「ニューヨークへ行きたいかぁっ!」
電話に出たとたんにいきなりこう言われて「オーッ!」と答えない人は
1000人に一人程度なのかも知れない。で、僕はあいにくその一人じゃなかった。
「家族旅行にでも行くの?」
「うん。車でな」
「飛行機じゃ無いの?」
「隣町に行くのに何故飛行機に乗るんだよ」
「だってニューヨーク、って」
「そう言う名前のスーパー銭湯が出来たんだよ」
電話のあっちとこっちの空気が5度程冷たくなる。
「で?」
返事するのが物凄くめんどくさい。
「暇だったら一緒に行かないかなー、と」
「一緒に行きたいの?」
「駄目?」
電話の向こうでも上目遣いになってるのかも。
「何時に迎えに来てくれるの?」
「4時な。で、行くのは俺とお前だけ。帰りの迎えは10時だってさ」
「それってただ風呂に入りに行くだけじゃん」
「ここって、スパ銭、だよね」
「…多分な」
「………趣味悪い…」
黒く塗った鉄筋コンクリートの壁に下品なネオンサイン……って、
お風呂というよりも何か別の建物の様な気がする。
でも、建物の中に入って驚いた。
「ひろーい」
「って言うか、迷路みたい」
確かに、地上2階地下1階吹き抜けつきのお風呂ってちょっとした迷路かも。
「5時間で入り尽くせるかなぁ」
「入ってやろうじゃん」
滑らない様にだけ気をつけて、僕等は駆け出していた。
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「あの時、お前が電話しなかったら俺はここには居ないんだよなー」
デッキブラシを振り回しつつ腐れ縁の相手にぶーたれる。
「そうなんだよな。感謝しろよな」
「誰がだよ。お陰でとんでもない目にあって今に至ってるんじゃねーかよ」
涼しい顔をしているのが癪なので首根っこを引き寄せて体をぴったり密着させる。
浴室係の俺達の制服は、ビキニパンツ1枚。お互いの状態は伝わる熱さでしっかり判る。
「何サカってんだよ」
「お互いだろ?」
「クリスマススペシャルまで我慢しろよ」
「ああ、そうするか」
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2階から外に出る扉を二人で見つけた。
「開けてみようか?」
「開くかな?」
「ガラス戸だから、開くんじゃないかな?
「ふーん」
で、押したら…簡単に開いた。
「……うっわー……」
「きれえだなー…」
目の前に広がっていたのは一面の雪景色。
足跡一つ無いような、真っ白白な雪野原。
風呂でほてった体に冷たい雪が気持ち良い。
タオル巻いてるのが面倒になってきちゃったなー。
「そりゃ」
「なにすんだよ、すけべ!」
「二人っきりだから良いじゃんよ」
「かも。じゃ、そっちも、だ!」
お互いのタオルを剥ぎ取って雪の上を転げ回る。
本当に気持ち良いなー。さらさらの雪で体を洗ってるみたい。
ふわふわ…ふわふわ…なんだか眠い、や。zzzzz.....
気がついたら僕等は脱衣場の長椅子に寝かされていた。
横のテーブルの上にはかき氷の盛られた2つの器。
「練乳がけ、みたいだね」
「あ、カードがある」
カードには「クリスマススペシャルです。お召し上がりください」と書いてあった。
「いーのかな?」
「貰っちゃおうぜ」
そして同時に一口。
うえ……なんか生臭い…。

そして。
ニューヨークで一緒に働く様になった俺達は、
二人してクリスマススペシャルの飾りつけもしていたりする。
「俺達の食ったスペシャルの味付け、誰がやったんだろうな」
「さあな」
スーパー銭湯ニューヨークでは、お子様の御来湯を心より歓迎致します。
2003.12.18 葡萄瓜XQO
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