雛に似た人

はじめて見たのだろうか?
ポカンと口を開いたまま固まっている彼。
「ホホホ 驚いたかしら。」
そんな彼を見てご機嫌な彼女。
僕と彼にちらし寿司を食え、桜餅はどうだとあれこれ
と世話を焼きたがる。
湯気のたつ蛤のお吸い物の入ったお椀を渡された僕は
彼に声をかけた。
「冷めないうちにご馳走になろうか、蒼。」

蒼と共に神代先生の家で暮らす日々。
下宿先には本や着替えを取りにたまに立ち寄る位しか
顔を出していない。
今日も着替えを取りに学校の帰りに蒼を連れ立ち寄っ
たのだがそこで思わぬ物を見た。
「あら 桜井さん。まあ恥ずかしいわ こんなところ
を見せてしまって。」
下宿先の老婦人が広げていた物。
それは古い雛飾りだった。
「これは私と一緒にお嫁入りしたのよ。たまには虫干
ししないとね。」
雛段を組み立てるおぼつかない手つきに思わず手伝い
を申しでた。
蒼も小さな手で器用に五人囃子や三人官女を並べてい
き、3人の手できれいにお雛様が飾りつけられた。
ご飯を食べていってくれとせがまれ、こうして雛段の
前で3人で夕飯を食べることになったのだが。

「アレ・・・」
お雛様から目をそらした蒼がうつむいてつぶやいた。
「あのお雛様、京介に似てるね。」
「エッ?」
思いもよらぬ言葉で雛段の最上段にちんまりと飾られ
ているお雛様を見る。
「本当、桜井さんによく似た美人だわね。」
下宿先の老婦人にまでそう言われるが僕にはこの人形
のどこが僕に似ているのだろうか?
いくら見ても判らない。首をかしげる僕を雛は冷たい
笑いを浮かべたまま見下ろしていた。

食事を終え神代先生の家への帰り道。
蒼が突然僕の手を引っ張った。
「ねえ、京介は行かないよね?」
「なんだい 蒼?」
「おばあちゃんが言った。お雛様は1年に1回外に出
してもらえるって。3月3日が終わったら暗いところ
に閉まっちやうんだ。京介は違うよね?」
泣き出しそうな蒼の顔。
どうも僕に似ている(と蒼が思いこんでいる)雛人形
と僕を混同しているらしい。
「大丈夫、どこにも行かないよ。蒼を置いてどこかに
行ったら蒼が泣くから。」
「先生もあのお婆ちゃんもミハルも泣くもん。」
少し照れ臭いのかそっぽを向いてつぶやく蒼。

こんなにも僕を思ってくれる人達がいるなんて。
これほど嬉しいことはない。
でも僕は黙ったまま蒼の手を取って又歩き出すだけ。
今は何も言えない。胸が一杯で。。。
《コメント》
のりぞおさんの天下の宝刀、ほのぼのです。
雛祭りでこう来て貰えると…邪まに走る
我が身を省みて(汗)…結局走りますが。
良い話を貰いました。

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