ねくたいかんで

 メイリウの咽元で蝶ネクタイが揺れている。僕から
観ると締まり気味で苦しいんじゃないかって思えるん
だけど、当のメイリウにするとそう言う事は無いらし
い。眺めとしては良い。白い肌の上で臙脂色の蝶ネク
タイが揺れているのは。
 そしてもう一箇所。メイリウのペニスには同じ色の
リボンタイが巻きつけられている。あっさりイってし
まわない為のおまじない。直腸の中には電気で揺れる
卵が二個。
 「せんぱ…ぃ…い…ん…」
 「先輩、じゃないでしょ?」
 「レ、みゅ…ウ…」
 「…まあ、合格点。まだイかないでね?」
 そして僕はメイリウの舌をゆっくり味わう。

 メイリウが僕専用の愛玩生徒になったのはつい先月
の事。それまで彼は彼のクラスの共有愛玩生徒だった。
クラスの連中が合間を見ては可愛がるものだから、メ
イリウには服を着る暇も本来の生徒としての行動をと
る暇も無かった。
 愛玩される事自体はメイリウの性格にも体質にも合
っているらしく問題はなかったのだが、だからと言っ
て生徒の本分を果たせないのは本末転倒だろうと言う
事で対策が練られ、結果彼の身分は上級生である僕が
管理する事になった。以来彼は授業以外の時間は僕と
共に過ごしている。
 この様な例と言うのは過去にもあった。担当者によ
っては何某かの報酬と引き換えに管理する愛玩生徒を
他人に貸し出し、結果共有と変わらぬ状況を発生させ
る事もあった様だが、僕はそう言う事はしなかった。
報酬の誘惑には少しよろめいたが、それ以上にメイリ
ウ本人からの誘惑が大きかったのだ。
 それにもう一つ、メイリウの素材としての資質にも
僕は惹かれた。彼はきちんと調整さえ施せば将来管理
者として非常に優秀な手腕を振るう様になるだろう。
僕自身、愛玩生徒からの転身組だ。仕込んで行く為の
ステップを踏みたくもある。
 と、七面倒な理由を拵えて置けば外側から理不尽に
見える関係も、少しは合理性に基づいて発生した関係
であると認識して貰えるかも知れない。そう考えてし
まう自分の小賢しさに時々嫌気はさすが、これも一つ
の自己防衛と思えば必要な手間なのだろう。

 学校の制服はおおよそ定まっているが、ネクタイの
形状については色が臙脂色でさえあれば自由にして良
いと言うお達しが出ている。だから我が校の中では蝶
ネクタイ・棒タイ・リボンタイ・ニットタイ・アスコ
ットタイ・ボヘミアンタイ・ループタイ・フォアイン
ハンド(普通のネクタイ)が見事に混在している。大
体の生徒は一つの形に納まっているが、洒落者を気取
ったり色々事情がある生徒は常時三つ程度の型を代わ
る代わる遣っている様だ。
 メイリウはその点かなりの欲張りらしく、全種類を
きちんと制覇しているばかりか予備も最低一セットは
用意している様だ。ただ、襟元のピンだけで留めるス
ナップタイだけは持っていないらしい。こう言う時に
使えないからと言うのがその理由らしい。彼らしいと
言えばらしい話だ。
 そう言う彼の選ぶネクタイの数々なのだから、実際
美しくもあり機能的でもある。素材のせいか素肌にま
とっても色褪せず貼りつかず、適度にまとわりつく程
度に美しさを保っているのもまた良い。
 彼は実際、共有愛玩生徒から共有愛玩物と成り果て
てしまった時でもネクタイだけは着用していた。それ
が彼自身の生徒であるという意識の砦であるかの様に。
その一点の凛々しさが彼の現在を導いた、と言っても
良い。

