射真 sha-shin
テーブルの上にはポテチ三袋に三角サンドイ
ッチ四つ、メロンソーダ入りのペットボトルが
五本にシュークリームが無造作に入ったケーキ
屋の紙箱が一つ。
それが今日の僕等の芝居の舞台。
「リラックスリラックス。もっと自然に」
『んな事言ったって無理だよね』
『無理無理。だってこの後何やるか皆判って
るじゃん』
『シャワーしてるよな?無論』
『いけね、僕忘れてた』
『お前、奉仕役決定な』
『…痛くしないでね♪』
『クリームまぶせば良いじゃんか』
『だーほ、あの味はクリームじゃ一寸無理だ
って』
『ねー、誰かゴム持ってる?』
『持ってる訳無いじゃん。使う相手まだ居な
いのに』
少年達の喋っている光景を、カメラは静かに
捉えている。
彼等が写真に写る動機は、小遣い稼ぎと後腐
れの無い快感の為。
一人でなら怖い。幼馴染との二人だと気恥ず
かしい。だから兄ちゃんも誘って三人でやって
たけど何か物足りない。だからもう一人、興味
ありそうだった幼馴染の弟を引き摺り込んだ。
『四人の間で全部やっちゃえば平気だよね』
誰言うとも無く言い出して、そして、話は決
まった。
四人の間でなら、どんな体の触りっこでも平
気。知らない人じゃないから、まだ安心できる
し。それに、どんな悪戯で気持ち良くなるかっ
て事は、体が覚えてる。
『んだよ、もぞもぞして』
『納まり悪いの!勃っちゃってるから』
『ジーパンにすっからだよ。トレーナーで良
いじゃんか』
『だっせー』
『るせーよ。どうせ汚れるんなら後始末楽な
方が良いんだっての』
『着たまましたい訳?』
『ガキの胸見て嬉しい奴いるかよ』
『居るよ、あっち』
耳元で囁いてカメラを盗み見る。
『だから小遣い稼げるんじゃん』
『ふん』
すね気味にほほを膨らましたのを見て取って、
耳たぶを軽く一噛み。
『▲?■※!』
『今日は兄ちゃんに挿れたい。駄目?』
『駄目、じゃないけど…洗ってないぞ?』
『中は洗ってるでしょ?』
『うー』
『兄ちゃんの汚れなら平気だし』
『じゃ、俺口でしてね』
『二人相手かよ』
『三人だよ。シーツの上に出すって空しいで
しょ?』
そんな会話をカメラの前で出来るんだから、
相当神経が太くなったのかも知れない。
カメラマンがふと顔を上げてこっちに向かっ
てきた。
「何?」
「いや、手順一つ忘れてた」
そしてポケットから取り出したのは…出まし
た!天下の宝刀浣腸パック!それもメイドイン
ジャパン。
「僕等に使えって?」
「他に誰が使うんだよ」
苦笑しつつ僕等の髪をぐしゃぐしゃ掻き回す。
「セット崩れるじゃん」
「崩した方が良いんだよ。日常の一場面なん
だから」
「なし崩しにやっちゃうガキがどの世界の日
常に居るんだよー」
「二次元か四次元には居るかもな」
時々このおっさんも変な事を言う。僕等がそ
う言う写真撮りたいって言う話をしてたのを聞
きつけて仕事があるって誘ったのはこのおっさ
んなのに。なんか他の大人の話聴くとそう言う
世界では名前が出ないだけで有名な写真家?ら
しいけど。
「結局生身の写真だってのに結構な数で妙な
夢持ってる奴が居るからなぁ」
「でもさ、中には汚れが良いって人も居るん
でしょ?」
「それだって現実を受け入れてる訳じゃねぇ
けどな」
被写体のガキ相手にこう言う会話をしてるっ
てのが一番妙じゃないかと思う。おっさん達に
とって僕等の裸は商品にしか過ぎない訳で、僕
等もその辺割り切ってヤッテル写真を撮られて
る、筈なんだよね。少なくともこのおっさんと
の「仕事」以外はそうなってる筈。
でも、なんでこのおっさんとの仕事中だと自
分のやってる事の意味なんて考えちゃうかなー。
ガキの裸見たがる大人が居て、裸になれば金が
貰えるって思うガキが居て、ちゃんとギブアン
ドテイクが成立するじゃんかって思ってたけど、
世の中そんなにタンジュンじゃ無いのなぁ。
「じゃ、トイレ行くついでにシャワーも良い
んだろ?」
「ああいって来い。皮の間もちゃんと洗えよ。
ちゃんとして貰うんならな」
「折角濡れてるのにな」
「若いんだからどうせすぐ濡れるだろ。後は
シャワー浴びなくて良いのか?」
「後にしときまーす」
「一緒だと兄ちゃん襲っちゃいそうだし」
「るっセェな!」
思い切り年下にからかわれちゃってるなー…
この「仕事」やってみて兄ちゃんのこう言うカ
ワイイ部分見つけたってのは得と言えば得なの
かも知れない。普通の感覚じゃないって判って
るけど。
そう思ってにやけてると、不意におっさんに
股の間を撫でられた。
「なんだよぉ」
「お前と兄貴、そろそろ別の仕事も良いかと
思ってな。その成長加減だと」
「お払い箱にはしないんだ?」
「若い男の体は需要が更に増えるし、お前等
は崩れが少ないしな」
「育ち盛りだから保障できないよ?」
「被写体引退後はカメラマンも良いぞ。その
気があったら教えてやるけど?」
「考えとく。顔ばれしちゃってるから普通の
仕事出来ないかも知れないし」
「……気の毒したなぁ」
「おっさんのせいじゃないってば。顔出した
方が貰える金が多いからってんで自分で決めた
んだし」
家計の足しにもなるしね、と胸の中でこっそ
り付け加える。
「あのセットの分、全部喰ってけや。新鮮じ
ゃないけど、食いではあるだろ」
「どうせならパーティからなし崩しって設定
にすれば良かったのにね」
「そうだよなぁ」
苦笑いする不意をついて、おっさんの両ほほ
に連続キス。一応お約束でね。
「やってくれるな、マセガキが」
そして肩を叩かれる。
「さて、良い表情で写ってくれよ。兄貴が戻
ったら撮影開始な」
「はあい」
カメラのレンズが、煌めいた。
2004.2.26脱稿 2007.3.23up
かつて印刷物として発行したもの。
印刷状態のサイズから文字数を
逆算して物語を構築した。
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