惑い月

 こんな風に他人を欲するのは初めてだ、と佐為は
戸惑って居た。肉体を保っていた頃であれば、冠を
被る様になった男が見目好き童子を愛でる事は秘め
事ではあれ咎では無く、宮中に居る者の内幾足かは
冠を被る前に誰がしかに寵を受けていた。佐為とて
も例外ではない。
 ヒカルの、子供から大人へ変わり行く狭間の肉体
が見せる煌きに佐為は心を揺り動かされていた。
 彼は自身が既に肉体を無くした想い残しの化身で
ある事を忘れ、ヒカルと睦みあいたいと希い、悶々
とした日々を過していた。

 「ヒカル」
 軽いいびきが一瞬止まる。そしてそのまま一呼吸
おいて又いびきが続く。
 「ヒカル」
 少し強くなる呼掛け。聞き慣れない、でもどこか
懐かしい高い声。ヒカルの意識が少しずつ浮上を始
める。
 「……んん…誰だ」
 『よ』とまで言い切る前に息を飲んでしまった。
ヒカルの目の前に居たのは見慣れた、でも見知らぬ
顔。見慣れた柄の水干袴姿の、ヒカル自身より少し
幼い童子。その白き顔は月光に照らされて一層白く
光っていた。
 「びっくりさせちゃいました?」
 「佐為、なのか?」
 「ええ。月に願かけしてこの姿に」
 呆然と立ち尽くしてしまうヒカル。その口元に一
瞬感じた熱さと湿り気が佐為の唇に由来するものと
理解した時には、既に彼の分身は熱く脈打っていた。
 「佐為、体…」
 「ヒカルが触る事のできる体が欲しいと言うのも
願掛けしてましたから」
 「そ…か…」
 一旦目を伏せる。でも、何かを思い切った様に、
顔を上げ、強い視線を返す。
 「佐為」
 「はい」
 「いいの?」
 「ヒカルの望むように」
 改めて、深い口付け。

 下半身だけ肌を露にしてくれとヒカルに言われ、
袴を脱いだ佐為の前に広げられたのは赤く長い布。
 「誰に教わったんです?」
 「…誰でもいいだろ」
 解けてしまうものなのだから締めずとも良いのだ
ろうが、ヒカルにはヒカルなりの思惑があるのだろ
う。芯を持ち始めた佐為の分身を上手にあしらいな
がら赤い下帯を締めてゆく。
 甲斐甲斐しく動くヒカルは白い褌を締め、素肌に
学ランを羽織っている。これは、佐為が望んだ事。
 「佐為こそ、なんかこう…」
 「丸裸と言うのが少し気恥ずかしいんですよ」
 「この方が絶対恥ずかしいと思う」
 ヒカルの股間を包み込む白布は、心なしか濡れて
いる様だ。

 佐為を背中から抱きしめて、口付けをせがむ。深
く、深く、より一層深く口付ける。溶け合ってしま
いたいと念じながら。
 「夢、みてぇ」
 「私もこういう形でヒカルと抱き合うとは、思っ
てませんでしたよ」
 ヒカルの堅さを感じようと、後ろ手で腰をぐっと
引き寄せる佐為。似た様な熱を最後に感じたのは、
一体何時の事だったかとふと物思いに耽る。ふと気
付くと、腰に感じた熱さが布越しのものではなく肌
から直に感じるものになっていた。佐為の下帯も緩
み、顔を覗かせた分身は童なりにはちきれんばかり
の頃合になっている。先には露まで滲ませて。
 「突きますか?」
 「いいの?」
 「したいのでしょう?」
 「でも、佐為の体が」
 「気にしないで。たとえ生身でも。全然知らない
訳ではないですから」
 「そう、なの?」
 「そう言う頃もあったのですよ」
 直にヒカルの分身を握って、先の具合も確かめる。
 「良い加減ですね」
 「さわ…っ…ん、っふ…」
 「出す時は触っているでしょうに」
 「佐為の、手が…」
 「私の手が?」
 「やわらかくて、小さいから、何時もと違う感じ
で」
 「感じてしまうんですね?」
 耳まで赤くなってただ頷くヒカル。それでは、と
手で握るのを止めて片足を上げてヒカルの分身を跨
ぐ様にする。いわゆる素股の一歩手前という姿勢だ。
 「これなら?」
 「これでもヤバイ」
 佐為の水干を握り締めながら息をつくヒカル。瞳
の潤み加減は、限界をもう疾うに超えて兎に角欲を
吐き出したいと訴えている。佐為の方も、正直限界
に近い。
 「突き方、判りますか?」
 首を縦に振るヒカルに口付けて、耳元で囁く。
 「私も欲しかったんです。存分に…」

 幾度となく精を吐き出して疲れ果てそのまま意識
を失ったヒカルは、瞼越しに朝陽を感じて気だるく
目を覚ました。
 「だりぃ…」
 思わず口走る程に、腰の辺りにだるさが集中して
いる。普通の吐精でさえ気だるいのに、増してや夕
べは……。
 「佐為?」
 返事は無い。
 「佐為?!」
 不安になって重ねて呼ぶ。
 「起きましたか?ヒカル」
 ヒカルの目の前に現れたのはいつも通りの姿の佐
為。でも良く見ると、首筋に一片赤いものがある。
 「ああ……その…大丈夫か?」
 「経験あり、ですから」
 小憎らしいほど穏やかに微笑を返される。
 「ちぇっ!疲れ損?オレ?」
 「疲れてませんけど」
 いきなり抱きついて、ヒカルの耳を一噛み。
 「感覚が残っていて、堪えるのが大変です」
 「そんなに?」
 「激しかったから、ヒカル」
 腰の辺りから背骨沿いに逆行してくる指の動きを
感じて、ヒカルは声を上げそうになる。まだ服を着
ていないので、傍からみると肌の上気加減で感じ方
が丸判りだ。
 「止め…」
 「ましょうね。学校もあるし」
 あっさりと中断されて、今度はヒカルが我慢でき
なくなる。
 「ずるいぞ」
 「だって、大人の体を抱いても楽しくはないでし
ょう?」
 「……うー……」
 「ほら、服着ないと。それとも軽く体を拭きます
か?」
 「触れる体、いつまで有効なんだ?」
 「判りません。自分でも願掛けが続いていたんで
びっくりしているんですから」
 「ふーん」 
 一寸考えて、佐為の水干の袖を引く。
 「なんです?」
 「佐為、子供を抱いた経験は?」
 「昨日の様に?」
 「うん」
 「それなりには、あります」
 「じゃ、もし今夜もそのままの体だったら、オレ
を」
 「私で良いんですか?」
 「佐為だから、良い」
 「承知しました」
 微笑んで、佐為はもう一度ヒカルの耳を軽く噛ん
だ。         
               (2004.6.24)
【後書き】
Mさんのサイト2周年&30万ヒットお祝い、そして
今回戴いたキリリク絵のお礼も兼ね、絵から連想
した話を定着させてみました。
ヒカ碁二次創作は今まで書きたいなと思った事は
あったのですが、きっかけが中々掴めなかったの
です。いい機会を与えて戴いたな、と思っています。

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