密室の至福

                    「限りなく自己愛に満ち溢れているな」
                    そう言ってチウゼンジ・ハルヒコが僕、
                   セキグチ・タツミV世に机の上を滑らせて
                   寄越したのは1枚のCD−ROM。
                    僕の祖父であり、作家でもあった初代・
                   関口巽…筆名・京極夏彦が記した「小説」、
                   「モウリョウ・ボックス」だった。ハルヒ
                   コは作中の神主のモデルとなった祖父の友
                   人・秋彦翁の孫にあたり、僕とも腐れ縁的
                   にゼミの教室まで一緒だ。
                    「何だ、君の研究テーマは結局其処に落
                   ち着いたんだね?で、君も僕の祖父が煮え
                   切らない蒟蒻野郎だと仰りたい訳か」
                    「僕がそんな事を面と向かって言うと思
                   うかい?」
                    「思うから先手を打った。まあ、僕も思
                   わない訳じゃない」
                    「いや、自己愛というならうちの爺さん
                   も大概だ。第一君のお爺様はチャーミング
                   だよ。…君と同じくね」
                    突然こう言う臆面もない台詞を挟むのが
                   こいつの悪い癖だ。どうも両家の伝統でで
                   もあるかのように、僕とハルヒコも祖父達
                   同様そう言う仲だ。父達も多分母達公認で
                   そうだった…いや、進行形だと半ば確信し
                   ている。……言われて悪い気はしないけど
                   ね。そう言う関係も今現在はかなりオープ
                   ンだし。だから軽いキスで返してやる。
                    「じゃ、誰が煮え切らない自己愛者だっ
                   て?」
                    「言葉は正確に再現しろよ…。久保竣公
                   だよ。箱に入ってしまった」

                    久保竣公の独白は作中8箇所に作中作と
                   言う形で収録されている。祖父が書いたの
                   を「小説」と表現したが、正確な言い回し
                   ではない。祖父が書いたのは、あくまでも
                   「記録」だ。ただし、事実そのままの記録
                   ではなく、本質のみ捉え、目に見える事物
                   を小説的に装飾した、と言う事になる。
                    つまり久保のケースで言うと、彼は実際
                   には閉所嗜好症だった。其れも極めて病的
                   な。それこそ殺人に該当する部分を覗いて
                   は正しく彼の独白そのものであり……部分
                   的な記述から見れば、かなり先駆的な精神
                   病理レポートと言えない事も無い。

                    「確かに彼の不幸には同情しよう。しか
                   し、其れが彼の行動を正当化する理由にな
                   るかと言えば反対だな」
                    祖父の家業、神主兼古本屋から捻くれた
                   進化を辿り、現在精神医学を齧っている友
                   人…愛人か?…は言う。
                    「あっさり言ってしまえば彼は満たされ
                   たかっただけなんだ。其れを変に小難しい
                   虚仮脅しの理屈で正当化しようとしたのが
                   一番大きな間違いだった」
                    「誰かから愛されていれば変わったとで
                   も?」
                    「其れこそナンセンスだよ、セキ君!心
                   でも空間でも隙間が埋まれば良いと言う問
                   題ではないんだ。その隙間を埋めるのが何
                   かがメインテーマだ」
                    「では久保が求めていたのは愛情ではな
                   かった?」
                    「逆だよ。当人にしてみれば愛情だった
                   かも知れないが、結局彼は閉じこもる場所
                   を欲していたに過ぎない。其れが君のお爺
                   様と大きく異なる点だった。二人とも活字
                   で饒舌になるという点では共通してるけど」
                    「確かにね」
                    祖父にはそんな点があった。僕自身祖父
                   と直接言葉を交わした記憶はない。その祖
                   父が、電子メールの遣り取りでは思いがけ
                   ず饒舌で、優しかった。ハルとの関係に悩
                   んだ時も、彼はメールで1枚のカードをく
                   れた。深紅の薔薇の蕾。添えられた一言は、
                    『愛とは、直感と継続だよ』
                    それで、最後のラインを超える決心をし
                   た。
                    「でも、久保氏の独白は結局自分に始ま
                   り自分に終わっている。其れも、自分の中
                   に悪を見出さないままね。何処まで掘り下
                   げられるか判らないけど、同じ憑物が憑い
                   ている人達と、僕の好奇心の為に研究して
                   みたい」
                    「……君らしい言い分だな」
                    そう笑いかけて、もう一度キスしてやる。
                   今度は窒息寸前まで深く。絶頂感の皮一枚
                   手前まで。
                    「続きは公開するかい?」
                    「こう言う快楽は、密室の方がいいね」
                    今度、祖父に聞いてみよう。ハルの祖父
                   殿をどうやって射止めたのか。馴初めも気
                   になるし、役割についても、あの祖父が京
                   極堂を翻弄する腰遣いの持ち主だったと…
                   寝物語で僕を散々受け止めてくれたハルか
                   ら聞いても、今一つ納得出来ないから。


                    《コメント》
                     最初は整体院用に考えたネタでした
                     が…孫達の萌え加減に引きずられま
                     した(苦笑)初ネタや言うのに。
                     「魍魎」=引き篭もり、というのは短
                     略でしょうか?

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