番茶も出花と言うけれど 拾壱
月四朗は、己の指が編み出していたのとは
又違う感覚に戸惑いながらも身を委ねていた。 人参も月四朗の指も菊座で感じる堅さはそ
うそう変らぬ筈ではある。指の方が自在に動
く分人参よりは当たり具合も良かった筈だ。 にも拘らず、月四朗の体は人参の紡ぎ出す
快楽を善きとし、酔い痴れていた。菊座を突
かれる事に対しての快楽だったのやも知れぬ。
酉次は初めそろりそろりと人参を揺らせて
いたが、月四朗の酔い加減を見て取るとじわ
りじわりと動きを激しくしていった。人参の
当たり具合が柔らかく、月四朗の菊座も蕩け
ているとは言え太さが太さだ。余り突き入れ
すぎて中を傷つけたら元も子もない。店伝来
の張り型で慣らしている内に菊座が裂けてし
まった朋輩がいた事を知っているだけに慎重
になる。 が、月四朗の乱れ様に己の心が騒ぐのもま
た事実。酉次は、いっそ己が身で月四朗を慣
らしてしまおうかと思いかけていた。
「あに、さ…」 呼べば良い。俺はここにいる。 「あに、さァ…」 どうせ逆縁の穴でつながる縁。血がどうこ
うと言うのは却って野暮だろうさ。 そう心の中で一人ごちて月四朗に覆いかか
ろうとした刹那であった。 「か…ぜ…あ…」 気付けの冷や水には充分過ぎる声だった。 動きを一瞬止めた酉次であったが、首を二
振りし月四朗に臀で気を遣らせようと手管を
尽くす。もうかなり蕩けている筈だから、上
手く突き入れる事が出来れば大丈夫な筈だ。 突き入れ様に、月四朗の耳元に声色でそっ
と囁く。 「遣っちまいな、月」 そして一突き。 月四朗は、精を飛ばし仰け反ると、失神し
て伸びた。
酉次は月四朗を布団にきちんと寝かせると、
窓にもたれ煙草盆を引き寄せて一服つけた。 端からそうだと承知していた筈だ。そして
自分はそうと知って後押しをしていた筈だ、
と心の筋を確認しながら。 「声色でさえあいつが良いのかよ」 風三郎の声音で囁いたのも手管の一つの筈
だった。しかし、いざその手管で月四朗が気
を遣ったのを見てしまうと、何とも言えぬ気
持ちがこみ上げる。 「惚れた腫れたが負け始め、か。全く、幾
つになってもヨォ…」 無邪気に寝息を立てている弟の顔を見て酉
次はただ寂しく笑うしかなかった。全く、神
様とやらはややこしい縁組をなさるものだ。 でも、月四朗を掻っ攫うつもりもない。月
四朗の心が風三郎の元に向いている以上、体
だけ掻っ攫っても空しいだけだろう。 「兄に生まれちまったものナァ。仕様がネ
ェ、か」 溜息をついて新たに一服つける。いつも喫
っている葉とは違い、気を奮い立たせる為に
喫う辛くきつい喫い味の葉だ。 酉次は、再び人参を火鉢の灰に埋めていた。
月四朗の菊座を今少し拡げておかないと、人
の身を突き入れるには少しきつかろうから慣
らしておかねば、と思いながら。 (2007.1.22) 続 |