今日、また新しい家族が増えた。 名前は『はじめ』というらしい。 「はじめまして、これからお世話になります! 押忍!」 ここに来たばかりで緊張しているのか、身体を強張らせてそう自己紹介する黒の柴犬は、 まだまだ身体はチビっこいがつぶらな瞳に強い光を宿す、なかなか根性のありそうな奴だ。 「おう、俺は『りゅうた』っていう名だ。よろしくな!」 ぐいっと鼻を寄せてそう挨拶してやると、何故だか奴はとても驚いたようだ。 慌てて身を引いてペタンとしゃがみ込んでしまった。 「は、はい、よろしくおねがいします…」 勢いの良かった最初の挨拶とは正反対に消え入りそうな声でそう答える。 顔が赤いが、興奮しすぎて熱でも出しちまったのだろうか。 「コラりゅうた、新入りを驚かせるんじゃない。 …お前は色々と行動が大雑把すぎるから少し気をつける位が丁度良いのだぞ」 団長─本来の名前は『かい』というのだが俺達は敬意を込めて団長と呼ぶのだ─が鷹揚に俺を嗜めたが、 かくいう団長はかなりでけえ土佐犬で、勿論すげえ強い。 俺はその姿もこの新入りをビビらせてる原因なんじゃないかと思ったりする。 いや、実際の団長は自分の強さを鼻にかけて威張ったりはしないし、俺達皆の事をいつも気にかけてくれている。 そんな団長が物凄く格好いいと思うし憧れてもいるんだが、初対面の奴にはそこまでわからんだろうしな。 「いえ自分はその、あまりご挨拶には慣れていなくて…」 「ああ、そういえば今まで余り外には出てなかったんだったな」 「はい。ですからこんなに沢山の方とお会いするのも初めてでして」 「ふむ、だがこれくらいで驚いていては身が持たんぞ。早く慣れる事だ」 「お、押忍!」 …なんか結構打ち解けてるな…。 と思ったら俺の横に控えてた『あつ』が、新入りは団長が拾ったも同然なのだと教えてくれた。 迷子になってた奴を助けたらすっかり懐かれたということらしい。それまで箱入りだったが、団長と出会った 事で何か感じ取るものがあったのか、自ら進んでうちにやってきたというのだ。 成る程なぁ。 でも付け足しで「なんだ、焼き餅か?」はねえだろう。『てつ』も一緒になってなんかニヤニヤ笑ってるみたいだ。 俺はそんな器のちっせえ奴じゃねえ!…と思う。 多分。 「お気を悪くさせてしまったらすみませんノ」 肩を落としてションボリしている新入りを見ていると無性に構ってやりたくなってしまったから、 ペロリ、と鼻の頭をひと舐めして言ってやった。 「そんな訳あるかって! これから仲良くしてくれな!」 再び顔を真っ赤にしてへたり込んだ奴を見て、 俺はこれからどうしたらこいつの心を開くことができるのかを考え始めたのだった。 |
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