二枚目

 松吉兄さんから豆絞りの木綿を一反貰った。
おいらが褌祝い以来一枚の褌で済ませているの
が鬱陶しいと言う事で見かねて、と言う事らし
い。見苦しくない程度には洗ってるんだけどな。
 兄さんが褌用の反物をくれる、と言う事をや
らなくてもおいら兄さんの気持ちは判ってる。
褌親がついた後だしさ。ただなぁ…兄さんもま
だ褌親にべっとり構われてる身分だってのがな
ぁ…まだまだ子供の髷だしさ。 
 兄さんとおいらがコロチャラ遊んでたのなん
てもう十歳以上の昔からの話になる。何時頃か
らなんだろ、兄さんに想われてると肌で知った
のは。

 「で、おめぇはどうしたい?」
 「どうしよう。吉つぁんには何か考え付くか
い」
 「おめぇに判らんものが俺に判るかよ」
 褌親の吉つぁん…佐吉伯父ンちに押しかけて
訊いてみる。親といってもまだ二十六のこの人
はこう言う縁では自分も泣き周りも泣かせと随
分修羅場を潜ってきたそうだからなんか知恵で
も授けてくれるか、なんて甘く思ってたんだ。
 「松吉がそんな真似をする様になったとはね
ぇ。随分ませて来やがったもんだ」
 顎を撫でてタバコを一服してニヤニヤ。あぐ
らをかいてる足の隙間から緋の褌がしっかり見
える。一寸ゆるんでるみたいだから泊まれって
事なんだろうな。
 「じゃあ訊くがよ」
 「うん」
 「おめぇ、松吉に尻ィ突かれてぇか?」
 「わかんねぇ」
 「俺が突いてる時は、どんな心地だ?」
 吉つぁんがポロリとこぼした言葉に笑いは無
くて、目付きもかなり真剣だ。一寸怖い。
 「最初はさ、痛くて苦しかった」
 「だろうな。俺もそうだったしよ」
 「そうなんだ」
 「俺も今じゃ太い尻だがよ、褌親がついた当
座は細い尻でなぁ…油塗ったり型使ったりでサ
ンザゆるめてようやく通したもんさ」
 「おいらもおんなじ?」
 「だろうな。言っとくが俺の一つ目小僧はそ
んなに太くねぇからな?」
 「うそだい。五寸はゆうにあるじゃねぇか」
 「世間は広いからなぁ。噂じゃあ一尺近くの
一つ目小僧をぶら下げてる御仁もいるってぇ話
だ」
 「一尺…どうやってくわえるっ、いてぇな」
 口をかたどって見せたおいらを吉つぁんがポ
カリ。
 「俺の前だからってはしたない真似すんじゃ
ねぇ!」
 「自分はさせてるくせによぉ」
 「おめぇがやりだして離さねぇんだろうがよ」
 「…味と匂いがさぁ…なんか懐かしくてよぉ」
 「まさか松吉のを昔くわえてたんじゃねぇだ
ろうな?」
 「くわえてねぇよ。さわったけど」
 「さわるくれぇなら、まあ、なぁ」
 「堅く天向いたけど」
 「話の続き、布団の中でじっくり訊こうか」
 吉つぁんの指が褌の隙間から入ってきておい
らの中に入る。フゥスゥと息を吐いて菊座を一
寸ゆるめてみる。
 「尻だけで気をやっとくか?」
 「そしたら寝ちゃうけど、良い?」
 「軽く寝とけ。考え込んで碌に寝てねぇだろ
?」
 「う…ん」
 吉つぁんの声の調子は変らず、でも菊座の中
の指は動いておいらは息を乱される。この指が
松吉兄さんのものなら、とちらと思っちまった。
 「随分柔らかくなったもんだよな」
 「吉つぁんが弄ったからだい」
 「よくぬかすわ。てめぇでも弄ってるくせに
よ」
 「なん、…っ」
 「見透かされたくなきゃ爪もよく洗うこった
な。まあ、普段遣いにゃまだ良いがよ」
 おいらをからかいながら吉つぁんの指は菊座
の中で細かく動いている。良い所をそのまま突
かないで軽く引っかくだけってのがもどかしい。
一つ目小僧が涙どころかよだれを垂らしている
のがゴチャゴチャになり出した頭でもしっかり
判る。
 体と頭を支えるのが面倒になって吉つぁんに
しがみつく。吉つぁんの顔が近づいてきたかな
と思うと口をゆっくり吸われる。今じゃこの口
吸いも好きだ。吸われてベロをかき回されると
色々と忘れられるし。吉つぁんの口の味も好き
だし。
 「き…ちさ…ぁ…も…と」
 「好きもんが」
 意地悪く笑いながら、それでもおいらの気持
ち良いように弄ってくれる吉つぁん。
 松吉兄さんにこたえるってぇことは、吉つぁ
んを捨てることになるんだろうか。のぼせた頭
でぼんやりと考えている。
 「気をやる時はな」
 菊座の指が三本に増える。
 「ゴチャゴチャ考えるんじゃねぇ、っての」
 尻小玉を思い切り揉まれて頭が白くなる。自
分の口からなんか声とかよだれとか漏れてるけ
どどうにも止めようが無い。おいらは、思い切
り気をいかされた。

