ぬれるくろがね

熱い気配を感じて目を覚ますと、兄さんが
裸で僕に抱きついていた。
「不安?」
「ちっとな」
不安な気持ちで潰れそうになった時、裸に
なって抱き合って寝るのは僕達の癖。お互
いの体温を感じてると、不安なんて忘れて
いられた。
僕の体に絡みつく兄さんの足。その付け根
から感じる、特別な熱さ。
「……兄さん……」
「久しぶりだなって思ったら、な。嫌か?」
「嫌じゃ無い」
力を加減して、兄さんの体をなぞる。兄さ
んの体の事なら、多分もう何でも知ってる
かも知れない。
「……っんっ…fんん…」
「背中が良いの?」
「良い…上下にゆっくり…」
兄さんが生身で年頃の体を持て余している
のは僕も判ってる。でも、僕が見つけられ
なかったポイントをなぞらされるって、一
寸しゃくだな。
兄さんは、涎の一滴まで僕のもだから。

僕の一寸した不機嫌が伝わったらしく、兄
さんが僕の眼を覗き込んでくる。
「あれ、良いか?」
頬を染めて言わないでよ。
「良いよ。久しぶりだし」
そして、僕の「中」に兄さんが潜り込む。
内側から感じる兄さんの熱さと荒い息遣い。
生身の体の時は耳元で感じていた、多分僕
だけが知っている兄さんの声が壁の内側を
伝って僕の中に響く。
「実の弟の中で、感じてるんだ?」
予定通りの意地悪な台詞。
「感じ…て…なんか…」
「じゃ、この匂いは何?」
「一人で出し…たって…匂いはおな…じっ
…」
兄さんの台詞の中にはちゃんと意地悪への
期待が混じっているので、お望み通り意地
悪をしてあげる。その方が兄さんはより一
層開放されるから。
そして。
「!」
「ひゃん」
肩を使った息遣いと、内側を伝う熱い粘り
が僕の中に残る。
「お前も、感じてるのな」
「当たり前でしょ」
「内側が濡れてた」
再び僕に足を絡めながら囁く兄さん。
「錬成された体じゃ、やだ」
「ああ、判ってる。いつかきっと、な」
お互いの汗をちゃんと感じる日を夢見て、
僕達は今夜も二人で眠る。
         (2003.12.24)

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