祭、過ぎ

 「天気予報、今回は大当たりだな」
 「ホント。凄く冷たいし」
 「雪だった方がまだ楽だったよね」
 「同感!」
 雨が余りに酷くなってきたので、二人して
手近な屋根のある所に駆け込む…と言っても、
そこが時々利用させて貰っている公衆トイレだと
言うのがなんとも妙な話。
 肩を抱いていると、背中に温もりが貼り付いた。
 「寒い?」
 「一寸ね」
 暖めてくれるのは良いけど、余計な所まで熱く
しないで欲しいな。湿ったズボン越しにでも熱と
形状はしっかり判る。
 「なに盛ってんの?」
 「生理現象!俺の所為じゃない」
 場所の所為なんだろうな。条件反射って奴は
多分にあると思う。僕だって実の所穏やかな
気持ちではない。幸か不幸かお誂え向きにと
言おうか何時もの個室が空いているから余計に
その気になる。
 だから、首を捻ってキスをねだる。行動して
みてから、自分がまだ世間では子供と思われて
いる年齢だったと気付いて頬が熱くなる。
 「耳、赤いな」
 「莫迦…」
 「身体も熱くなってる」
 「…責任取れよ」
 「努力します」
 とりあえず背中から抱きしめられたまま目配せを
して耳を済ませて状況確認。万が一誰か居たら
ややこしい事になって気まずくなる。二重の意味で
用心しなきゃ。
 そして、口の中でゴメンナサイと呟きつつ二人して
蟹歩きで手すり付の広い個室に移動する。
ここのトイレは普通の個室でもやや広めで、不埒な事に
使うのにも差し支えないんだけど、身体の自由は
利いた方が良いし。床に寝転がる以外の大体の事は
出来るしね。
 引き戸を閉めて、鍵をかけて。
 そして、改めてハグ。深く、浅く、そして又深く。
 「落書きさ、増えてたよ」
 「マジ?どんなの?」
 「学ラン募集中。ケータイメールと金額付で」
 「まめだなぁ」
 昔このトイレにも色々落書きがあって、中には
やってる最中の絵が壁一面に描かれた事もあった
らしい。けど今は落書きが出来ない様に加工されてて、
僕等が利用する様になってからはそう言うのにお目に
かかった事は無い。精々タイルとタイルの隙間に
誘い文句と条件が書かれている程度だ。
それでも結構露骨な文句が多いので、そう言うのを
拾い読んでいるだけでも興奮してしまう時がある。
想像のワンステップは踏むけどさ。
 「学ランでここに来るなんて、いかにもって
感じじゃん」
 「真似できないよね」
 「いや、したくないし」
 即答されて互いに苦笑い。背徳的な事をしていると
誇示しつつ淫らになりたいと言う身勝手な一部の所為で、
僕等は一方的に保護されている。僕等の内側にどんなものが
潜んでいるかを吟味されないまま、一律に日向に
引きずり出される感情。
 学ランを着たまま行為するってのは、実際の所気分を
盛り上げる為の演出って部分が大きい。やるんなら、
せめてシャツ一枚だけの方が快適に物事を行える。
演出して萌え上がるのも嫌いじゃないけどね。首のホック
したまま咥えてて、カラーで首筋傷付けると言うのも
演出と思えば痛みは軽くなると思うし。
ただ、タイミングを誤るとホックの拘束と口の中にある
ものの相乗効果で窒息しそうになるからそれは気を付け
ないといけない。
 今でさえ、本当は家に帰ってからじっくりと…なんて
予定していた。でも、緊急事態って奴かも知れない。
 考えに遊んでいると耳を軽く噛まれ、唇をねだられた。
僕も丁度欲しかったから最初から深めに絡める。
 最初はいけない遊びでこう言う事をしていると、
多分二人とも思っていた。他人の成長具合が気になる、
って事の延長かなと。でも、躊躇わず唇を重ねて、
自然に舌が絡んだ時、これが本能からの行動だったと
気付いた。それからは多分迷っていない。
 「最後まで?」
 「いや、抑えだけで良い」
 僕はハンカチを噛んで、そして彼は跪く。

