あぁ
まただ、今日も また。
頭が痛い。
鯨飲不明の頭痛に悩まされながら左は本日何度目かも分からない溜息をついた。
ソファに座り、借りてきたDVDを見ている途中飽きたのか、
クッションを抱きしめたまま眠ってしまったミツル君に目を向け
起こさないようにそっと立ち上がると意外な事が起きた
「左」
「っ・・・と・・・起こしてしまったかい?」
「起きてた」
「・・・いつ頃から?」
「今の溜息から4回前らへんから」
その”4回”がどれだけの時間を経たせているのか僕には皆目見当もつかなかった。
「・・・頭痛いの?」
「あぁ、まぁ」
適当な返事を返す
本当は溜息などついているところを見られたくなかったのが本音ではあるが、
気付かれてしまったものはどうしようもなかった。
「病院行ってきなよ」
「いや、薬飲めばすぐにおさまるから」
「・・飲みすぎって身体に良くないじゃん」
「心配してくれているのかい?」
「そりゃこないだから溜息つきっぱなしだし」
以外だな、と思いながらも顔が緩むのがわかった
棚に入っている頭痛薬を取り出そうとキッチンへ歩みを進めようとするが前に進む事が出来ない
大体の予想はついていたが、一応振り返ることにする
「・・・・何だい」
「まぁ座りなよ」
「薬を」
「良いから」
つくづく彼には弱いと思う
薬を飲みたいのにこうやって服を引っ張られても僕は彼を咎めたいと思わない
これが彼なりの愛情表現であると気付いたのは最近の事である
口では皮肉を洩らしても僕のことを心配してくれているのだ
・・・・これは僕の都合のいい解釈だろうか
「左」
そう名前を呼ばれてミツル君の方を向けば眼鏡を外され片手で両目を隠される
何事かと思い声を掛けようとすると
「良いから、目瞑って」
大人しく彼の言う事に従う。
年頃の少年にしてはあまり大きいと言えない手のひら
しかしその手には確かなぬくもりがあった。
元来誰かに触れられる事は好まないが、彼に触れられるのは嫌ではなかった
香水をつけているわけではないのにミツル君から仄かに香る匂いが僕は好きだった。
ふと彼の口から零れる意外な言葉たち
左さ、最近あんまり寝てないでしょ
練習もして、遅くまで勉強して、僕の相手までして。
気付いてないとでも思ってたの?
知ってたよ、ずっと頭が痛いのだって
心配掛けたくないから言わなかったんだろうけど
言われない方がよっぽど心配だよ
と。
彼がこんなにまで素直な言葉を並べるのは初めてだった
そこまで心配をかけてしまってたのだと思うと心が痛んだ。
「・・・・しばらく寝てなよ」
「でも」
「仕方ないからご飯ぐらい作ってあげるよ」
「・・・そうですか」
好意に甘えてベッドに身体を預ける
何時の間にか頭痛は治まっていて、彼からはフィトンチッドという成分が出ているのかもしれない。
この間講義で習った言葉の意味を考え一人顔を緩ませながら眠りについた
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20041012
フィトンチッド:森林が自浄のために発散する芳香性の物質で殺菌力を持っているものらしいですよ