その日はこれから起こる事を予期したかのような荒れ狂う嵐の日だった。
ピノコと孫のウィンリィが作業をしていると突然扉が開き、
大雨に打たれたびしょ濡れの鎧が駆け込んできた。
突然の出来事にその場に居たピノコもウィンリィも驚きのあまり言葉が出てこなかった。
だが、2人が驚いたのは扉が勢い良く開いたからでも、 鎧と化したアルフォンスにでもなかった。
鎧のアルフォンスに抱きかかえられ、片腕・片足をもぎとられたかの様に無残に失くし、
血だらけで瀕死の状態にあるエドワードが何よりも2人の目に鮮烈に飛び込んできた。
それから意識を取り戻し、体調は回復したもののエドワードの精神といったら酷く荒んでいた。
あれだけ綿密な計画を立てた人体練成だったのに、創るどころか失ったモノの方が遥かに大きかった。
自分だけならまだしも、弟を巻き込んでしまった為、塞ぎこむエドワード。
車椅子に座ったきり、何かに焦点を合わす事無く窓の外の遠くを仰ぎ見ている。
毎日同じ。
表情の無い顔、ずっと着替えないままの室内着。
ウィンリィは “いい加減にして!”、とイッパツ喝を入れようと考えていた時、
見慣れない男が部下らしき女性を連れて尋ねて来た。
「軍の人間が何の用だい」
ピノコは突然の訪問者に眉を顰めると、さも嫌気がさしたかの様に呟いた。
それから、その軍部の人間はエドワードと何やら話すと去って行った。
エドワードに変化があったのは、次の日の見違えるように晴れた朝だった。
目------
エドワードの目が違った。
「ばっちゃん・・・家にまとまった金があるんだ・・・」
血に染まった包帯を取り替えているピノコにそれまで口を閉ざしていたエドワードは
不意に口を開いた。
「馬鹿・・・つまんない事気にするンじゃない」
ため息混じりに答えるピノコに
「違うんだ。 その金で俺にオートメイルを付けてくれ」
ピノコはその言葉を一瞬聞き違えたかと疑い、思わず動きを止めた。
オートメイルとはとても便利な物であったがそれ以上に体の神経を繋ぐ手術の痛みといったら、
大の大人でさえも泣き喚く程なのだから。
「そして俺、国家錬金術師になる。」
その場に居たアルフォンス、ウィンリィも只驚いて立ち尽くし、エドワードの話を聞いていた。
初めは何かの冗談かと思っていたが一晩明けて何か目的を見つけ、見違える様な強い目を宿した
エドワードになぜか胸が高鳴る弟のアルフォンス。
逆にウィンリィは、一夜にして何も話してもくれず勝手に歩む道を決めたエドワードに少し顔を曇らせた。
「国家錬金術師になれば、国家が管理している貴重な文献も読めるし、予算が支給されて
自由に研究も出来る。 それにあの時計は錬金術師の力も増幅する事が出来るって聞いた」
「・・・こうも聞かなかったかい?」
とりあえず、エドワードの話を黙って聞いていたピノコは眼鏡の奥の目を光らせた。
「一度戦争が始まったら、戦争に駆り出されるし命令があれば大衆の為に使う錬金術で人の命も
奪う事になるって。軍の人間になるっていうのはそう言うことだ」
「・・・軍の狗だって構わない。俺にはやらなきゃいけない事がある!」
エドワードは握っていたこぶしを更にきつく握り締めた。
目から伝わるエドワードの意志の強さにピノコも言葉を失ったのだった。
大人だって悲鳴を上げる神経を繋ぐ手術。
エドワードは唇を噛み締め、声を押し殺し我慢しようとするが時折押し殺した筈の声が漏れる。
そんなエドワードの頑張りに、ピノコも手術を施しながら驚愕の色を隠しきれなかった。
「こんな痛み・・・あいつに比べたらっ・・・」
痛みに耐え、自分を戒めるかの様に漏らした言葉。
その言葉は手術室の外で頭を覆っているアルフォンスには届いてはいなかった。
「・・・・・・よしっ」
失ったはずの片腕と片足にオートメイルを装着したエドが湖の畔に出てきた。
「兄さん、具合はどう?」
横に付き添っていたアルフォンスが心配そうな声色を出した。
「まだ慣れないけどな。でも、やっぱり手足があるってのは良いな・・・!自分の足で、
前に進もうって気になるよ」
エドワードはゆっくり歩むと、大きく背伸びをして自然の空気を久しぶりに思い切り吸い込んだ。
「兄さん、・・・・本気で国家錬金術師になるつもり?」
「やめなよ・・・・・・・・」
背中を向けたまま返答のない兄に向かって、ポツリと否定的な言葉を吐くアルフォンス。
「・・やめ・・なよ・・・・・・」
目線をエドワードの足元に落とすアルフォンスだったが。
「決めたんだ」
力強い返答が返ってきたと思ったら、背を向けていたエドワードの足がこちらを向いた。
「な・・なんでっ!・・・・・・だったら、僕がなる!そして、兄さんの手と足を戻す方法を見つけてくるから!
