「それは昔々の物語」
そんなありきたりの言葉から始まる。
昔、この国中にはドラゴンの噂が広まっていました。
「今は寝ているが、起きたらこの国を滅ぼす」
「ドラゴンの血を浴びると不老になる」
「人間を食べて暮らしている」
多くの人間がドラゴン退治へと出かけそのまま帰ってきませんでした。
ドラゴン退治も半ば諦められた頃、
少年が少女を探しに森へと向かいました。
少女はよくどこかへ遊びにいっていましたが、今回は帰りが遅いので少年が探しに行くことにしたのです。
そして少年は少女を見つけました。
ドラゴンのすぐそばに。
そう、大好きな少女が横たわっている姿を。
少年は気がついたらドラゴンにナイフを突き刺していました。
少女は助かり、不意打ちとはいえドラゴンを討ち取った少年は周りに英雄としてあがめられましたが、何故か少年はすぐに姿を消し。
気づいたときには助けられた少女の姿も無かったそうです。
「おしまい」
「さぁもう寝る時間ですよ」
「まだ眠くない〜お話して〜」
布団に包まれたまま少女が女性の袖を引く。
その姿に女性は困りながら、
「仕方ありませんね、ではこの話の続きを」
此処までのお話はこの国に伝わる昔話。
ですが、ここからは隠されてしまったお話のすべて。
それは少女のお話。
その少女は力持ちで心優しい幼馴染の少年のことがとても好きでした。
少年も少女のことを好いていてくれたらしく、そのままならばいつか夫婦となり、幸せに暮らしたでしょう。
少女はある日森の中で迷子になり、不安に駆られさまよっていた時に「彼」に出会いました。
少女は自分とは違う存在に恐怖を感じたものの、人の言葉を解する「彼」に対する恐怖は少しずつ薄れていき、別れるときにはずいぶんと仲良くなりました。
「友達になったの?」
「友達……そう、友達だったんでしょうね」
少女はそれから度々森へとはいり、「彼」のところへと話をしに行きました。
彼は少女の知らないことを多く知っており、少女はその内容に興味を持ちました。
少女は彼の知らないことをいくつか知っており、「彼」はその話を聞きたがりました。
そんなある日、少女は暖かな日差しに誘われ眠ってしまいました。
眠っている間に変える時間を過ぎ、少年が探しに来るとも知らずに。
少年は眠っている少女を見て、「彼」が少女を襲ったのではないかと、そう思った瞬間頭の中が真っ白になり、気づけば「彼」にナイフを突き立て血を浴びていました。
少女が「彼」の最後の悲鳴に起こされたときには一面は血にまみれ、目の前には友達となった「彼」の動かない姿と、大好きだった少年の血まみれの姿がありました。
少女は恐怖してしまいました。
この目の前で血まみれになり息を荒げている少年のことが。
大好きだったのに。とても大好きだったのに。いや、大好きだったからこそ。
変わり果ててしまった、血まみれのケモノだと思えるほどに。
そして恐怖を少年にぶつけてしまいました。
こないで! 近寄らないで! 人殺し! 優しかったのに!
文章にすらならない言葉を感情のままに少女は泣き、少年にぶつけ拒絶してしまいました。
その後少年は英雄と祭り上げられましたが、少年は事実を知ってしまいました。
「彼」が大好きな少女の友人だったことを。
「彼」が人を傷つけたりなどしていなかったことを。
誰よりも大好きで誰よりも信頼している少女から教えられてしまったのです。
少年は自分の中の真実と周りの人間の真実に押しつぶされ、擦り切れ、いつしか心を病んでしまいました。
少年は何度か自殺を図ったようですが「彼」の血に濡れ不老となった所為か簡単な傷では瞬時に治り、死ねず。
どこへともなく去って行ったそうです。
その頃には少女は大好きだった少年に感情をぶつけてしまったこと、一時とはいえ少年に対し恐怖してしまったことを後悔し、少年の下から姿を消していました。
少年と少女は消え、伝説だけが残りました。
ですが二人は「彼」の……いや、「ドラゴン」の血を浴びたので不老となっているのです。
今もどこかで少年は心を痛めているのでしょうか。
今もどこかで少女は後悔をしているのでしょうか。
「……」
「すぅ」
眠ってしまった少女に布団をかけなおし、女性は部屋を出て、
「おそらくあの子はもう覚えていないでしょうけど、私は覚えてる。いつまででも」
一言だけ呟きドアを閉めた。
閉じられた扉の向こうではひっそりと月の光だけが少女を照らしていた。
一応これで一話終わり。
続かない……ハズ。続きなんか考えてないし。少年はそのころのことなんか覚えてないし、少女は別にこだわってないし。この二人が偶然であったりしない限りお話は続かない。
てかドラゴンと言ったけど、要は異人種あたりが実際のところであり、明らかに自分たちとは違うという印象を持つが、ヒトの範疇である。
まぁ人魚伝説とかそのあたりに近いかな。
魔女狩りとかそこらへんも混ざってるかも。実際ドラゴンを退治に行った人間は死んでもどってこないんじゃなくて見つけられないからもどるにもどれないだけw