「はやく言ってよ、外寒いんだから」 わたしは自分が震えてるのがバレないか不安に思いながら、精いっぱい強がって見せた。跡部はいよいよ機嫌が悪い。 「俺が言いたいのは、じゃあお前は、はどうだったのか、ってことだよ。」 「え?」 「俺のこと1番好きだったって言えんのかよ」 「自分より先に俺のこと考えれたのかよ」
「そりゃそうだよ。考えれたよ。」 わたしの声は意に反して涙声であった。だってわたしは確かに跡部のことが好きだったのだから。まあ、(好き)という気持ちをすぐに過去形に出来るほどわたしは大人ではないけど。つまりは、まだ好きっていうことなんだけど、あのどうしようもない男が。全然認めたくないけど。
「嘘だな」 「・・・・・・・えっ?」 「デタラメゆうな」 「ふざけないでよ」 「そりゃお前だろ」 「どういう根拠なわけ?」 「だって、ほんとに好きだったらこんな簡単にハイさよならとか言えんのか、あ?」 わたしの目に頬に唇に、跡部の視線が刺さる。一体どこまで跡部は馬鹿なんだろうか。無神経が服を着て歩いているといってもまだ足りないくらいだ。 「跡部すげーバカ」 「バカっていうな」 「だってバカじゃん。付きあってたくせになんであたしの気持ちとか、わかんないかな、あ゛ー」 「知るかよ」 「察してこそ彼氏でしょ」 「俺エスパーじゃねえし無理」 ------------ 急に冷たい北風が吹いてきて、妙にわたしの頬がヒヤリとした。 跡部は黙り込んでそうっとわたしの頬に手を伸ばす。今の跡部の手つきはこんなに優しいのか。なんで、その手は温かいのか。いつの間にか出ていた涙。跡部はわたしの目じりをゆっくりと拭った後に指先で頬の涙の道筋をツウッとなぞった。お願いやめて、その手はわたしの感情を封じ込めている頑丈なフタを取ろうとするのだ。執拗に。ねえなんでアンタ、ちょっと笑ってんの。あたしを小ばかにしたみたいに、あたしを慈しむみたいに。そんな目してこないで今さら。 「 つーかさ、今、お前の心よんでやったよ」 「エスパーじゃないってゆったじゃん、なんで?」 「なんででも、だ」 「お前まだ俺のこと好きだろ」
「そうなんだろ?」 なぜか、その言葉だけ少し弱々しい気がした。声が小さかった気がした。瞬間、わたしの思考が停止する。 (不意討ちのキスは卑怯としか言いようがなかった。) --------------- 「な、何す・・・」 「あ?文句あるのかよ」 「だって、わたしのことウザイって言った、」 「言ってない。」 「・・・・・・・・(もういいや)」 「なあ、、」 「んー?」 「お前のことはさ、2番目に思ってるから。」 「はあ?」 「俺の次」 「・・・・・・・・・・・・・」 「俺自身を除けば、お前1番だから。」 「俺は例外なわけ。不動の1位。お前はその次。」 「なにそれ・・・・・・・」 「泣いて喜べ。光栄だって思えよな」 「え、じゃあわたし、 実質1位?」 「調子のんな」 「うん、 のんないから、ね?」 わたし達はその日はじめて向かい合って笑った。やっぱり跡部は笑ったほうがかっこよかった。でも敢えて言わなかった。だってそんなこと言ってもきっと喜ばないから。わたしが跡部に出会って学んだことは、本当にかっこいい人はかっこいいと言われても喜ばないということだった。そういう人は小さいころから周囲にかっこいいと言われてるから、慣れすぎて、そんなにイチイチ感動したりはしない。仮に言ったとして、あっそ、そりゃどうも、くらいのもんだ。わたしだったら、カワイイっていわれたら、そのありがたい言葉を額縁にいれて飾るのだろうね。 「ボーッとしてんな。帰るぞ」 「・・・あ、うん!」 「お前が寒いから帰るつったんだろ」 「言ったっけ?」 「ふざけんな、ほら、手だせ」 やっぱり、道を歩くのなら跡部の隣がいい。 今となっては、この胸にある憂いも焦りも悲しみでさえも、跡部に繋がるものは全て愛しいのだ。 the end. |