ふと見上げると、針金細工のクリスマスツリーが揺れていた。
金メッキのため光っては見えるけれど、
この部屋に長くある所為で細かな埃に塗れている。
真っ白な埃なので、雪に見立てようと思い込む事は出来る、けど。
「コップに入った日本酒と水と、間違えて飲んじゃった事があってさ」
「んん?」
僕の問わず語りに首の動きを止めて律儀に応じる彼。
彼の唾液でもう一人の僕は雫滴るいい男な状態になっている。
「で、どうした?」
「初めての飲み物って、飲む時にむせちゃわない?」
「……あー、皆まで言うな。
お前さんの連想がどこに飛んだか判ってしまったから」
首を二回強く振って行為を続行しようとする彼。
「ねえ、そう思わない?」
今は彼の舌よりも質問の答えが欲しくて、強引に彼を止める僕。
「無粋な子だね、全く」
「だって、気になっちゃってさ」
「まさか夜も眠れなかったとか言わないよな?」
「勃たないといけないからドリンク剤一気してきた」
「……んっとにこの子は」
苦笑いをしつつ布団の上であぐらをかく。
彼自身は唾液を使うまでもなく、
実にいい濡れ具合になっていて、僕はつい食欲を覚える。
「あれってさ、どっちかというと飲み物じゃなくて食い物だよ」
「そうかな?」
「歯応えの無いゼリー寄せみたいなもんか」
「ふーん」
「飲み物って言うなら、先走りの方が余程じゃないかな」
「でもあんな飲み物ってあるの?」
「ない事はない」
そして一呼吸と片頬の笑い。
「昆布の戻し汁とかな」
顔を見合わせて5分の沈黙、そして近所迷惑と思われる爆笑。
「っな、何で笑うんだよ。僕は真面目にだな、」
「そんな質問を真面目にするからだよ。
全く、今の拍子で少し元気を無くしたじゃないか」
確かに。さっきまで180度近くまで跳ね上がっていたのが、
今はせいぜい45度程度までになっている。
濡れて光る様子は相変わらずそそられるけど。
「味、確かめたいけど?」
「余分な味ついてるかも知れないけど、良い?」
「……莫迦…」
彼の下肢の間に沈む僕の耳たぶは、多分真っ赤だったと思う。
彼を愛する際のタイミングを掴める様になってから3年。
お互いの気持ちに気付いて恋人と振舞いだして7年。
トモダチという事になってからもう10年。
5つ年上の男相手に何やってるんだろうな、
と思った事もあったけど、もう馴れっこになってしまった。
彼とその周囲が余りにも変わらないから。
炬燵の上のクリスマスツリーにしたって、
トモダチ一周年記念に僕が100円ショップで買って渡したものが、
其のまま今日まで来ている。
此処まで時間が止まった感じだと、
もうこの点についてツッコむのも疲れるし。
変わったと思うのは僕の体と心。
8歳から18歳になるに従って子供から少年を経て成長した僕の体と、
彼に対する性的な独占欲の生まれてきた僕の恋心とも言うべき感情。
それでも、彼と対等になるにはまだ時間が必要かも知れないな、
と舌の上に弾ける彼の味を感じながら、思っていた。
顔を引き寄せられて唇を重ね、そして下肢をまさぐられる。
「飲むだけじゃ、足りないでしょ?」
「いいの?」
「久しぶりだしね」
誘いに乗って、体を重ねる。
こういう関係だと成長しきってしまうと捨てられる、
と風の噂で聞いて怯えた事もあった。
その時既に彼の存在は僕の一部だったから。
彼を抱くという選択肢が生まれる時が来るなんて、
思いもよらなかった時の話だ。
「…力任せ、過ぎ」
ふと感じた嬉しさに腰が暴走していたらしい。
首を引き寄せられて、耳元で囁かれる。
そして、とがめるような言葉とは裏腹に下肢で絡めとられる僕の腰。
「大丈夫だから」
「……え?」
「お前さんが悲しむようなさよならは、言わないししないから」
そして、目頭に熱いものを感じている僕と、深く舌を絡める彼。
その瞬間に達して、其のまま体を重ねていた。
「ごめん。一寸退いて」
行為の余韻でまどろみかけた僕を押しのけて、
彼がこたつの上に手を伸ばした。
「なんなんだよ、いった」
「悪いね。今丁度10年目経過した様なんで」
言葉と共に差し出されたのはビロード張りの小箱。
「コレって…」
「指輪は無理だけどね。せめてもという事で」
白い輝きを放つピアスを、掌で転がしてみる。
胡麻粒より少し多きい程度の石が、今はこんなに重い。
「穴はまだ開けてないよな。明日一緒に行こう」
「耳にはつけないよ」
「しまいこむのか?」
頭を振って、体の一点を指差す。
「此処に着けて。その方が、確認し易いでしょ?」
彼は返事代わりに軽く笑って、僕の左乳首を舐めた。

2003.12.15 葡萄瓜XQO
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