新月過ぎて
蘆鷹彦は、その声を意識の底で聞いた。
『これが、人間の身体なのか。頼りないものだな』
『貴方にしてはね。そんなに華奢になるとは私も
思わなかった』
『お前も主人に較べては華奢だな?』
『蘆鷹彦は存外逞しいからね』
ああ、と合点する。片一方は耶久留に間違い無い。
そうするともう一人は?彼もまた化身の術を身に付
けていたのか?
「ああ、気が付いたか」
星明りの下に浮ぶ二つの裸形。焦げた色の肌を持
った穏やかな顔の青年と雪よりも白い肌を持った大
人になりかけの少年。
「臆しているのか?」
少年の問い。
「ここは神の森だった処。何が起ころうと不思議
ではない」
身を起こしつつ答える。
「耶久留よりも、年は下だったのだな」
「笑うな!弟なのだから仕方ないだろう」
夜目にも頬が赤らんでいるのがわかる。
「耶久留の化身、初めて観たな」
「観せる機会が無かったからね」
耶久留であるところの青年は、微笑みながら返す。
「私と蘆鷹彦が一緒に居た中でも、化身が必要な
場面なぞ無かったからね」
「そうか?」
「少なくとも古郷ではな」
一脈通じた様に、笑う。
「目のやり場、には困らないけどな」
「自分のもので見飽きているか?」
「そうでもない」
そして、二人して少年の方を見る。それも、中心
を。
「人間は、」
少年の問い。
「同じ性の者に思いを寄せるとこうなるのか?」
「全てが、では無い。そうなる者も居ると言う事
だ」
少年に手を伸ばしつつ耶久留が言う。
「一度楽になった方が良いだろう。任せておくが
良い」
巧みな指使いだ、と思いつつ蘆鷹彦は衣を解く。
下帯までも解き、生まれたままの姿を夜の風に晒す。
蘆鷹彦の中心にも、力が漲っていた。
「蘆鷹彦も、そう言う者、か?」
喘ぎ声の中での少年の問い。
「この旅で図らずも自覚した」
「姉はどうする?」
「彼女は同胞だ。残念ながらな」
目を伏せて、静かに言う。
「そうか。なら」
「ああ」
静かな口付けと同時に、少年は精を放った。耶久
留の手の中で。
「名を、まだ聞いていなかったな」
「まだ無い。くれぬか?」
「風令、はどうだ?」
「良い響きだな。貰おう」
深い口付けと同時に、お互いを抱き寄せる。
その二人の身体を、耶久留が舌で清めてゆく。
その舌が風令の後ろに伸びた時に、彼は初めて抗
った。
「嫌なのか?」
「そうでは無い。お前の為に解すのか?」
「そうでは無い。解さぬと辛いだけだ」
「なら良い」
あとに響くは静かな喘ぎと汗の音。
過ぎ行く新月は、三人を静かに見守っていた。
(2003.2.16)
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