だって、僕の所為だ!僕が反対していれば・・・・足は失くさなかった!
僕の魂を定着させる為に・・・・腕までっ」
泣きそうな声を上げるアルフォンス。
見た目は強そうな大きな鎧姿だが、その中身はまだ母恋しい子供なのだから。
そして、兄思いの弟でもあるのだ。
それゆえに、もうこれ以上兄に辛い思いをしてもらいたくなかった。
「うわぁっ!」
悲愴に苛まれていると突然勢い良くとび蹴りが飛んできて、アルフォンスは
モロに湖に蹴り込まれてしまった。
「お前こそ、そんな身体でどうするんだよ・・・・・お前を元に戻す方法、見つけてくるから」
エドワードはアルフォンスの目を強い眼差しで、直視する。
「母さんはもうイイんだ。結局、母さんの命と等価交換できるものなんて多分この世に無いさ。
・・・だからもう、イイんだ」
「兄さん・・・・・・・」
「それに・・・・・・お前も失いたくない」
握り締めたエドワードのこぶしは少し震えているようだった。
「だったらやっぱり僕も行くよ」
「アル!」目を丸くさせるエドワード。
「だって兄さん目を離すとすぐにサボるんだもん!」
アルフォンスは先程の緊迫した状態からいつもの和やかな声色に戻っていた。
「・・・・・そゆこと(−皿−;)」
弟の言葉に、図星をつかれたエドワードも呆れながら静かに優しい目を向けて。
ふたりに再び和やかな空間が戻った。
そしてそんなふたりをピノコとウィンリィも木陰から優しく見守っていた。
失敗すれば、今度こそこの世から消えるかもしれない。
それ以上の報いを受けるかも。
それでも後戻りは出来ないんだ。
もう振り返ることのないように旅立ちの日、エドワード達は自分たちの家を焼いた。
複雑な面持ちのピノコ、その隣で涙を流しているウィンリィ。
だがエドワードとアルフォンス、ふたりの目に迷いは見えなかった。
むしろ、“希望”という光に向かって歩もうとするふたりの目はどこか輝いていた。
「国家錬金術師になれば、情報も集めやすくなる。」
「ウン。・・・絶対に、元に戻ろうね、兄さん!」
「ふたり、一緒に、な」
どちらとも無くゲンコツをコツンとお互いのこぶしにぶつけ合ってニヤリと微笑んだ。
ふたりの旅路をピナコとウィンリィ、そして元気良く照らす太陽が見守っていた。
END.
錬金術師
国家
subject:005
+++ アトガキ +++
『国家錬金術師』。
イラストも描こうかと思ったのですが、先に小説できてしまったのでUP
させて頂きました〜(^_^;)A
タイトルをお題100番目の『旅立ち』にしようかとも迷ったのですが、
旅立ちの方をイラストにしてみようかと。
アルエド等ではなく、兄弟愛は何よりも強い絆・・・肉親の絆っていうのに
純粋に萌えます。(←純粋なのか?!)
つか、まだこの段階で国錬術師になっとらんやん!
うー・・国錬術師になる、と決断したエドをvvv
下書き等全くしてないので、思い当たりばったりな私の話は文脈ヤヴァイ
ですが、当人楽しくやらせて頂いているので、目に止まってここまで
読んでくださった方、本当に有難うございます!
これからUPするお題も、目を通して下さったら嬉しいです!