褥の臭い

      
 玄関で擦れ違った息子の体操着から懐かしい
臭いがした。汚れ方にも何か見覚えがある。訊
けば今日は大掃除だったとかで、息子は体育倉
庫の担当だったらしい。
 「先生も手伝ってくれたけどさ、結構大変だ
った」
 そうさらりと笑う息子の体に染み付いた残り
香は、どう大変だったかを正直に物語っている。
野暮は言うまい。私にだって身に覚えがあるか
らこそ識別出来る訳だし。
 「ああ、そうだ。先生から預かり物」
 「ん?」
 「渡せば判るってさ」
 「そうか」
 息子の学業とかそう言う事か、と軽く考えて
受け取る。軽く指が触れた瞬間ふとした妄念に
はまり込む。親子の間では、どう言うしがらみ
が一番厄介なのだろうか、と。
 自分の性嗜好と息子の存在は線では結ぶまい、
とは思うものの時には欲に任せて一線を越えて
しまいたくなる。時折息子に誘惑されているの
ではなどと言う埒もない錯覚に踊らされながら。

 息子…淳志が寝床に入った後で、封筒を開け
てみる。封筒自体は実にそっけない事務用のも
のだ。薄手で学校名が緑字で印刷されている、
ごくありふれた事務用封筒。本文が記されてい
るのは学校指定のレポート用紙か?その中央に
二行簡潔に書いてあった。
 一行の本文は、《十三夜 倉庫奥にて》。
 二行目は…記号だ。《xox♂》。
 2行目を見て、私…いや、僕は時間が遡って
いくのを確かに感じた。無意識にレポート用紙
を撫で回していた指先は些細な違和感を見つけ、
手は勝手に水性ペンを手にとって違和感のあっ
た場所を塗りつぶす。
 そこには、携帯電話の番号が記されていた。
頭では躊躇しているのだが指先は勝手に番号を
なぞって行く。一回コールで相手は出た。
 「もしもし」
 「あ、あの」
 「伝言、見たんですね?」
 取り澄ました口調だが、この声には確かに覚
えがある。かつては染み付く程に耳元で聞いて
いた声だ。
 「人が悪いな」
 「ガード、案外ゆるいんだな?」
 相手の口調も変る。でも、思い出した以上他
人のふりを続けても仕方がない。
 「記憶力が良いせいですぐ思い出したから。
…久しぶり」
 「押しかけようかと思ったけど、職権乱用は
一寸な」
 「で、うちの息子を食った、と」
 「……俺が食われたんだけど」
 「そいつは頼もしい」
 冗談めかして答えるものの内心穏やかではな
い。親としても雄としても。淳志の年頃は僕の
守備範囲では…あるな。今回線の向こうにいる
相手のことを考えると。
 「で?」
 「俺、お前を食ったけど、お前に俺を食わせ
る約束を果たしてなかったな、と」
 「あったね、そう言うこと」
 「今違う趣味なら無理に、は言わないけど」
 「据え膳はきちんと食べる主義なんだ」
 「オヤジの体だけど、良いのか?」
 「僕も今じゃオヤジだから。本当に良いの?」
 「賞味期限切れじゃなさそうだしな」
 回線越しにあの頃と同じニヤリ顔が見えた気
がした。
 「じゃ、約束通りに」
 「ああ、待ってる」
 電話を切ってから改めて思案する。こう言う
形で初めての秘め事が蘇ると言うのは何かの因
縁だろうか。
 淳志は、多分気付いているだろうから出かけ
る前の時間を使って説明しておこうか。いや、
それならいっその事目覚めついでに巻き込んで
しまった方が良いのだろうか。

 僕と彼の関係…と言っても、実際の所は二十
年程前に十数回程度肌を合わせた程度だ、僕が
中一で彼が中三だった頃だろうか。僕が転校し
てきて間もなく転校してゆく予定の彼に偶然会
って互いに一目惚れで肉体関係に雪崩れ込み。
互いの名前を知る前に体の癖を知ってしまった
という不埒な関係だった。
 二人の褥は倉庫にしまってあった体操マット。
その頃は確か古いタイプの帆布マットに混じっ
て新開発の緑色をした体育マットが出てきた頃
だったと思う。普通に体育で使うなら緑色のマ
ットでも良かったのだろうけど、あのマットは
裸で使うには少し滑りやすかった。下半身だけ
でも裸になって使うなら帆布マットの方が良い。
それも適度に使い古されたものが。
 彼を見上げながら背中に感じる湿った冷たさ
とかび臭いような埃臭いような臭い……その臭
いをかいだだけでもあの頃は元気になってしま
ったものだ。フェティシズムの一種だったのか
も知れない。

