ほんの昔語りとしてお聞き流し下さいませ。
上方の道修町にあった古い南蛮菓子を商うお店で
あったとか言う話を又聞きしたもので御座いますゆえ、
私にも本当かどうかは判りかねますが、
好事家の貴方様には興深く聞いて戴けると思いまして、はい。
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「千代松どん。千代松どんは居てますかえ?」
「へえ、大番頭さん。何か」
「なんですのンや、その小汚いなりは。おお油臭い」
「厨に呼ばれて油運びを手伝ってましてん」
まだちいと甲高い声で大番頭さんに応える丁稚の千代松齢十二、
育ちの割には顔立ちが良く、何だかんだとお店衆には
可愛がられておりましたとか。
殊に大番頭さんには又別の意味で可愛がられておった様で御座います。
「お前様も骨を惜しまん子や。奉公とはそう言うもんやとしっかりお判りの様やな」
目を細めて言う大番頭さんの、その褒め言葉の外に何か臭ったので御座いましょう。
千代松の目が一寸細くなり、息も少し乱れて参ります。
「大番頭さん、あてを呼びはったと言う事は…」
「……えらいあんたも察しがようなったなぁ。そうや、『御座敷』や」
「湯は使った方が宜しいやろか?」
御座敷、という言葉に頬を染め、少ししなを作りながらねだる様に申します。
「いや、今日はそのままのあんさんがよろし。
下の方の始末だけはちゃんとしときなはれや」
「へえ」
「今日のお座敷の趣向はな…」
と、千代松を招きよせ、膝の上に乗せて耳元でしっかりと申し伝えます。
その間に大番頭さんの手は色々悪さをしておりますが、
つまびらかに描くだけ野暮やからあえて申し上げますまい。
ただ千代松が打ち合わせが終わった後にしばらく腰が抜けて立てなんだ、
という事さえお判り下さればそれで宜しいか、と。
その夜の淀川沿いに設けられた御座敷の場の事。
それはかなりしっかりと造られた蔵の中に設けられた座敷で御座いました。
金魚鉢に仕立てた天井だけでも万両の贅沢やとお判り戴けましょうが、
その中で供される料理も御禁制の生臭料理。
さよう、師走の耶蘇祭に見立てた宴で御座いましたそうな。
おおよそ料理が並び、さあこれから宴を始めようかと言う矢先で御座いました。
「大番頭さん」
「へえ」
「例のものは大丈夫ですやろな?」
「今から皆様の目の前で仕上げさせて貰います」
「さよかさよか。それは何よりなこっちゃ」
「千代松も練れて参りましたんで」
「年玉は少し弾んであげんとあかんな」
そうこう話して居ります内に用意が済んだようで御座いました。
緋色の浴衣に緑の帯という出で立ちの千代松が現れ、
座の皆様に深々と頭を下げ、その体から浴衣をさらりとすべり落しました。
「ほお……」
「よお働くお子やと思とったが、それにしては綺麗な肌や・・・」
「汗の匂い加減もまた宜しいなぁ」
千代松の股の間の唐辛子は褒め言葉一つのたびにむくむくと起き上がり、
仕舞いにはたらりと雫まで垂らしておったのでございます。
そして口々に褒め言葉を口に上らせる座の皆様の前でくるりと身を翻すと、
座の中央にしき延べられた薄黄色の布団に身を横たえます。
いえいえ、それは布団では御座いません。
卵をふんだんに混ぜて焼き上げられたかすていらで御座いました。
そして千代松の体の上に、これまた砂糖をふんだんに混ぜて
泡立てた卵白がたっぷりとのせられます。白い肌を覆い隠す白い泡。
千代松の乱れを知る旦那衆にとってはこれ程目の毒なものは御座いません。
首だけを除き、千代松の体はすっぽり卵白で覆われてしまいました。
そして、その上から更にかすていらがもう一枚。
「耶蘇神への捧げ物を模した、今宵の大皿でございます。
ごゆっくりお召し上がり下さいませ」

宴が終わった後の千代松でございますか?
それはもう、下手なありんす様よりも綺麗だったと聞いております。
何でも長じましてからは大番頭を継ぎ、
御座敷丁稚を育てるのに励んでいたとか居ないとか。
その夜に酒が出たかどうかは、手元の書付にはございませんなぁ。
菊酒は恐らく供されたと思いますが。
おお、寒くなって参りましたな。では、これにて失礼をば。
2003.12.16 葡萄瓜XQO
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