 「気ぃ付いたか」
 「うん。腹、へったぁ」
 「餡餅があるぞ。食うか?」
 「うん!」
 気を思い切りやってそのまま寝こけちまった
んか…気がついたら吉つぁんの腕枕。人肌の温
もりがすごく気持ち良い。
 「ここまでの気をやったのは初めてだったか」
 「うん。すげぇ」
 「で、ちったぁサッパリしたか?」
 「うん。ちっとね」
 「じゃ、改まって訊くがよ」
 「うん」
 「おめぇは松吉の尻を突きてぇのか、松吉に
尻を突かれてぇのか。どっちだえ?」
 え?
 「豆鉄砲食らった面ァしてんじゃねぇやい」
 「いや、だってよぉ」
 「おめぇと松吉の今を勘考すればそうなるだ
ろうがよ。年もそんなに違わねぇしな」
 尻をつるりと撫でられる。
 「突かれてぇ、ってんならどんな奴に突かれ
ても良い様に尻を慣らしといてやろうしさ」
 「慣れた尻の方が良いの?」
 「逆縁の穴に新鉢割った事の無い奴が挑むん
だ。そりゃ、慣れてる方がよかろうさ」
 「野郎も新鉢が良いんだと思ってた」
 「まあ、好き好きだァな」
 「吉つぁんも新鉢が好きなの?」
 「俺ぁ…どちらかと言えば慣れた鉢かな。新
鉢でも慣らさねぇと味がでねぇしよ」
 尻の手が撫でさすりから揉みしだきに変る。
 「と言っても、鉢を割った事が無いんなら判
らねぇか」
 尻から前に、一つ目小僧が弄られてゆく。
 「年増の鉢だが、試してみるかえ?」
 「え?」
 「ほれ、弄ってみな」
 手首を掴まれ指を差し入れた先は…吉つぁん
の菊座ァ?
 「吉つぁん、そりゃ一寸変じゃない?」
 「褌親ってぇのはどんな手解きもするもんだ。
念者になる為の手解きをしたって良かろうさ」
 「それならそれで年下をあてがうもんじゃァ」
 「どうせならおめぇを味わいつくしてぇと思
ってな。ナニ。俺も昔尻を突かれた身、解しゃ
あ充分使えようさ」
 「勘弁勘弁!おいらが突きてぇのは…」
 「松吉、だろう?」
 静かな声で言われて、思わずこっくりする。
うん、おいら松吉兄さんの菊を突きてぇ。あの
どっしりした文殊尻の奥にある菊を。
 「おめぇの気持ちは、それできちっと決まっ
てるんだな?」
 こっくりする。
 「松吉もそれは承知して、豆絞りをくれたん
だな?」
 またこっくりする。
 「そんなら仙造さんと話をつけて、日取りを
決めなきゃあなぁ」
 「日取り、って?」
 「おめぇ達の床入りに決まってらぁな。まあ、
こう言う縁が先に来るのも乙じゃねぇか」
 「吉つぁん、いいの?」
 「褌親は腐っても親だからな。夫婦にゃなれ
まいよ」
 頭をぽんぽんとはたかれる。
 「松吉は良い野郎になるぜ、きっと。良い相手
が出来たじゃねぇか」
 「吉つぁ…ん…おい…らぁ…」
 「おいおい泣いてどうすんだよ。思いがかなう
門出じゃねぇかよ」
 もう後は言葉が続かねぇ。ごめんよ。餓鬼でご
めんよ。吉つぁんに抱かれて安堵できなくて、ご
めんよ。
 吉つぁんが褌親じゃ無かったら良かったのに。
松吉兄さんの次に好きな人だから。
 「まあ、松吉の褌親が仙造さんだからまだ話が
楽になるわな」
 「そうなの?」
 「おめぇくれぇん時に、仙蔵さんには何度か手
合わせ願ってなぁ…」
 それってどっちが突いたの…いや、訊かねぇけ
どよ。

