まだ眠りの中にいたボクの唇になんか生温くて
ぬるぬるしたものが重なる。
なんなんだろうなと目を開けてみるとそこには
の妙につややかに光る顔。いきなり過ぎて
泳いで逃げようとするボクの視線を、無理矢理は
捕まえてニッコリと微笑んだ。
「……おはよう」
「お、おう」
の家に初めてのお泊りをした、翌朝の事だった。
…今にして思えばそれがファーストキス。
ボクの初恋の味は、当時がふんだんに摂取して
いたオリーブオイルの味だった。
小学生がエキストラヴァージンオイルを浴びる様に
摂取してた、と言うのはなんだかなぁ。しかも今でも
その習慣続いてるし。
おまけに、
「チーズ食いたいからって電車一本つき合わせるなよ!」
「だってここの店にしかないんだよ、このチーズ」
……こう言うのがデートの一環だと言うのが、余計に
色気無いと言うかなんと言うか。学校指定のブレザー姿
だから余計にダサくてヤだ。それでも足掛け三年、相当に
相性が良かったらしく、こいつなら良いやと思って
付き合いを続けている。
……そのチーズの匂いで不埒な気分になってしまう自分も
相当に変だとボク自身思っている。ただ、言い訳させて貰えれば
その匂いとのあの部分の臭いがそっくりなのでつい条件反射
してしまうんだから仕方が無い。オリーブオイルの匂いと同じ。
刷り込みって奴かも知れない。
「さー」
「うん?」
「このメニューって…」
「何よ?」
ニャロウ、とぼけやがって。
ボクの条件反射に薄々気付いていて、いつものオリーブオイルと
バルサミコで作ったドレッシングで合えたサラダ、そしていつも一緒に
買いに行くチーズのスライスををわざわざイブの朝食に出す様に
仕向けたのかよ?下心思い切り見えてるっての。
そう言う事なんかしなくても……って、ほだされてどうするんだ。
幾らクリスマスだからと言っても、外せる羽目と外せない羽目が
あるんだから。
「あ、」
「んだよ」
「俺、今夜実家に帰るって言ってたっけ?」
次の瞬間、の顔はボクの噴き出したサラダとチーズと牛乳の
混合物で綺麗にパックされていた。それでも尚むせているボクの
目の前に差し出されるオレンジジュース。
「ご、ごめ」
「先ず飲み込んでから深呼吸しようね」
はのほほんと言いながらキッチンタオルと濡れティッシュで
悠々と顔を拭ってる。それでも、一寸気持ちは悪いらしい。
「シャワー浴びてくる」
「お、おう」
「小母さんにはもう言ってあるから」
「知らなかったのって…」
「うん、多分だけ。言った記憶はあるんだけどな」
「何時?」
「一昨日の夜」
そんな事あったっけ…と記憶を探って、思い出し赤面。
「思い出した?」
にんまり笑ってウィンクを残し、浴室には消えてゆく。
食卓に残ったのは耳まで真っ赤になってるだろうボク一人。
幾ら親公認の仲だとは言っても、こう言う会話を聞かれるのは
流石に恥ずい。一昨日の夜と言うと、ああしてこうして疲れ果てて
後始末もせずに寝てしまった日…だよな。
「あんた、忘れてたの?」
「ゲ!母ちゃん、何時からいたんだよ?」
「何時からも何も、さっきから葱刻んだりしてたでしょうが?」
まっとうなお答えで…平然と会話を続行させている所を見ると
流石にボク達の仲を認めて同居させているお方だと思う。
父親がボク達の関係を理解したがらずにパニック起こしてた時も、
平然として父親を説得してたし。
そう言えば朝食を準備したのって…普通に考えればこの人、だよね。
の悪巧みな筈は無いか。
「変ねぇ」
「何が?」
「今あんたがむせたの、ドレッシングの味付けが変だったからじゃ
ないの?」
「…聞いてた癖に」
「聞こえないわよ。第一、朝惚気に付き合う程暇じゃないのよ、主婦は」
そういって、皿に手を伸ばし、ドレッシングを指ですくって一舐め。
「ン。オリーブもアンチョビも馴染んでる」
「そんなの入ってたの?」
「君から教わって初めて作ったのよ」
そして椅子からずり落ちるボク。あんにゃろ、何考えてんだよ。
これが噂に聞く誘い受ってやつ?
