静かな感情      

 「ざまぁないですね…やっと自覚するなんて」
 アルの呟きだけが、ずっと頭の中に響いている。

 遊園地から帰った夜遅く、俺達特有のテレパシーであいつに呼び出された。
 「んだよ」
 「昼間の答え、まだ聞いてませんでしたね」
 「……」
 「自覚してないんですか?それとも」
 「?」
 「認めるのが怖いんですか?奈子さんに縛り付けられたいと自分が願ってい
るって」
 「何言って…」
 「君は自覚が無さ過ぎますよ。美佳にしてもケビンにしても、君は普通に接
しているつもりでしょうけど、彼らが望んでいるのは……」
 「恋愛感情に近いってか?」
 我ながら冷たい声だよな。感づいてたさ、それ程。俄かに認めたくなかった
だけで。

 殊更のモーションがあった訳じゃない。最もケビンの場合は現実逃避の一部
だったし、美佳の場合は女に免疫が無いだけの話。俺だってそっちの連中を知
らない訳じゃない。女相手より少しややこしいだろうな、とは思うが。

 「判ってたんですね。まあ、君のことだから」
 アルの声には全く感情がこもっていない。それで居て口調はずっと激し
い。…心底から怒ってやがるのに、何故視線を合わせようとしない?
 「何に怒ってるんだ、お前?」
 「……」
 「黙ってちゃ俺だってわからねぇよ!いったい何だってんだ!」
 「そう、ですよね。言葉にしなきゃ判らないこと、ですもんね」
 自分に言い聞かせるように呟いて、俺を真正面から見つめる。
 「好きだったんですね、君のこと」

 その後の事は全く無様だがはっきり覚えていない。アルの事はずっと親友と
しか考えていなかった。多分必死で自分にもアルにも言い聞かせていたのだと
思う。
 ただ一言だけ、あいつの呟きをはっきり覚えていた。
 『ざまぁ無いですね…やっと自覚するなんてね』
 繰り返し繰り返し、ずっと頭の中に響いていた。

 それは一夜限りのこと。
 それ以降お互い口に出しては言わない。でも俺の中でその感情は生きている
し、あいつの中でも生き続けているだろう。
 LOVEなのか、LIKEなのか、曖昧なままで…。

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