いつもの時間にトリンの家を訪れると、
珍しく迎えの菓子が出た。
「珍しい事もあるもんだね」
「まあ、今日と言う日だからね」
ああ、と暦を見て納得する。大人の事
情により仕込まれて始まった祭りでも、
いざ渦中に居てみると楽しいと思う。ま
してや好きな相手と迎える祭りなら嬉し
さも一入だ。
「もしかすると、手作り?」
「もしかしなくてもそう思えよ。いら
ないの?」
「いりますいります」
へそを曲げられたんじゃ今夜の予定ま
で変わってしまう。慌ててとりなしてチ
ョコレート玉を一つさっと口に放り込む。
………えーと……如何言う味なんだ、
これは?チョコレートボンボンの類には
違いないみたいだけど、何か味が違う。
中に入っているのがシロップではなく
粘性の高い物質であると言うのは敢えて
言及すまい。トリンにそこまでの本格的
な製法を要求しても仕方ないから。でも
それにしたってウィスキーでも無く他の
果実シロップの類でもないのは確かだ。
兎に角、先ず一つは飲み込むことにす
る。トリンが余りに熱心に僕を見つめて
いるから。
………後味は非常に悪い。中身とチョ
コレートのバランスが余りに悪いのだ。
補完でもなければ打ち消しあいでもない。
中身とチョコレート両方が主張しあって
いる為喉元にひっかかってかなりえぐい
感じ。
でも、何も判らぬまま降参するのも癪
なので、もう一粒挑戦してみる。今度は
口の中でゆっくりチョコレートを溶かし
剥がしてから味わう感じで。
トリンの眼差しが、少しずつ変わる。
熱心に刺す様なものからからかいを含ん
だものに。
その眼差しを受け止めながら、僕は中
身の正体にようやっと思い至った。
「トリン」
「何?」
「何回出して用意したんだ?」
「言っても、疑わないでね?」
おや、予想外の台詞が来たな。
「良いから、言ってごらん?」
「………一回分」
「………そりゃ、新記録だね」
「ヲトカの事を思いながら、出来るだ
け濃くしようと思って休み休みやってた
ら一杯出ちゃった」
「道理で後味がいつもより濃い筈だ」
どうしようもないな、と心の中で笑い
ながらトリンにキスの返礼。最初抗って
いた眼差しが柔らかく蕩けてしまうのは
いつもの仕様。
「自分で味見はした?」
「した。なんか、やらしい味」
「もう少し食べてみる?」
「うん。口移しでね」
トリンのスペルマボンボンを合いの手
の夜、か。いつもより結構長くなりそう
な気がする。
(2007.2.14)