「母ちゃん、が今日実家に帰るのっていつ聞いてた?」
「あたしは先週聞いてたわよ」
「なんで教えてくんないんだよ」
「あんたには自分から言うって君が言ったのよ」
「ふーん」
そりゃさ、確かに聞いたよ?でも疲れた後でこっちが放心してる時に
言うってのは一寸卑怯だと思う。
「イブに一人が寂しいんなら」
「外泊許可?イラネ!」
「即答するわね」
自分の息子をからかって遊ぶのって止めて欲しい。そりゃ、変に
隠し事しなくて済むから気楽だけどさ。親に男同士のあれこれを
知られてるって、かなり嫌かも。公認して貰ってて随分勝手な言い草
だけどさ。ヨメを貰ったんだかヨメに行ったんだかって、なんか
変な気分になっちゃうんだよね。
うーん…にはもう一回言っとくべきだったかな。まあ、言ったと
しても多分同じ事をやってたんだろうけど。
なんだかんだでもう三年。お泊りもキスもその後も計算の上だった、
って言うのはまだまだには内緒。小学生がそう言う事をやってた
なんて言ったら、普通嫌だろうしね。一応公認の仲にはして貰ったけど、
最終的にと同棲するまでは油断できないししたくない。
それにしても思い切り吹き付けてくれたな。真正面から来るとは正直
予想外。牛乳だけなら良いけどチーズにアンチョビも入ってるから
パック代わりだなんてやり過ごす訳にもいかない。
……の口に一度入ったものだから、洗い流すのはなんか勿体無い
気はするんだけど。
それにしても俺のアレの臭いがチーズの匂いって…洗ってるんだけどな
…そりゃ、何も知らなかった時は洗ってなかったけど、さ。
「ごっそさま」
席を立って自分の部屋に戻りかけて、一寸耳を澄ませてみる。
、まだ風呂場に居るのか。
で、一寸思案。そして、自分の服装を確認。恥ずい事しちゃったって
後からぐるぐるしそうだな…でも、イブだからこれ程したって良い、よね。
そしてボクは、風呂場の引き戸に手をかける。
ガラス戸が開いた音に反応してみると、そこにはがいた。
「何やってんだよ」
「さあ?」
服を着たまま風呂場に入ってきたに抱きしめられてキスされる。
駄目。完全に勃っちゃうじゃんよ。も勃ってると言うのが布越しに
判るし。…って、今俺に火をつけてどうするつもりだよ。
「勃ってるね」
「のせいだ」
「チーズで思い出させたが悪い」
「だってさ…一晩でも離れたくないし」
「ボクだって同じ気持ちだっての」
息遣いが身体を伝ってアレに届く。でも、そこまで。息は掛かるけど
それ以上は無い。そのもどかしさが妙な興奮を呼び起こしてしまう。
「舐め…」
「ないよ。帰るまでお預け」
「……意地悪」
「どっちがだよ」
下から聞こえる声。声の出所を両手で掴みたい衝動を抑える間にも、
息は静かに掛かっている。何時の間にか、後ろからは強めの水流を
当てられながら。
「っく!」
触られずに達してしまった。
「やっぱあのチーズの匂いだ」
顔を濡らしたが、妙に無邪気に笑っている。そして重なる唇。
俺の口の中に広がるなんとも言えない味。ホワイトクリスマス、と
言うには少し嫌な味かも。自分の味なんだけどさ。
「続きはいつする?」
「明日の晩。絶対帰るから」
そしてもう一度唇が重なる。 (終) 葡萄瓜XQO
2004.12.5脱稿/UP
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