ゆるい口どけ







、起きろ!おいコラ!」

「・・・ちょっと、跡部先ぱい!」



がこん






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「・・・は?」



跡部がベンチに容赦なく蹴りをいれた。しかも。跡部の横には、うろたえた長太郎が!


「人がせっせと練習やってんのにどうしてお前はベンチで寝てんだよ、ふざけんなテメー」

「あ、ああ、気付いたら寝てた。寝る気なかったんだわマジで」

「寝る気無くても寝たら一緒だろうが」



そこまでいうことないじゃん!あほべ!と叫ぼうと息をすいこんだら、罵声の代わりに咳がでた。咳き込むわたしを見た跡部は(風邪なんてそんなもん、気合いがある奴は、ひかねんだよ。もうちょい根性みせろ)とか言いつつコートへ戻っていった。




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先輩・・・・・・だいじょぶですか?」




(長太郎は跡部についていかないで、わたしの側へ残ってくれた。)






「う゛、う゛ーん。」

「無理は良くないですよ。」


そう言って、また咳き込みだしたわたしの丸まった背中を、さすってくれる。長太郎は背が高いので、ベンチに座っているわたしのために、わざわざ膝をまげてくれたようだ。足元が長太郎の影で暗くなったのを見たらひどく胸がいっぱいになった。


「いつから具合悪いんですか?」

「今日の昼過ぎ、くらいじゃないのかなあ」

「そうなんですか。それにしても、跡部先ぱいあれでも結構心配してたみたいですよ、先ぱいのこと。」

「でもベンチ蹴るのには正直ビビったから・・・」

「俺も焦りましたよー。。かなり。」





「そういえば先輩、うたた寝してたから寒いんじゃないですか?」

「そーいえば、、寒いかも。。」

「よかったら俺のジャージ貸しますけど。着ます?」


「えっ!、あ、、はい。」



「やだなあ、なんで先輩が俺に敬語なんですか?変ですよすごく。あ、じゃあ俺ちょっとジャージとってきますね」






どうしてここまで優しいんだろう。そんなに、わたしをつけ上がらせないでほしい。あまりにも嬉しすぎて、今すぐにでも気がゆるんだら(ちょた、すき、)と、うっかり告げてしまいそうだ。しかもわたしときたら、ちょっとずうずうしいかもしれない。ジャージ借りるなんて・・・。でも、だって、しょうがない。わたしの口は勝手に(はい。)と言ってしまったのだから。考えるよりも先に声になったのだ、わたしの思いは。











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「どうぞ。」

「ほんとありがとー。」

「いえいえ。身体、気をつけてくださいね。」

「じゃ、練習がんばって。」

「はーい」






長太郎のジャージに袖を通す。それも、すごく恐る恐る。そして今までの比じゃないくらい、あったかくなってわたしは本当に心がうきうきして、ベンチの上に体育座りをした。そしたら跡部に(靴を脱げバカヤロウ)と言われたので、すぐやめた。でももうカリカリしない。だって長太郎のジャージきてるし!







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練習が終わり、わたしはまた恐る恐る長太郎のジャージから腕を抜いた。ひどく寒い。変なしわができないように慎重にたたんで、小脇にかかえ、コートの片付けが終わるのを待った。





「ちょうたろ、」




小さな声で、よんでみた。大好きな長太郎。明日だって明後日だって会えることはわかってる。でもね会うたびに進展があるとは限らないからわたしはこんなにも不安なんですよ。





「長太郎!」



今度はおっきな声で呼んだら、長太郎は片付けを終えたみたいでわたしの元へ走ってきた。




「あのこれ、ジャージ、 ありがと」

「いえいえ。」



長太郎はジャージを受け取るとそのまますぐにTシャツの上から羽織った。そして。



先輩が着てたんで、あったかいです。どうも。」





不意討ちとしか思えない殺し文句を屈託の無い笑顔で言うのでわたしの意識は遠く彼方へ。

(あったかくなってた?そりゃよかったよ!)なんて言えばいいのか全くわからずただ顔を少し赤くして、口をパクパクさせた。長太郎はそんなわたしに気付いているのか気付いていないのか、跡部の(集合)の掛け声の方へまた走っていったのだった。





こういう、わたしの日々のドキドキ感を長太郎は知っているのだろうか。いやきっと知るわけないだろうね。だからいつかわたしが教えてあげよう、つたない言葉でも許してくれるというのなら。








the end.

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