている二人が本当の自分達で、今こうして肌を合わせている
自分達こそがフィクションなのではないかと言う錯覚。二人で居て嬉しいと
言う感覚を誇示したいが為に始めた行為と虚構のバランスが少しずつ
崩れ出しているのではないかと言う怖れも少し。
何も思わずに愛されたいと思いながら、時折設定を頭の隅で確認している
自分…熱くなり切れ無いのならば、いっそ完全に醒め切ってしまいたくなる。
ふ、っと肌の離れる感覚。そりゃそうだろうな。ノリの悪い行為ならいっそ
しない方がマシ。ノリの悪さが心因的なものなら尚更止めた方が良い。
今夜はこのまま白けた冷たさの中でお互い寝るんだろうな。
そして、毛布を胸の方に引き集めて体を丸めようとした僕の鼻腔を擽る
匂い。ホットココアだ。それも多分インスタントじゃない奴。
「ごめんな、気ィつかんで」
「…んだよ、いきなり」
「兄ちゃんが何時でも応えてくれるから、俺、兄ちゃんもノリノリや思ってた」
「ノってるよ。今日は調子悪ィ…」
肩に一寸濡れた感覚。
「ネットのあれ、兄ちゃんが嫌なら止めよ?」
濡れる面積が少しずつ広く、熱くなる。
「兄ちゃんしんどくして迄嘘ついて守って貰っても、嬉しないもん」
「この子は如何して言葉でまでツボ突いて来るかねぇ」
成長した相方を改めて愛しいと思ってしまった。天然なのか如何なのか、
よくぞまぁ此処まで好い男に育ったもんだ。
「僕にとっては二人で居る事が幸せなんだよ?」
「うん」
「二人でいる状態を守る為の嘘ならしんどくはならないさ。時々疎ましくなるけどね」
「うん、せやから」
「話はちゃんと聞きなさいって。だからその疎ましさで僕がしんどくなったらね、」
ココアを一舐めして唇を重ねる。
「傍に居て、時々ぎゅっと抱きしめてよ」
ボクガキミノソバニイルンダトハッキリカンジルヨウニ。
今年のクリスマス、WEBの二人は性夜を過ごし本当の二人は静夜を過ごす。
互いにそれが幸せの形だから。 (了)
2005.11.30脱稿/2005.12.3UP 葡萄瓜XQO
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