冬枯れ線路

 
 あの廃線跡に出かけようと思い立ったのは、気紛れじゃなかった。
 呼ばれたような、そんな気がしたんだ。

 誰も居ない筈だと思っていた場所に誰か居た。
 否定と肯定。不安に戸惑い。嬉しさにほんの少しの憎しみ。
 気持ちをぶすくれ顔の下に押し込んで、先に来ていた人影と並んで立つ。
 彼は、何も言わない。
 僕も、言うつもりはない。
 相手が心に思い描いていた相手だからと言って、
 久しぶりなんて笑える程僕は大人じゃ無い。
 増してや何も言わずに立ち去った相手に、今更何を言えるんだろう。
 ドラマの中の女の子じゃあるまいし、さ。

 一吹きのつむじ風に思わず自分を抱きしめた僕の目の前に、相手の腕が伸びてきた。
 其の掌の中にあったのは、缶入りミルクティー。市販品でもかなり甘めの奴。
 どうも、とか口ごもって受け取って、さっさとプルトップを上げる。
 何もされてないという確証は不思議とあったんで、そのままぐいと一飲み。
 甘さと温かさがじんわりと胃から体に広がる。
 でも、何も言ってやらない。
 こんなもので僕の心が開くとでも思ってた?随分安っぽく見られたよね、僕も。
 何も言わずに3年間ほったらかした相手に、どうやって
 言い訳をするつもりなんだろうね。君は。
 僕?最初の1年は罵声とか嬉し涙とか準備はしてたよ。
 でも3年はさ、短いけど長いよ。春が来ちゃえばもう高校生だしね。

 「馬鹿だよな」
 「君が?」
 「うん」
 あっさり頷いて、僕の眼を正面から覗き込んでくる。
 「待たれてないと思ってたけど、落とし前だけはって思って」
 「今更?」
 「今更だから、余計に」
 「それでここで待ってたの?」
 「電話したら来なかったろ?」
 「無駄な事はしたくないんだ」
 「だから僕が無駄な事をしてみた」
 よろめき倒れてしまいそうな理性にエールを送って、もう一踏ん張り。
 「それで帳消しに出来る程3年間って廉いんだ?」
 「廉くは無いよな」
 「ハイ、君の無駄足決定!ばいばい」
 これで良いよね。流石に待ちくたびれちゃったし。
 それに、彼の隣は僕じゃなくて良い訳なんだしさ。
 あーあ、一寸時間かけすぎたせいで、視界が水槽越しモードになっちゃった。
 クリスマスイブにデートもせずにこんな馬鹿やるなんて、
 記念といえば記念だけどさ。
 
 「とりあえず10年間返済、ってのは駄目かな?」
 意思に反して、僕の足が止まる。
 止まるなよ。進めよ。進めったら!…進んでよ、頼むから。
 「何いってんの。判って言ってるの?」
 「今回は自分の言葉をちゃんと理解してるつもりだけどな」
 「もう小学生のおふざけなんて言い訳は出来ないよ?」
 彼に背を向けたままで何とか言葉を紡ぐ僕。
 「あの時、おふざけって事にすれば一緒に居れたのに」
 何言ってんだよ僕。そんな台詞は予定して無いだろ?黙れったら。
 「…そーだよ。あの時なんてただ頬にキスしてただけじゃ無い。
 考えてた事の欠片さえやってない。それなのになんで
 二人が離れなきゃいけなかったの?」
 彼の方を向くもんか。向いたら泣き顔を見られて全てがおじゃん。
 「影でこそこそ言われながら恋愛するって、中坊に出来たと思う?」
 静かに言葉を返す彼。
 「僕は良いけど、君が傷つくのは嫌だったから」
 「陰口じゃ傷つかないよ」
 そう言って、ちゃんと向かい合う。
 「なん、で」
 声がのどでしゃっくりと絡む。
 「今更の告白なんて、ずるすぎるよ」
 やっと言葉を搾り出す。
 「ごめん。居場所の確保に時間がかかったんだ」
 どん。
 僕より少し厚い彼の胸板を叩く。
 どんどんどん。どどどどどん。
 一叩きして存在が確認できて、安心して連打する。
 「契約のしるし、くれる?」
 「ん」
 暗転する視界。そして、唇に残る温もり。




                      2003.12.18 葡萄瓜XQO
 
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