 メイリウの舌を味わいながら発汗の度合いを観察す
る。専用に転身した最初の頃に比べれば発汗量は増加
していると見て良い。発汗量が多くなっていると言う
事はそれだけ交接行為に対しての集中力が向上してい
ると言う証なのだろう。実際のところ、共有愛玩を長
く経験した彼の体は最初かなり冷えていた。交接行為
に関してもほぼ惰性で受け入れていたに過ぎなくなっ
ていた様で、括約筋の収縮力もかなり落ちていた。
 だから、彼を僕専用にしてからは先ず全身の再調整
から始めた。愛玩生徒は娼夫ではなく、心身調整の為
のパートナーなのだ。交接を行うにしてもただ吐精さ
せれば良いのではない。肉体的な吐精だけならば専用
の自動人形が各教室に一体設置されている。
  吐精と共に心身のケアをしていくのが愛玩生徒との
交接だ。ケアならば快楽を伴った方が効力も上がるだ
ろうという考えの下、愛玩生徒の調整は日々行われて
いる。
  愛玩生徒の発汗を嫌がる人も居る様だが僕は好きだ。
しっとり湿る程度の汗も肌を滑らせるまでに流れる汗
もそれぞれ風情があって良い。愛玩生徒の汗の薫りに
包まれての寝覚めと言うのもまた良いものだと思う。
僕自身が汗の薫りをを褒めて貰って嬉しかった事があ
ったので思い込みもあるかも知れないが。
  メイリウの汗の薫りも実際好ましい。汗腺の手入れ
がきちんと行われているので必要以上の香気は出ず、
それ故寝台上でのアクセントとしてかなりの効果が発
揮されている。時に舌でも味わうが、それもまた良い
味わいを醸し出している。
  でも、とりあえずこの辺で休憩を挿れよう。夜は長
いのだし。

  適度に汗をかいたグラスをメイリウに渡す。彼の好
みは甘味を強めに利かせたミルクティー。エネルギー
補給の為もあるのだろう。
  「飲んだら、シャワー浴びる?」
  「いえ、良いです。後の調整後でも」
  静かな口調。その口調とは裏腹に確り屹立し存在を
主張する彼のペニス。そのペニスからも微かな芳香が
漂っている。
  「まだネクタイは持っているね?」
  「ええ。好きな様に遣ってみて下さい」
  「先に言っとくけど、体力を過度に消費しても明日
の授業は受けさせるからね」
  「はい。当然ですね?」
  「身分は生徒だからね」
  言葉を交わしつつ僕も彼に倣い素肌になって蝶ネク
タイのみまとう。これは確かに快感だ。愛玩生徒だっ
た頃にこの快感を味わっていたら、どうなっていたか
一寸自信が無くなる。
  「感じますか?レミュウ」
  「かなり。君は自分でこれを知ったの?」
  「ええ。偶然でしたけど」
  二人して姿見の前に移動する。僕の背後から体をま
さぐるメイリウの指。メイリウの指は僕の体に電流を
迸らせる。背中を突付くメイリウの屹立はいつも以上
に蜜を滴らせていた。
  「才能、あるな」
  「レミュウの真似をしているだけですよ」
  「復習もしていない?」
  「……ゴメンナサイ。休み時間の合間に、少し」
  「熱心だな」
  「気持ち、良いから」
  「じゃ、今日の課題。この体勢から僕の絶頂を導く
事」
 「時間制限は?」
 「なし。但し道具は君の持っているネクタイに限定」
 「………レミュウって、結構」
 「何?」
 耳たぶを噛まれながら囁かれる。
 「淫乱、なんですね」
 「元・愛玩生徒だしね」
 そのまま、流れでディープキス。

 先ず、フォアインハンドでペニスと睾丸を拘束され
る。締められてみて気付いた。彼のフォアインハンド
には芯が入っていないのだ。恐らくこう言う用途にも
遣える様にした結果だろう。
 「きつくないですか?」
 「もう一寸きつめでも良いかな。好きなんだ、こう
言うの」
 「拘束された経験ありですか?」
 「本格的に、では無いけどね」
 姿見に映る僕のペニスは欲望の出口を求めて猛って
いた。自分の物ながらつい欲情をそそられてしまう。
 「失礼します」
 不意に、視界が赤に染まった。僕の目がアスコット
タイで塞がれたのだ。
 「これも技法?」
 「この際ですから、練習させて貰います」
 「積極的で良いね」
 もう後は言葉を交わせなかった。僕の口には轡の様
に、メイリウのニットタイが噛まされたのだから。
 そして再びウ僕の体の上を這うメイリウの指。両手
はやがて胸の上に留まり、乳首を撫でては摘み撫でて
は摘み、と痛みと愛撫を交互に繰り返しつつ僕を悶え
させた。
 声を出せれば少しは耐えられたのだろう。しかし、
声は轡によって封じ込められ、快楽の証は涎と言う形
で僕の唇からあふれていた。
 塞がれた視界もまた快楽を引き出すのに大きな役割
を果たしていた。己が痴態を視界で確認できない以上、
脳裏に想像図を投影するしかない。そしてそう言う想
像図と言うのは概して実態よりも淫らで生々しいもの
なのだ。
 そして仕上げに耳元に響くメイリウの息遣いだ。
 手練れた者ならば言葉を尽くして更に痴態を引き出
そうとしたのかも知れない。しかしメイリウにはそう
言う余裕は無かったらしく、ただ荒い息遣いを僕の耳
に吹き込むばかりだった。その息遣いが却って僕を絶
頂に追い遣ったのだ。
 そして僕は達した。メイリウに課題を与えてから二
十分後に。その瞬間の事は意識を手放したので覚えて
いない。