 落ち着いた所で、壁越しの気配に気付く。偶然…でも
ないかな。これで息遣いでも聞こえればまだ特定が楽なのに。
 「お疲れ」
 耳元で囁かれて、するりとズボンの上から一撫で。
そして、鍵にハンカチを被せてゆっくり外す。
 「普通にな」
 勿論だと目で返事をして、こっそりと早足。後から彼が
ゆっくりと出る。幸いにも雨は止んでいたし、人気も無かった。
 そのまま別れて、10分歩いた所で携帯電話の着信音。
メールなのでとりあえず放置。これは暗黙の了解。
とりあえず外では痕跡をなるべく消さないと。

 確認したメールは一文。
 “Merry Christmas!”
 言われてみてからああ、そう言えばと思い出す。
金曜日だしね。これが土曜日なら心も浮き立つんだけど、
今一つ中途半端な感じなんだよな。二学期の終りが
どうこうと言うのもあるし。
 それに、クリスマスと言っても多分やる事はいつもと
変わらない。確かに気持ち良い事だから文句は無い
けれどもマンネリに対する欲求不満はある。中学生の
分際でスィートルームを確保したいなんて身の程知らずは
言わないけど、何かイベントはささやかながら欲しいと
思ってしまう。プレゼントとかプレゼントとか、
プレゼントとか。
 彼からの贈り物なら、制服のボタン一つでも愛しい。
その気持ちは、身体を重ねる事が頻繁になった今でも
変わっていない。
 何かがないと、不安になってしまう。そんな弱い事では
いけないとは思うけど、目に見える何かで縛って欲しく
なる時がある。
 僕達の様な関係と言うのは、バランス感覚を保つ事で
何とか継続している。自分で選んだ部分もあるから
八つ当たりはしたくないけど、叫びを解放したくなる
瞬間があるのも事実だ。一人じゃないと思うから、
何とか叫びたいのを我慢できている。それだけ。
 敢えてクリスマスに別々に過ごす様にしたのもバランスを
とる為の手段だったんだけど、そろそろ限界が来てるかなと
思う。物理的に叫べる場所はかなり限られるだろう。
互いの名前を叫びあうなんて流石に恥ずかしいけど、
達した時にハンカチや互いの腕や肩を噛むのは一寸飽きた。
お互いの肩に顔を埋めて名前を呼ぶと言うのもやってみた
けど、息が漏れてかなり間抜けだった。
 絆=身体、って思うばかりじゃいけないとは思うんだけど。
不甲斐ないよね。

 また、彼からメールが来た。
 ああ言う事の後だから、よからぬ画像添付で来るのかなと
思った。でも、違ってた。
 『声、聞きたい』
 この一言だけ。

 「どうしたの?」
 『泣いてる様な気がしたから』
 「僕が?」
 『そう』
 「鋭いね」
 『何年付き合ってると思ってるの?』
 「そうだった」
 『形が無いと不安なのはこっちも同じ』
 「判ってるつもりなんだけどね。覚悟不足かな」
 『俺の愛情不足かもね』
 「多分それは無い」
 返事と一緒に涙一筋。
 『このまま、歳を十くらい飛び越せ』
 「それは言わない約束でしょ」
 多分、彼も泣いている。でも傷の舐めあいがこの電話の
テーマじゃない事は、お互い判っている。せめて自分の涙の
落とし前はつけなきゃ。
 「明日は、泊めてね」
 『ああ』
 「アフタークリスマスを二人で、ってのも乙かも
知れないしさ」
 『そだな』
 「土曜日なら、心配ないし」
 『ラジャ。またな』
 「うん、またね」
 
 今は、夢見ておこうと思う。
 いつか彼と時間制限無しに過ごすクリスマスを。これが愛なら、
多分待つ事は苦痛じゃないだろうから。  (2004.12.10)

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