明日海を見に行こう
海
「海・・・行きたいなぁ・・・」
昨日の昼間、窓の外を見ながらミツルがぽつりと呟いた。
無意識に言ったのかは定かではないが、翌日俺は寝ぼけ眼のままのミツルを起こした。
「・・・ん・・まだ早いじゃないですか・・」
眠そうに両手で眦を擦るミツルを抱き上げ服を脱がせると
とたんに暴れ出す。まぁ、予想の範囲内だけれども。
「な、何してんですか!!」
「起きたか?」
「起きたも何も・・・」
「起きたなら早く着替えろ」
床におろし、服を投げてやるとミツルが渋々と着替えだす。
俺が身勝手な事をしてもミツルは怒らず、小言を言ってもなお必ず俺の後ろに居てくれる。
ミツルが居る事を知っているから俺は多少なりの我儘を言えるわけで
「・・着替えましたよ〜」
「行くぞ」
「え、ちょっと宇童さん!」
がっちりと腕を掴まれ、ずるずると引きずられるように外に出る。
あぁ、宇童さんちゃんとカギしめてください
「そ、そんなに急いでどこに行くんですか・・」
「海だ」
「はい?・・・A,Tは」
「電車でだ」
宇童さんは結構気難しい人だ。というか・・・ただの気まぐれかもしれない・・・(有力)
今だってそうだ。A,Tではなくわざわざ電車で行こうとする。
ここから電車で30分の距離だからそんなにかからないはずなのに
そうこうしているうちに駅についてあれよあれよという間に
切符を改札に通して電車を待っている状態にある。
「・・・・宇童さん」
「何だ」
「どうしたんですか、急に」
「・・・・やっぱり無意識か」
「え?」
「・・・いや」
昨日のアレはやはり無意識だったらしい。
それはそれで仕方ないが、無意識でも俺はミツルの行きたい場所ならどこでも連れて行ってやりたいと思う
とりあえず電車に乗り込み休日にしてはガラリとすいた車内の席に座る
この車両には俺たちの他にたったの2人しかいなかった
「ミツル」
「えっ、はいっ」
「・・海が好きか」
「・・・・えぇ、はい好きです」
「俺も、好きだ」
広くて綺麗だから。
ただミツルは嫌いな部分もあると言った
夜の海が嫌なのだという。全てを飲み込んでしまいそうだから、だそうだ
暫くして車内アナウンスが駅名を告げ、改札を抜ける。
すると急にミツルは俺の手を取って
「走りましょう、宇童さん!」
子供のように無邪気な笑顔をきらきらと向けて
自分より幾分か小さな手を握りしめて、走り出した
目の前の、海に向かって
*
「キレーですね・・・」
「・・・・あぁ」
細やかな砂上に腰を下ろし太陽の光を反射させた水面に目を奪われる
美しいそれは、きらきら きらきらと輝きを放ち俺たちを釘付けにする
ふいにミツルが言葉を発する
「・・・連れてきてくれて有り難う御座います」
「・・気にするな」
夕日と重なり合った海は美しいまでにオレンジ色に侵食されていた
そっと僕の手を握ってくれた宇童さんの少し冷たくも優しい手は、
これから忘れる事が出来ないのだろうなぁと思いつつも
海は僕の嫌いな夜の海へと変貌する。
それでも嫌だと思わないのは、隣りに宇童さんがいるからだろうか
真実は、未だわからない
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思い浮かぶ一文字のタイトル第二弾。海が、すきです。
20040928