とこしえ

 
 浴室のガラス戸に映る二人のシルエット。
 浴槽の縁に腰掛ける青年と、その股間に顔を埋めて蹲る少年と。
 水の音だけが空間を支配している。



 少年の死因は腹上死だったらしいと実しやかに囁かれていた。
 昼夜問わず情交を重ね、その挙句の果ての腹上死であったと。
 事実青褪めた顔色の少年を見かけた人は多かったし、
 その眼差しに尋常ではないものを感じた人も少なくは無い。
 少年が情を交わした相手については、そう大して噂にならなかった。
 というよりも、噂にしようが無かった。
 噂の種に出来る程の情報を、人々は持っていなかったから。



 息遣いと夥しい体液の臭気が空間を支配していた。
 もう何度二人は体を重ねた事か。
 互いの体を貪っても貪っても足りず、
 会話の代わりに体液を吐き出してなおも貪る。
 横たわる青年の額に貼り付いた髪を撫で落とし、
 その屹立に手を伸ばす。
 愛しげに撫で上げて頬擦りし、
 感触を味わっておもむろに自らの後庭に収める。
 既に開かれ花開いた後庭は猛々しい侵入者を難なく飲み込み、
 その体を内壁に塗り込められた体液でしとどに濡らしていた。
 青年の腰の上で上下運動を繰り返す少年の青白い臀部。
 その中で時折見え隠れする菊門だけが鮮やかに色づいている。
 時折上体を重ね、口を吸い、
 青年の頬に飛んだ少年自信の体液を舐め取る少年。
 その眼差しは既に常世を離れた者の様であった。
 口走る音声は疾うに意味を生さぬ喘ぎ声であったし。
 少年の、そこだけが既に搨キけてしまった薄き叢の硬直は、
 絶える事無く欲を吐き出し続けていた。



 浴室の中に揺れる、細かく夥しい泡。
 その泡は青年の体を隈なく包み、
 彼を抱きしめる少年の肌にも移り香を残していた。
 その泡は一瞬たりとも絶える事は無い。
 まるで青年の肌から湧き出しているかの様に。
 泡がはじけて薔薇の香りが広がっていた。



 交差点に固定されたゴミ箱が倒れて、中身が散乱していた。
 聖夜の華々しさと好対照の塵芥。そして思いの残骸。
 その中で一葉の写真は妙に異彩を放って幾人かの目を惹いていた。
 幸せそうな笑みを浮かべて絡み合う、
 青年と少年の裸体。
 彼等の愛の情景の舞台は、只々真っ白だった。
 ひときわ美しく輝く、
 二人の薔薇色の頬と体液に濡れているであろう屹立。
 二人の息遣いがそっくり聞こえてきそうな、そんな一葉の写真。
 人々が惹かれたのは、
 淫猥さと言うよりもその幸福感故にだったのかも知れない。



 人形師は写真立ての前にブッシュ・ド・ノエルを置いた。
 少し考えて、クリスマスと銘のある室内香を焚く。
 写真立ての中には青年と少年が見詰め合う瞬間が鮮やかに残されていた。
 彼の手元にも二人の充分な情報は無い。
 只彼は少年から2回依頼を受けた。それだけだ。
 只それだけの関わりだが、
 それでも彼は恋人達の魂が安らかである事を祈らずには居られなかった。
 彼のこの仕事は、それ以降も世に知られる事は無かった。
 彼の最高の仕事であった、にも関わらず。



 横たわる人形の左手薬指に輝く安物の三連リング。
 同じ物が少年の指でも輝いていた。
 『…が二人を分かちても…』
 呟いたのは少年だろうか、人形だろうか。

                     2003.12.15 葡萄瓜XQO
 
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