    **  **  **  **

 「冷たくないんか?」
 「割にへーき。動けば温まるし」
 「ならいいけどさ。今日は一段と臭くねぇ?」
 「僕等以外にもここでやってたりして」
 「ああ、それならいるぞ。こないだ四人でや
ってたみたい」
 「四人……どう言う組み合わせなんだろう」
 そう言われてみると汗の臭いに感じてしまう
訳で…男の臭いに飢えてる訳じゃないんだけど
なぁ。中一で男に目覚めるのも何かと思うけど、
その上こう言う趣味に目覚めてしまうのは流石
に一寸危機感みたいなものを覚えてしまう。後
悔じゃなくて、濃いものでしか満足できないよ
うな予感…かな。
 「ちょいブリッジしてみ?」
 「こう?」
 「そそ。んー…意外な所に生えてるよな」
 「谷間?」
 「つーか、くぼみの周り。でも綺麗だよな」
 「いつも洗ってるから」」
 「へぇ」
 「舐めてみる?」
 「一寸だけな」
 一寸だけ、の割には中まで舌がしっかり入っ
てくる。動き方がなんかやらしい。音まで立て
てくれちゃってさ。味、あるのかな?
 「一寸塩っぽいな」
 「そんだけ?」
 「後、ぬるっとした感じも」
 「場所が場所だもん」
 「キス、してみる?」
 「えんがちょー」
 自分でも勝手かもねと思う。前をくわえられ
たあとなら平気なんだけど。
 「じゃ、今日は舌だけな」
 そう宣言すると太ももの裏を持ち上げて後に
顔を埋めてくる。入ってくるのかと思ったら最
初は思いきり吸引。余りの吸引力に自然とうっ
すら開いてしまったのが判る。そこをすかさず
集中砲火されたものだからどう反応して良いか
頭では処理できなくなる。舌をねじ込まれなが
ら他の部分も軽く噛まれるものだから感じずに
はいられなくなる。
 「舌だけって言ったけど、飽きるよなぁ」
 そう言う声を遠くで聞いたような気がした。
その刹那、今度は袋の方に慣れない感覚を覚え
る。撫でられているような擦られているような
くすぐったい感触。手近にあったボンボンで擦
られた感触だったというのは後で知った。
 こんな調子で彼と逢瀬を重ねるたびに激しく
開発されていた。今思えば子供故の好奇心もあ
った交わりだったのだろうな、と思う。

   **  **  **  **

 「…と、まあそう言うことがあった訳だ」
 「道理で先生も慣れてるなー、と」
 結局淳志には夕食時に事の顛末をあっさりと
話した。男所帯であり、性癖に対する暗黙の了
解があったが故に出来たことだろう。
 「まあ、淳志がこっちに来るとは予測は出来
なかったけどな」
 「おれも自分の事ながら一寸意外」
 目配せをすると彼は上半身裸になって見せる。
話すだけで体温が上がる事柄も確かにあるし。
 「あの人みたいなのが好みか?」
 「好みと言うか、なんとなく開発したくなっ
たというか」
 「初体験ではない訳だ」
 「初体験はねー、ほら、父さんも知ってるで
しょ?同級の卓也って」
 「ああ、あの彼か」
 「あいつと最初からリバやったから」
 「やるじゃないか」
 「卓也が慣れてたからね」
 淳志からの目配せに後でと目で応える。夜は
まだ長いのだ。取り澄ました気配を脱ぎ捨てて
語らう時間はまだ充分にある。
 「で、どうするの?」
 「彼の事か?」
 「うん」
 「なんだったら、お前も来るか」
 「邪魔にならない?」
 「いっそ卓也君も誘ったらどうだ?」
 「息子を4Pに誘うかなぁ、普通」
 「親子なら一寸おかしいだろうな。でも」
 歩み寄って唇を重ねてみる。重なる唇の面積
で淳志の成長を改めて知った。
 「雄としての経験は、重ねておいて悪くはな
いだろう?」
 「確かにね。一度二人以上の行為はやってみ
たいと思ってたし」
 「なら、好都合だな」
 「父さんなら多分卓也も守備範囲内だし」
 「言ったな、このマセガキが」
 笑いあって、今度は深く唇を重ねる。交じり
合う唾液は、淳志が既に雄への階段を上ってい
る事を告げていた。
 「やるの?」
 「今は止めておこう。まだ親子の気持ちがあ
るだろう?」
 「そうだね。理性がありすぎるもん」
 僕から私になった頃から肉布団に寝慣れてい
れば多分このまま雪崩れ込めたかも知れない。
只幸か不幸か私は淳志に対し息子としての愛着
だけを感じる時間が長かったのだ。その時間を
流し去るには体育倉庫のあの褥の臭いの後押し
を借りる必要があるのかも知れない。
 機会は、しっかり利用させて貰おう。
 
