Tくんの告白
「これにも出てないや。」僕は溜め息をついて本を閉じた。 パパの書斎から見付からないように苦労して持ち出した 分厚い医学事典なのになあ。それとも医学事典にも出て ないような難病なんだろうか?? 「どうしよう?すごい大変な病気だったら」 そんな不安を口にしたら考えはどんどん悪い方向に進んで いくだけ。僕の脳裏には病気で痩せ衰えた僕の大切な人の 姿が思い浮かんだ。骨が目立つ手で弱々しげに僕の手を握り、 「いままでありがとう」とほほ笑む顔を想像したらもうだめだ。 なんか涙がこぼれそうになってきた。負けるもんか! どんな大変な病気でも必ず治療法の1つや2つはあるはずだもん。 絶対に僕が治してあげるんだもの。いっそのことこっそり お兄ちゃんに相談してみようかなあ。大人の意見を聞くのも 有効かもしれないし。そりゃあお兄ちゃんも子供だけどさ。 でもなんかいい治療法知ってるかもしれないもん。 うん、そうしようっと! 僕の大切な人、幼なじみで大の親友のあっちゃんがおかしく なったのは最近のこと。僕達は赤ちゃんの頃からの親友で いつも一緒。幼稚園も小学校も来年進学する中学も同じところに 行く。家も近所だしいつも僕の遊び相手はあっちゃんだった。 その大切な親友のあっちゃんのあんな大切なところが時々腫れる ようになったのは最近のこと。腫れて堅くなって先っぽがヌラヌラ してきちゃうアレ。僕はいつもそれを治療してあげるんだ。治療と いっても手で撫で撫でしたり、湿疹の薬を塗ってあげる位しか 出来ないんだけど。 でもそうしてあげるとそのうち白い膿みが出て腫れもひくから 有効な対症療法だと思うんだよ。 ただその頻度が最近毎日になってきちゃったんだ。この間なんか 体育の授業の後でそうなって、トイレの個室であわてて撫でる 緊急治療もしたんだよ。このままではだめなんだよ。 根本的な治療が必要だよ。 でも、あんなところをお医者さんに見せろなんてあっちゃんに 言えないよ。僕だったら絶対に絶対に厭。恥ずかしいもの。 だから医学事典で調べてみたんだけどさあ・・・困った問題が あったんだよ。 ああいうところの病気の頁って図解説明してるんだよ。 それがこわくて頁をめくることが出来ない僕。 それに書いてあることを読むのも胸がドキドキして爆発しそう になってだめだめ。 仕方ない、大切な友達のためだ。パパに聞くのははずかしい けどお兄ちゃんなら大丈夫だよ。 「哲也、それって・・・」 勇気を出してお兄ちゃんにあっちゃんの症状を説明した僕。 お兄ちゃんは最初すごく驚いたけど丁寧に説明してくれたんだ。 白い膿みは赤ちゃんの素が入っていること。大人になれば 誰でもそれが出ること。だから病気じゃないって教えてくれた。 「良かった〜…病気じゃなくて」 これで一安心したよ。じゃあもう1つ聞いてみようかなあ? 「でね、あっちゃんのを触っていると僕がへんな気分に なるのはなんでだろう?」 「へんな気分??」 「うん。なんか胸の中がザワザワして熱くなるの。」 お兄ちゃんはもう1つの答えは教えてくれなかった。 僕が大人になれば判るって。 「兄弟揃ってこんな道に進むなんてなあ〜」 そうつぶやきながらお兄ちゃんは僕の頭を優しく 優しく撫でてくれたんだ。 大人かあ、僕も大人になればあっちゃんみたくなるのかなあ? 僕のはまだ毛も生えてないし小さいんだけどなあ。 本当にあんなに大きく堅くなるの? それにお兄ちゃんはこう言ったんだ。あんな風に大人になるのは 結構痛かったり大変なんだって。 だからこれからもあんな風になったら僕が治療してあげなって。 僕は親友からあっちゃん専属のナースになったんだ! これからも治療してあげないとね。