さめたる青空

 「なぁなぁ」
  「なんした?」
  「今度できたお寺さんの屋上に高い塔立ってるやん?」
  「お寺さん……ああ、三階建てのあのビルか?」
  「うんアレ。アレ見て、なんか感じへん?」
  「なんかって?」
  「うーん…僕だけなんかなぁ」
  「言うてみィや」
  「んー……怒らへん?」
  「多分」
  「あ、怒るつもりなんや。そっと隠した握りこぶしを家政婦は見た!」
  「ここでおしろいオバサンがなんで出てくんねん、あほ!」
  話の展開のじれったさに苛立ってた事もあって、昇をごく軽くはたいてやる。
ま、これくらいなら子供のじゃれあいって感じかも。
  「いったー。なにすんのぉ?」
  「古典中の古典でお約束通り返すなよ!」
  「別にどうボケようと僕の勝手やんかぁ」
  「それより、あのお寺さんの塔がどないしてんって聞いてんねん」
  「たっちゃんは何も感じへんの?」
  「たっかいなー、ってそんだけやけど?」
  「ふーん」
  「みのンは何を感じてんのん?」
  「んー、いろんなこ」
  スパーン…。
  決まったな。我ながら鮮やかな上履きさばきや。
  「ボケはもうええて」
  「ボケんと恥ずかしくて言われへんもん」
  「どんな事思とんねん、ホンマ」
  今度は思い切り呆れる番。
  「あんなぁ」
  「うん」
  「よう晴れた日にあの塔見上げるやん?」
  「うん」
  「なーんも無い空ン中にあの塔がピッカーって光ってそびえたってんねん」
  「うん。凄い眺めやな」
  「似てると思わん?」
  「?」
  「筋みたいな雲が塔の上にあったらますますそっくりやねんけどなぁ」
  塔、そして筋みたいな雲…どんな連想ゲーム…って……んーと、…アレ、かなぁ。
 口をつぐんで俺の目を覗き込んでニヤニヤする登。
  「あれェ、たっちゃん、顔真っ赤やん?」
  「誰のせいやねん」
  「僕はただ塔が力強く立ってるなぁって話しただけやん」
  「…〜〜、がう」
  人間の言葉で反論する気力も無いので、唸って吠えてみた。それでもなお登は
ニヤニヤ笑いを止めてくれない。
  「たっちゃん」
  耳たぶをつかんでぐいと頭を引き寄せられる。
  「たっちゃんの部屋で、塔見たいんやけど、良い?」
  返事代わりに登の耳たぶを一噛み。
  
  布団の上でむっくり体を起こしてフンッと腕を曲げて筋肉確認。うん、小6に
しちゃ我ながら筋肉付いてるやん。
  で、隣見たら布団からはみ出さん限りの寝相で軽くいびきかいてるバカ登。
  小学生がこんな不純同性交遊しててええんかなと毎度毎度思ってしまう。
こんなバカ相手におとなしくオンナ役やってる俺も俺やけど。
  ピーマンも人参もセロリも食えへんし運動会の競争じゃいつもびりっけつ。
身長も俺より頭半分低い。とろいって事で結構有名なこいつ相手に俺がオンナ役
やってるっていうのがいまだに信じられへん。
  あーあ、思い切り涎垂れてるやん。髭なんてまだまだ生えへんって感じ。
でも、でるもんはちゃんと出てるしツッコミ加減なんか多分大人と同じくらいかも
(いや良く知らへんけど)。
  別に男好き違うねんけどなぁ…初恋はちゃんと女の子やったし。みどり幼稚園の
みのりちゃん。
  なんでいつの間にかこいつとこんな事してるんやろ。…ま、気持ち良いから
ええねんけどや。
  
  「何ニヤニヤしてるん?」
  「ベぇーつにぃ?」
  「怪しいなぁ。エッチを反芻してたン違うン?」
  「スケベなみのンやないねんから」
  「スケベはたっちゃんやんか。もう終わろかな思ってたらもう一寸もう一寸って、
なぁ?」
  「俺に振りなや」
  「んーふふ」
  俺の困惑なんてお構いなしにぺたぺた身体を触ってくる。掌から伝わる一寸高めの体温、
なんか気持ちええわ。
  「たっちゃん、筋肉ついてきたな」
  「男らしいやろ?」
  「うん、ええ感じ」
  触り方がぺたぺたから撫でさすりに変わり、そして、撫でさする場所が限定されてくる。
自分でも、そのせいで息が上がって来るのが判る。
  「まだし足りへんの?」
  「ちょお違うねんな」
  え?と思う俺の身体をまたぎ、そっと腰を降ろしてくる。
  「……ったぁ……」
  「いきなり挿れなや。初めてなんやろ?」
  「うん、痛いもんなんやなぁ」
  涙目になって、それでも笑う登。
  「だって、欲しくなったんやもん」
  「俺に挿れるだけでもええやんか」
  「それはそうやねんけど」
  胸だけ重ねてきて、耳元でささやかれる。
  「たっちゃんの初めては女の子となんかな、って思ったら、なんか嫌やってん」
  「……アホ」
  照れ隠しと別の気持ちを込めて、耳を何回もかんでやる。登は登で、そう言う気持ち
やったんか。……あかん、ホンマにこいつとどうにかなりたいかも。
  「腰、もうちょい降ろせる?」
  「ちょお待ってな」
  息を深く吐いて腰を降ろしてくる。あ、ええ感じかも。
  「動かんでええで」
  「せやかて」
  「みのンの中ってだけで気持ちええから」
  「ホンマ?」
  「嘘言うてもしゃーないやん」
  少し垂れ気味の登の塔に手を伸ばす。
  「ここだけでも元気だしとけや」
  「……あほぉ…」
  登の頬が、トマトより赤くなった。
  
  そして後日。
  不意に見上げた鉄塔の上空に偶然通りかかった飛行機。
  
  思わず不埒な連想をして俺は人知れず赤面した。登の妄想がうつったのかも知れない。

 2004.1.8脱稿  2012.1.7up

かつて印刷物として発行したもの。
散策中見かけたある風景に題材を取った。

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