春と来い
『明けま』ドカッ!
『mしてお』ドゴッ!
『m目でt』ドスバキボキ!
ここまで蹴り殴りが入っても起き上がり小法
師みたく会話を続行できるのは絶対特殊技能や
と思うわ、ホンマ。
「とうさん」
やっとそれだけの台詞を言い終えて…えーい、
ニヘラと笑うな!鬱陶しい。
「日本の正月はいつから三月一日になったん
や!大ボケこくのも大概にしいや!」
「それが長旅から帰って来た相方に対する態
度なんか?えらいイケズしてくれるなぁ」
「イケズなんはどっちじゃ、ボケ!一人だけ
さっさと受験地獄から脱出してからに」
「お前も誘ったやんか。でも…」
「ああそうや!どうせ俺は家に居る事選んだ
へたれじゃ!でもな、家出たくても出れん奴も
居るんじゃ!」
これに便乗して涙流しとこ。素に戻って泣い
たら又何思われるか判らんし。
「でもな、オレかて損はしてんねんで」
「どうせ毎晩寝付かれんとかそんな程度やろ」
「ずーっと一味足りんままやった」
そっぽを向いた俺の背中に額だけ押し付けて、
呟くように言って来る。
「去年までずっとお前の味付けの蕎麦食って
雑煮食って年明かしとったんやもん。それが今
年の一月一日には無かった」
「当たり前やんか。真空パックで送ろうにも
お前、連絡いっこもしてこんもん」
「一緒に居ったら送って貰わんでもええのに
な」
「せやな。丸餅でええんやろ?」
「里芋も入れてな?」
「白味噌は無いからみりんで味調整しよか」
「うん」
「ほな、来ィや。一人で留守番せなあかんか
ったから暇でしゃーないねん」
「ごめん、オレ下着持ってこんかった」
「俺のサラがあると思うからそれ使えや」
「うん…ええの?」
「今更聞くか、このアホは。正月しに帰って
来たんやろ?」
そして手を引いて強引に歩き出す。頬が緩み
そうになって震えているのは、とっくに自覚し
てる。
枕元にマグカップと灰皿を置いてやる。俺等
去年まで中坊やってんけどなぁ…味覚えてしま
った事とは言え、一寸なぁ。
「んー」
「なんやねんその唇」
「判っとる癖に」
「ほな約束な。来年はせめて旧正月に帰って
来るて」
「たっかいキスやなぁ」
「5回やった癖に何抜かす。オプションでも
高すぎや」
「うん、せやな」
布団の上に、全部丸見えのまま正座して、三
つ指。
「来年は頑張って帰って来るんで、にしん蕎
麦もプラスで頼んます」
「ほな、手付な」
そして、ゆっくりとキス。
2004.1.13脱稿 2007.3.23up
かつて印刷物として発行したもの。
印刷スペースありきから書き始めた話。
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