水面の半身

視界に入った人物を認識して、
霧了は少し驚いていた。
「忘れものかい?」
「まあそんな所。綺麗な月ですね」
「そうだね」
「こちらの言葉で十六夜、
って言うんでしたっけ?」
「そうだよ。君の所では何て呼ぶの?」
去った筈の客人…華奈太は少し
はにかみながら答えた。
「見守り月、って呼ぶみたいですね。
古い言い回しだけど」
「何を見守るんだろうね」
「道ならぬ恋人達を見守るんだそうですよ」
「ふうん」

気になっていたのはお互い様。でもそれは
決して恋なんかじゃない。寧ろ、好奇心。
多分君に恋をするという事は鏡に恋を
しているのと同じ。こんな事態の中で
そんな恋愛をするなんて、
虚し過ぎて笑えないじゃないか。

「で」
「忘れ物と言うのは、思い違いでしたね」
「そう。お疲れ様」
「まあ、時間の無駄にはなって
いませんけどね」
「エネルギーの無駄にはなったんじゃない?」
「補給させてくれますか?」
一脈通じたように絡む視線。そして、一瞬。

「今度はいつ来る?」
「次の見守り月の夜に。
エネルギー、ご馳走様でした」
残像の彼の頬は、少し上気していた。
(2003.9.12)

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