 目の前で絡み合う幼い肢体から立ち上る汗の
臭い。その臭いだけで下腹部が熱くなって来る
のが判る。その私の肌の上を這い回るのはかつ
ての情人の指。私の全てを知りつくし、私の理
性をあらぬ所へ導く危ない指だ。
 「いけない父親だな」
 「淫行教師には言われたくないな。食われた
のは淳志だけと言う訳じゃないんだろ?」
 「卓也にもその後食われた。子供だからとい
って油断は出来ないな」
 「僕とあなたも大概ませてたと思ったけどね」
 「こう言う事には何時の時代も子供は貪欲な
のさ」
 振り向きざまに唇を重ねる。下腹部の熱と湿
り気は既に臨界点を超えている。体を返しなが
ら、相手の内壁を少し性急にかき回す。
 「誰に解させていたの?」
 「い…わせ…るな…あっ…」
 「一本じゃ物足りなかったでしょう?ここま
で吸い込むのなら」
 言葉でなぶりながら彼を後から貫く。確かに
解れているには越した事はない。とは言え、こ
こまで解れきってしまっては実際の所物足りな
さは残る。
 「淳志、卓也」
 吐精してもなお絡み合う貪欲な若い獣たちに
声をかけ、彼を後から抱き上げ結合部分を見せ
つける。二人とも、音高く生唾を飲みながら濡
れた境目を凝視する。
 「先生は、私のものだけでは物足りないらし
い」
 わざとらしい私の口調に、彼が身を堅くした
のが判った。しかしそれは拒否の余波ではなく
期待の余波であるという事は、私を包む内壁が
雄弁に物語っている。
 卓也に後ろから貫かれながら、淳志が結合部
の隙間から入り込もうとする。一突き、そして
二突き…隙間が開かぬかと思った三突き目、音
立てて淳志も彼の中に包まれた。
 「……きつ…」
 「こう言うきつさを味わうのもいいものさ」
 卓也はその間も淳志を激しく突き、その振動
が淳志を通じて私の身にも伝わる。淳志の熱も
伝わって私は恍惚の中に誘われようとしていた。
 卓也が淳志の体を乗り越えて私の舌を絡めと
る。その舌遣いに淳志が彼の手中に墜ちたのも
当然と妙に納得しつつ、彼の唾液を味わってい
た。
 「うまいな」
 「今度、オレを抱いてみます?」
 「淳志と一緒にね」
 「天国にいけそうだな」
 これで今夜の三の膳は決まったようなものだ
ろう。
 「ずる…い…おれもぉ…」
 淳志が私の首筋に噛み付いてくる。その痛み
も気持ちが良いが、どうせなら受け止めてやっ
た方がよかろう。
 私は、淳志の口を存分に吸い尽くした。後で
彼に与える愛撫の程度を教える為に。
 褥に一滴、私と淳志の交じり合った体液が墜
ちていった。
   2006.12.24脱稿  2007.3.19up

雑誌投稿を想定して書いた話。
先ず場面想定が決まり、そして
粗筋の肉付きが徐々に出来た。

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル