その後の休息
「先輩!ペナルティ今日で何度目か判ってま
すか?」
隆志は校門で呼び止めた声に向かって肩をす
くめてみせた。
「まだ二度目だよな?おーちゃん」
「もう二度目ですよ。藤倉先輩。それにボク
は鴎地であっておーちゃんじゃありませんから」
隆志の横を歩く美野里は平気な顔で口笛なぞ
吹いている。まあ、内心の様子は隆志にはしっ
かり筒抜けな訳であるが。
『なーに気張ってんだか。この書記さんは』
四聖の戦いの修羅場に比べたらこの程度の嫌
味なぞどうでも良い事なのであろう。十五歳に
してある程度達観してしまうのも些か先行きが
怖いが。
「ちょ…鴎地もさ…余り言わない方が」
校門チェックにかり出された体育会役員がお
ろおろしながらとりなそうとする。隆志が体育
会でも一目置かれた存在であるから致し方ない
態度だ。
しかし、鴎地にしてみればそれはそれこれは
これ。あくまでもペナルティーはペナルティー
だ。
「せめて平均値登校して下さいよ。ボク等の
手間も省けるんだし」
「そう言う気持ちはあるんだけどな。悪いね」
「んっとにケーハクなんだから。ほら、さっ
さと行って下さい!」
鴎地に追い立てられる隆志と美野里。穏やか
な学園生活を満喫している彼らの頬は、綻びっ
放しだった。
四聖の戦いが終わりを告げてから一年の歳月
が過ぎていた。
天剣から朱雀の座を譲られ、紅龍として戦っ
て一年間。四方や当初は弟子候補に美野里が現
れるとは思いも拠らなかった。美野里の力は玄
武向きであると密かに思っていたから。
『力を継承する儀式の事は、知っているよな
?』
隆志は美野里に問うた事がある。儀式上の事
とは言え、兄弟で肉の交わりを持つ事になるの
だ。その事にためらいはないのか、と。
美野里にためらいは無かった。
『それを目当てに志願した、って言ったら軽
蔑する?』
逆に問われたが、隆志にもためらいは無い。
『燃費の良すぎる恋だよな』
苦笑いにくちづけで返された。もっとも、二
人の関係は結局戦いの間くちづけから先に進む
事は無かった訳だが。
二人がしっかりと肌を重ねるのは、この時点
から一年先の話となる。今ここでは語るまい。
兎に角、二人は四聖の戦いが終わった後普通
に学園生活に復帰した。とりあえず兄弟として。
「じゃ、俺こっちだから」
「ん。又放課後な」
「あ、兄貴、忘れ物」
「ん?」
掠めるように唇を奪われる隆志。そして満腹
した顔の美野里。
「じゃね!」
楽しげなオーラを振りまく弟の背中を見送り
つつ、隆志は肩をすくめ踵を返した。
戦いの後の平和を満喫する為に。
(了)
(2007.1.13脱稿/2007.1.13)