game of love.
「俺は生物の方がロジカルで面白いと思うけどな」
3ヶ月ほど前くらいのことなのに鮮明に思いだせる、あの目あの声あの唇。
思えば手塚としゃべったのはあれが初めてだった。
そしてわたしは、まんまと教科選択で生物を選んでしまったのだった。
(ちなみに、logicalの意味は未だに知らない)
わたしは手塚の何気ない一言から、人を好きになるのに
大した理由なんて要らないということを知った。
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「ねえ手塚、」
「なんだ?」
「手塚って好きなコとか、いる?」
「・・・・は?」
「いや、だからあのさあ、好きな子いるー?って。」
「居ない。俺は、そういうことに今興味が無い。」
「・・・ふーーーん・・」
嘘のような気もしたし本当のような気もした。とりあえず、うまくかわされてしまった。
わたしはすることが無くなって、眉をひそめて手塚のノートをのぞきこむ。
ビッシリと書き込まれたノート、わたしよりも几帳面でグッときれいな字。
筆跡はやや弱めで、鮮やかに走り書きされた数式にわたしは軽い眩暈を感じる。
「何か数学わからないとこでもあるのか?」
「や。違う、ただ、手塚は頭いいよなって。」
「褒めても何も出ないぞ」
「別にそんなつもりじゃないもん。」
「ただ手塚とあたしは次元が違うなって思っただけだもん」
「・・・・・・・」
最後がセリフに思いがけずヒガミっぽくなってしまった。悪意は無いのに。
手塚は黙り込んでて、いよいよ気まずい。
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「別に俺との次元は一緒だと思うんだが」
しばらくして、手塚はそう言うと少し笑ってわたしの頬を両手で挟んできた。
その目つきはなぜか半分冗談で半分本気。え?何?と聞こうとしたら、
間髪入れずに3ヶ月ほど前と変わらぬ薄い唇が近づいてきた。わたしだってばかじゃない、
何をされるかくらいすぐにわかった。
(間近で見た手塚の黒目は知的な匂いがした。)
でもなんで?手塚は好きな子いないし興味無いってゆったじゃん、
それも、今さっきゆったばっかじゃん。でもどうしよう。さっぱり身体が動かない。
「からかわないでよ」
震える唇でつぶやく。ちょっと手塚の目が驚いたように少し見開かれた。
でも、わたしの精いっぱいの抵抗に、ひるむ素振りは全くなし。
きっと手塚にとっては、ばかなわたしの心を読むことも、
それを操ることも、たやすいことなのだろう。だからこんなにも強気な行動に出れるのだ。
憧れの混じった、この微かなわたしの思いはきっと、バレている。とうの昔に。
スポーツにしろ、色恋にしろ、勝負というのは最終的に頭脳戦なのだ。手塚なんかに勝てっこない。
------負けを確信した瞬間に、クタッ、と全身の力が抜けた。
すると、それを待っていましたとばかりに、わたしの頬に添えられていた大きな手は
ずうずうしくも背中に回ってきた。
もうわたしは抵抗しなかった。
the end.
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logical;論理的な,筋の通った