LIttleBOyCONtroller

 キスの前には先ず裸で抱き合う。それが毎日の儀
式の最初の手順。データを交換し合う為ではない。
言ってみれば彼と僕がここにいると確認する為の手
順だ。
 キスから先はその後延々と実行するのが常だから
後回しでも良いだろう。
 
 研究室内の環境調整ドームに入ると、ラフィが全
裸うつ伏せで人工日光浴をしていた。
 「よお」
  「ヤ、今日は早いね」
 「んー、たまには早く休息したいかな、と思って。
日焼け願望?」
 「うにゃ、健康対策。体質維持の為ビタミンD合
成の必要があるらしいんで」
 「で、何故裸?」
 「俺の趣味。それに、要らん時に連想するのが嫌
だから」
 「気持ちよさそうだね」
 「後でやれば?どうせ出来るし」
 「そだね」
 それじゃあと僕も服を脱ぐ。服以外のものはきち
んと外に置いて来てあるのでかなり気楽だ。脱ぎ散
らかしていても文句を言う大人は誰もいない。
 ただ、ドームを調整しているコンピュータの視線
は感じる。これは安全確保の為のものだと割り切る
しかない。どうせ今までの行為も散々見られている
のだから、今更恥らう必要も無い。
 「マイリ、一寸汗臭い?」
 「今日はフィールドワーク中心だったから。ラフ
ィこそ相変わらず…」
 「精子臭い?」
 「うん。プラス男臭い」
 「今日は大漁だったから」
 「後で体に訊くのが楽しみだね」
 減らず口をたたきあってから先ず抱き合う。汗ば
んだ褐色の肌が心地いい。自分より一寸高めの体温
を全身で感じて早くも腰砕けになりそうになる。
 本当はキスを先に出来ればいいのだけど、データ
暴走がこういう時に起きたら修復が大変だ。キス一
つの為にタイミングを計らなければいけない事だけ
は僕等の生活の中の汚点と言って良い。
 「そろそろ大丈夫そう?」
 「俺はOK。マイリは?」
 「OK。来て」
 少しだけあごを押し下げられて唇を合わせる。お
互い最初から歯列を割り、舌を絡めて唾液をしっか
りと交換し合う。唾液が混ざり合うと同時に流れ込
んで来る見知らぬ男達のデータ。ラフィの抱き方扱
い方吐精の回数愛撫の癖その他閨房で行われるあら
ゆるデータが今日は四人分。そしてラフィの方へも
僕が体で感じたデータが流れ込んで行っているのが
判る。
 「今日は相当に満喫したみたいだね」
 「下手糞がいなかったから。中出し好きばっかだ
けどな」
 「口からも飲んだんでしょ?」
 「今日は特別。良い臭いしてたから」
 「中に残ってる?」
 「混ざってるけどいいか?」
 「それは大丈夫。識別するから」
 「そか。フィールドワーク、結構順調だったんだ
な?」
 「お爺様の孫だったと言うのが効力を発してね。
快適な環境で過ごせたよ」
 「お爺様、結構顔広かったしな」
 「こっちの方までしっかり人脈あったんだね」
 共犯者の微笑。そして、キスのちセックス。

 僕、マイリ・エトゥーリィが亡くなったお爺様の
遺産のこの研究室を受け継いで二年になる。僕が十
一の夏の事だった。
 僕とお爺様は二人で生体科学を研究していた。具
体的に言うと俗に言うクローニングに代わる生体複
製方の研究だ。理由は色々あるがここでは言わない。
 ラフィはお爺様の遺産の一部。僕の複製に当たる。
複製とは言ってもきちんと自発的意思のある独立し
た人格を持つ存在だ。
 彼は僕のスペアではない。僕の代わりに性行為を
行い、そのデータを蓄積解析し伝達する存在だ。セ
クサロイド、と言う存在とは又違うかも知れない。
 ラフィはセックスの事だけに存在するのではなく、
時に僕が吸収したデータを分析整理し新たなデータ
を構築したりもする。性生活中心のパートナーと言
う存在であるのかも知れない。
 僕とラフィが肌を合わせてから三年。お互いの快
楽の引き出し方は一通り知っているつもりだ。そこ
に見知らぬ男達のデータが加わるので、二人とも年
の割に行為が巧みになってしまっているかも知れな
い。
 お爺様が亡くなってからはその傾向に拍車がかか
っている。ラフィが特定の相手に執着せず広範囲の
データ収集を心掛けてくれているから事なきを得て
いる様なものだけど。
 ラフィはこのドーム内に閉じ篭っている訳ではな
い。このドームを活動拠点にしてデータ収集に出て
いるのだ。分身である僕と行動範囲がぶつからぬ様
に心掛けつつ。僕とラフィの関係が公に取り沙汰さ
れないのは偏にラフィのさり気無い配慮故にだ。

