SUBJECT:008
師 匠
師匠が差し出す右手の小指、
それ対になる様に俺も右の薬指を差し出す。
「「約束」」
まるで俺たちの儀式を見守るかのように、言葉に出来ない素晴らしい空の色だった。
その美しさは言葉には出来ないけど、今でも鮮明に俺の中に色づく空の色。
そんな中で交わした指きり。
師匠との “約束”。
どんな時も兄弟力を合わせて生きていく事。
決して弱き人を見てみぬ不利をしない事。
“正義”をオモテ名に弱き民を平気で巻き込む、そんな軍に力は貸さない事。
錬金術のもつ能力を過信しない事。
「…良いな?」
何点か挙げると師匠は頷いて指切りした俺の頭を優しく撫でた。
こんなに優しい手の温もりはあんまりにも懐かしくて心地良くて縋りたくなるが、
その気持ちを必死で堪える。
この人は姉でも母でも無く、紛れも無く師匠。
それ以下でも、それ以上でもなく。
するとココロもち、微笑んだかの様に見えた師匠は言葉を続けた。
「そして…人の優しさ、人のこの温もりを忘れるんじゃないぞ」
そうして頬を撫でた師匠の掌はとても温かった。
「兄さん…?」
目の前に座っていたアルが怪訝そうに覗き込んできた。
素で右手の機械鎧にふれていた俺は、
「何でもねェよ」
とアルの体を小突いた。
アルの鎧も俺の右腕と同じで冷たい……。
電車に揺られ師匠の居るダブリスに向かう道中、
俺はオートメイルに換わった自分の右手の薬指をジッと見つめた。
あの時は感じた温もり、感覚も今は――――
「………師匠、怒るだろうなァ…今度こそ、命無いかもなァ…」
ため息交じりに力無く呟くエドに、
アルも大きな鎧の体を丸めた。
「留守……だと良いね……」
エドとアルの思いとはウラハラに電車は軽快なリズムをたてて
ダブリスの町まで進むのであった。
END.
![]()