 「…ミュウ、レミュウ」
 囁きと体に与えられた振動で意識が浮上した。瞼を
開けるとそこにはメイリウの心配顔。
 「ああ、おはよう」
 「よかったぁ…。完全に力が抜けていたから、てっ
きり」
 「そこまでやわじゃないさ。それにしても、初回か
ら見事な手腕だったね」
 「そんな、全然。もう余裕なんて少しもなかったで
す」
 「その反省点は次回への課題にしよう。じゃ、後は
戯れの時にしないか」
 笑いかけて、力を失いかけつつも辛うじて元気を保
っている彼の屹立を一撫でする。
 「レミュウ…」
 「今日は、上に来てくれる?」
 「はい…」
 軽く唇を重ねて僕は身を伸べる。彼とのくちづけ一
つでもう僕のペニスは回復し、うっすらと先走りの薫
りを立てていた。
 メイリウはそのペニスにアスコットタイを軽く巻き
つけ、その布地ごとしなやかにリズムをつけつつ擦り
あげる。程なくして、ペニスの芯はより強固なものと
なった。
 「じゃ、行きます」
 とりあえず宣言してから彼は僕の腰の上にまたがり、
ペニスを後ろ手に固定しつつ彼の直腸に納めてゆく。
直腸は二個のローターのお陰で程好く解れ、僕のペニ
スをしっくりと絡めとり、快感の蠕動を与えている。
 メイリウは、僕のペニスの質感を直腸でしっかりと
味わってから後事に及ぶつもりらしい。でも、その前
に彼のペニスを開放させておいた方が後顧の憂いはな
いだろう。
 彼の太ももからゆっくり手を這わせ、リボンタイで
今だ絡めとられている彼のペニスに触れる。リボンタ
イはあふれ過ぎた先走りの為、やや強張りを持ちつつ
あった。
 「…っや…れ、み」
 「すぐ回復できるだろう?」
 わざと問うてやると、耳まで紅潮させながら辛うじ
て首を縦に振る。それに唇の端の笑いで返して、一気
にリボンタイを引き解く。
 !
 呼吸音だけの叫び。そして、僕の頭上を越えた白い
放物線。第二弾と第三弾はやや力を失いつつ僕の顔に
降りかかり、後はどくりどくりと流れ出した勢いを無
くした白い溶岩が僕の腹の上を濡らして行った。
 そして、メイリウは覚醒した。肉欲をむさぼる獣と
して。
 メイリウの体はしなやかに僕の上で踊り続ける。今
夜のメイリウは恐らくこの状態からしばらく普段の彼
に戻る事はないだろう。たまにはこうして内なる獣を
開放してやるのも良いだろう。
 「れ、みゅ、ねくた」
 途切れ途切れに紡がれた言葉に応え、僕の口に噛ま
されていたニットタイを放ってやる。それをじっくり
としがんで恍惚とした表情を浮かべるメイリウ。こう
言う表情を見たいが為に彼の級友は彼を共有したのだ
ろう。しかし如何せん、手入れが悪くては彼は輝かな
い。彼を磨く為のネクタイを、級友達は用意しておく
べきだった。
 不意に唇を奪われ、頭を抱え込まれる。メイリウの
蝶ネクタイが僕の顔を嬲ってゆく。癖になりそうな感
触だ。このネクタイ遊戯は、彼の大きな武器になるだ
ろう。しっかりと熟成させてやるのが愛玩生徒の主の
役割だろう。この先が本当に楽しみだ。

 そして夜はまだまだ更けてゆく。遣っていないネク
タイもまだある、次は、何をして遊ぼうか。
                 (了)

   2007.2.15脱稿  2007.4.8up

雑誌投稿を想定して書いた話。
とりあえずフェティシズムを書きたいと
言う動機から進行させた。

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