 舌を絡ませ合いながら全身を擦り付けあう。殊に
下半身は念入りに。二人の先走りの匂いがなるべく
強く薫る様に。潤滑剤なんて面倒なものを使わなく
ても充分にラフィは先走りを漏らす。そう言う風に
体質が設定されているらしい。それに興奮して僕も
少しずつ多く漏らす様になっている。そう言う遺伝
子が僕の中にも内包されているのかも知れない。
 「…ぅふぅ…ッ…ラ…f…」
 「マ…も…と…f…」
 舌を絡ませあっての会話なんて無理だと思いつつ
も、互いの声が聞きたくていつも試みる。その漏れ
る声で余計に興奮が誘われ、そして体が粘っこい汗
でも滑る様になる。
 一通りキスと肌の感触を味わったらラフィの下半
身を味わうのがいつもの手順。いつもは前から味わ
うのだけど後ろに溜まっているものが気になるので
ラフィを促して四つん這いにさせる。
 荒い息。言葉を交えない荒い息。その息遣いだけ
でも僕等は今会話が出来る。
 四つん這いになったラフィの肛門には少し乾いて
はいるが白く泡立った粘液がへばり付いている。内
側にもまだ残っていそうな感じだ。僕は双丘の谷間
に顔を近づけてその匂いをゆっくりと吸い込み、そ
して期待に蠢く肛門に舌を這わせた。
 双丘の色合いが褐色から赤みを帯び、ぬらぬらと
汗で濡れてくる。舌の上にはラフィを抱いた男達の
残滓がまだ存在を強く主張しつつ粘りつく。舌と鼻
からもたらされる興奮に僕の中の獣が獰猛に牙を剥
き始める。
 ラフィの後腔に残る男達の残滓を吸い取りつつ、
肛門の下で揺れる皮袋を一寸力を入れて捻る。途端
にラフィの体に硬直が走るが、その声になじる様子
は見受けられない。むしろ更なる痛みを期待してい
るかの様に甘く響く。
 「……ご馳走様。随分美味しい体だったんだね?」
 「俺?相手?」
 「多分両方」
 「年齢は幅広いけどな」
 「でも、僕等程の歳はいない、よね?」
 「相手の言葉を信じればな」
 こう言う会話を愛撫の間に交わすというのは良い
のか悪いのか。嵐が過ぎた途端に興奮まで冷めるよ
りは良いのかも知れない。
 「さっきの、良かった」
 「睾丸?」
 「ハードなのはきついかな。あれ程なら良い刺激
だ」
 「一つ開発できたね」
 「ああ」
 そして、軽くキス。ようやく僕の肛門にラフィの
指が伸びる。いきなり入り込まず、軽く入り口を撫
でられ、押されて刺激される。緩み加減が進んでい
る時にはこの時点で人差し指の第二関節まで入る事
もある。今日もそう言う感じ。
 「…ッい」
 「たい?」
 「いや。良いんだ。もう少し深く挿れてみて」
 「こう、か?」
 「そう!そのままゆっくり回して」
 ラフィの指が中で蠢いている間、僕は彼の首筋に
吸い付いて息を殺そうと試みる。こう言うのは、な
んか気恥ずかしい。
 「マイリ、それ、すごくやらしい」
 「……ゆーな」
 「二本、いいよな?」
 「聞くな。もう拡げれるだけで、さ」
 「いいぜ。欲しがらせちゃる」
 「二本、入った」
 さっきよりは少し荒々しく、そして空間を作る様
に動かされる。そして、前立腺もいじられる。ラフ
ィの首筋には、軽く歯型がついた。
 「三本。行けるか?」
 大きく口を開けている薔薇色の穴がイメージ出来
て来る。腸内まで外気に晒されている様な、なんだ
か変な感じ。肩に噛み付くのは諦め、ラフィの体に
しがみつく。ラフィの鼓動を胸で直接感じたせいで
余計に興奮してくる。
 「ラ、フィ」
 「何?」
 「来て…」
 仰向けにされて開かれる僕の体。音を立てて打ち
込まれるラフィの体。今日はいつもよりもややサイ
ズが大きい様な気がする。
 「今日、サイズ変えた?」
 「大き目が好みの奴ばかりだったから」
 「ふぅん」
 「でも、一度もタチはやってなかったな。当たり
前かもだけど」
 「僕を食っとけば?」
 「これ以上?」
 「行けるでしょ?」
 「そりゃね」
 会話しつつもピストン運動はしっかり。僕も一寸
締め付けてみたりして。男同士だからこう言う会話
も出来るのかも知れない。
 「マイリ……今日凄くない?」
 「……欲しくて仕方なかった」
 「どこに?」
 「………莫迦」
 詳細を言う代わりに頭抱え込んでドロドロに深い
キスをしてやる。ラフィも言葉を捨てて舌をしっか
り絡め、後はただ荒く呼吸音だけで意思伝達。
 「…んひぃ……ふ・…ぅっ…」
 「……んぁはぁ…r…a…f」
 力加減をするのも面倒になる。音高く体をぶつけ
合うピストン運動。白熱する意識の下で僕はラフィ
の腰を両足で抱え込んで離さない様に引き寄せる。
 「!!!!!!!!!」
 「んぬぅ!……ぉお…」
 深く一打ち、そして足での強い抱擁。一瞬の爆発。
 ラフィが僕の中に実弾を放った瞬間、僕自身もラ
フィの腹の上に精を止め処なく流していた。
 深いキスと、そして暗転。人工太陽は二人を暖か
く光で包みながら。静かに一部始終を見ていた。