 そして話はとんとん拍子に決まった様で、おい
らと松吉兄さんの床入りの日が来た。
 「あのちまい小助に突かれる日が来るとは、思
わなかったなぁ」
 「おいらだって松吉兄さんが見事な文殊尻にな
るなんて思ってなかったやい」
 軽口を叩くのは気取られたくねぇから。吉つぁ
んには手解き受けたけど、正直突かれてばかりい
たから突くのには自信がねぇんだよな。
 「まずは、全部脱いでもらおうか」
 「褌も?」
 「したままでも良いなら良いぜ。なんにでも使
えるしよ」
 「外すよ」
 落とすと言うよりもむしり取って見せる。つい
でに仁王立ち。さっきから突っぱらかって痛くて
しょうがなかったんだ。
 「あの土筆んぼがねぇ…こいつが俺を突くんだ
な?」
 撫でられたと思うとヌルリとしたものに包まれ
る。兄さんに頬張られてんだ。とろける心地って
こんなんだろうか。先だれがもうダラダラと止ま
らねぇ。
 「とろけるか?」
 「すげぇよ、ほんにすげぇ」
 「菊の中はもっととろけるぜ、きっと」
 ゴクリ、と自分の唾の音が聞こえる。これ以上
とろける…おいら、大丈夫なんだろうか。
 と、思ったら口をじっくり吸われる。
 「俺ももろともにとろけるんだ。心配するねぇ」
 兄さんの笑顔が嬉しくて、こちらも深く吸い返
す。吉つぁんとは違う味。でも、好きな味。これ
が松吉兄さんの味なんだ。
 「さて、おめぇは突き方は初めてだよな」
 こっくりうなづく。
 後ろから突くんだって事はてめぇの体で判って
るけど、いざ突く方になるとどう言う加減にして
良いのか皆目判らねぇ。
 「だから、俺も考えた。仰向けになりな」
 言われるままに仰向けになる。首を一寸曲げる
と堅くなってる一つ目小僧が揺れてんのが見える。
 その一つ目小僧をむんずと掴み、松吉兄さんが
腰を下ろしてゆく。ヌルリ、ズブリと一つ目小僧
が菊の合間に沈んで行くのが判る。さっきよりも
余計とろけてやがる。
 「ふぅ…どうだ、菊の味はよ」
 おいらの両ももに尻っぺたを着けて座った兄さ
んが笑う。兄さんが声を出すとその声が菊にひび
いいているかのようにキュウと締まる。
 「もう、気をやりてぇよ」
 「やれやれ。何度でもやれや」
 最初は兄さんが跳ねてくれて突きの調子を教え
てくれた。そして、おいらも下から兄さんを突い
てみる。もう何度突いたか正直判らぬまま、気が
ついたら夜が明けていた。

 「目ぇ覚めたか」
 「ああ。兄さん、平気?」
 「仙造さんと違う味で、良かったぜ」
 「ヘイお粗末さま」
 布団から這い出して褌を締めようとして引き止
められる。
 「なんだよぉ」
 「どうせなら、新しいもんを締めてけや」
 それもそうか、と松吉兄さんのくれた豆絞りを
切った六尺を締めてゆく。真新しい木綿が気持ち
良い。兄さんの肌の余韻も少しあるし。
 「また、突いてくれるだろ?」
 「今度は兄さんが突く?」
 「おめぇの男振りが上がったらな」
 「上げてやらぁ!」
 「それまでは、俺を突いて慣れとけ」
 けけ。兄さん、耳まで真っ赤になってやがる。
 前髪落としても、兄さんとはこうしていたいよ
なぁ、としみじみ思った。兄さんの菊、相当に締
め付けが良かったし。

2006.12.14脱稿  2007.3.15up

雑誌投稿を想定して書いた話。
武家の設定は良くあるのだろうけど、
下町の設定は余り無い様な気がする。

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