 目が覚めた時、僕はまだ一糸纏わぬままだった。
セックスの後処理はコンピュータにより為されてい
たらしい。もっとも、中のものまでは処理していな
かった様で、寝返りを打つととろりとこぼれ出して
来ていた。
 「起きた?」
 「ん。あれから又浴びてたの?」
 「今度は日焼けの下準備な」
 「これ以上焼かなくてもいいじゃん」
 足の裏と手のひらだけ白くしておいてよく言うよ、
と思う。
 「ねぇ。ラフィ」
 「何?改まって」
 「一寸、交代しない?」
 「疲れちゃったか」
 「と、言うか。セックスが足りない」
 「俺に不満、じゃ無くて?」
 「ラフィも今以上に欲しいけど、ラフィの経験を
体感したい」
 吹く筈のない風が、ざわりと吹いた。
 抱きしめられて、耳元で囁かれる。
 「俺も、マイリの生活に飢えてたから」

 そして僕等は暫く入れ替わって生活する事にした。
こう言う場合、データ交換の際にはもっと直接的な
手段を用いる。ブロックで構成された脳の一部を入
れ替えて対処するのだ。
 こう言う脳の構成をもって人間かどうかを判断さ
れるのであれば、僕も人間ではないのかも知れない。
 お爺様の実験を全うするにはラフィとラフィの対
になる存在が必要不可欠なのだ。僕はラフィとの対
になる位置を他の誰にも譲る気はない。
 お爺様に操られている気もしないではないが、僕
とラフィが満たされているならばそれは良い結果な
のではないか、と思う。

 そろそろラフィが帰って来る頃合だ。服を脱いで
待っておこうかな。
 全部脱ぎ終えた僕は環境保全端末に目配せする。
少し強めの日差しを演出する人工太陽。
 全裸日光浴の口実はビタミンDの合成の為。でも
本当はラフィをなし崩しに誘う為。
 裸は好きだが、二人の世界だとは言っても、裸を
見て興奮してくれる人がいないのならば脱いでおく
張り合いがないから。
 以上、交換したラフィの脳からの受け売りだけど。
 そして、ドームのドアの開く音がした。
                (了)

  2007.1.29脱稿  2007.3.19up

雑誌投稿を想定して書いた話。
SFとこう言う傾向と言うのは
何処まで折衷できるのだろう。
タイトルで少し遊んでみた。

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