少しずつ 少しずつ

知らない間に

オレの心に住み着く安堵感

いつの間にか 腰を下ろした 里


赤い月

あの時と  同じ色


亡き一族の魂が  訴える

早くアイツを見つけ出さなければ


頼っては駄目だ


この安堵感は

一族の魂を

裏切る事になる



安堵感がオレを弱者にする



その前に 姿を消そう

心に 再び刻み込め

オレのやらなければいけない事

アイツの最後の後姿

「ノスタルジア」【6】

波の国から木の葉の里へ帰ってきて数日が経った。

カカシは、だだっ広いが人気も無い閑散とした屋敷にいた。



「・・・ ・・・ ・・・?」

生活臭の無くなった部屋が続き、おもての縁側へ出るとカカシの足が止まった。
その家の主は縁側に腰掛け、夜空をじっと見上げていた。
その光景が静寂の中、月明かりを浴びて憂う表情が儚げに、そしてどこか悲愴美な姿でありカカシは暫く様子を
見ていたが、吹き込む夜の風、止めた足を再び前に進めた。



「サスケ」


家の主であるサスケは、名前を呼ばれチラリとカカシの方を伺った。


「風が出てきた。 傷に良くない、中に入れ」


そこまで言って、カカシはふと先刻も同じ言葉をかけてなかったか、と頭を傾げた。
その光景を見ていたサスケは、自分に気づいたカカシに鼻を鳴らし縁側から離れた。

「・・・・・・フン、火影の命令か。 いい加減にしてもらいたいのはこっちだ」


「ま、 そう言うなって。 これも任務のひとつでね」

ナルトやサクラみたいに一筋縄でいかない少年の後姿を見送りながらそういうと、サスケが先刻まで居た所と
同じ所に来て同じ様な角度で何を見ていたのかと夜空を見上げてみるカカシ。








「ヘェ、今日は満月か」

夜を支配する闇夜に浮かぶ大きな丸い月を見上げているのに、逆にその月に見られているような錯覚に陥る。
その位、赤くて大きな月だった。







カカシは波の国から戻って直ぐに木の葉三代目の火影に呼び出された。
それはなんとなく、カカシも予期していた事でもあったが。


              “ うちは一族の末裔、 うちは サスケ の外敵からの身柄保護 ”


それって結局、 身柄保護って名目のサスケが里を抜けない為の監視じゃないの、とぼんやり月を見ながら
思っていると擂って来た氷が溶けて器を伝い雫が足の甲に、ポタリと落ちてカカシは我に返る。


「おい、 サスケ。 氷擂ってきたんだ、 食う?」

そう言って、半分氷が溶けてシロップと混ざり良い感じになっているかき氷を差し出すと
サスケは逡巡しつつも、それを受け取った。

互いに特に聞く事も、聞かれる事も無くただかき氷をかき混ぜる音が閑散とした部屋に響いた。














「・・・・・・・・・ アンタ、 何も聞かないんだな 」


その沈黙を破ったのはサスケであった。

「ン? 何を? なンか聞いて欲しいの、サスケ」 かき氷をかき混ぜる手は止めず。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・別に。」

ボソリと呟くと、手に持っていたかき氷の器を置くと中の氷がカシャリと小さな音を立てた。





「・・・じゃあ、まぁ あれだ。 勤務時間外になっちゃうから、 先生これで帰るけど、あんま無茶せずにさっさと寝とけ。
寝る子は育つって言うしな」 そう言って立ち上がる。

「・・・・・・・・」

そんなカカシを冷えた目線で見つめるサスケに、ナルトなら即何か突っ込むんだろうな、など脳裏に浮かばせながら
カカシは玄関に向かった。
今となっては、主を1人しか持たないこの家はその玄関までもがとても閑散と、そしてもの寂しく思える。





「なぁ サスケ」

帰る者を見送りにも来ないサスケのいる部屋を振り返った。サスケはまだ何かあるのかといった表情。



「お前、さ・・・・・・・・・・ ちゃんと薬塗っとけ」

カカシは自分が調合して持ってきた薬を指差した。 サスケはそんな事か、とため息混じりに微かに頷いた。





              『なぁ、 サスケ お前こんなだだっ広い屋敷で寂しくないのか』




屋敷の外に出たカカシは、先程何気なくサスケに投げかけようとした言葉を思い出す。
一族が実兄に滅ぼされ、それからずっと1人でこの屋敷で過ごしてきた。あの静寂とずっと。
ナルトが妖弧を宿した器として周りから虐げられ生きてきた苦しみと同じで、サスケの苦しみもサスケだけにしか
わからない事。

他人が何を言っても、しれはそいつにしかわからない苦しみであって。

「------------- 何を口走ろうとしてんだろうね、オレは」 浅く息を吐くと闇に白い息が巻き起こる。

遠ざかっていくカカシのそんな後姿を屋敷の入り側で見ていたサスケは、廊下から地下へ降りると一族の大きな聖壇の
ものと、一族代々の名が刻まれた石盤があり、その中のひとつの名前を見つめる。







                            “ うちは イタチ ”







サスケは唇を噛んだ。

目を瞑ると浮かぶは、先程の赤い月。
一族を失った日と同じ赤大きな月。
そんな月を見ていて惹きこまれそうになったサスケ。
月の模様が一族の呻く姿そのものになり、サスケを呪縛する。






                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 【苦シィィィィィィィッ    痛イィィィィィィィィ     助ケテクレェェ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ】

     【 コノ恨ミ、 晴ラサデオクベキカ・・・・・・       裏切ルカ・・・・・・・・・! 】











その月の模様は、ぼんやり人の形となり苦しみもがきサスケに手を伸ばしてきて、それはまるで助けを請うかの様で
サスケは思わず声を上げて、身を起こした。寒いのに大粒の脂汗をかいていた。
いつの間にか気疲れして眠ってしまったのか、壁にもたれ掛かっていた。
足元に置いてあったかき氷はすっかり溶けきって、ピンク色の液体になっていた。

サスケは大量の汗をかいていた。
毎日の様に見る夢。

サスケは急いで立ち上がると、追い立てられるように うちは一族 の忍用の服に着替えると地下の聖壇のところへ
駆け下り、ホルスターから取り出したクナイを手にする。







「・・・・・・・・・父さん・・・・・・、 母さん・・・・・・・・・・・みんな・・・・」
その脳裏には嫌と言うほど鮮明にまるで昨日の出来事かの様にあの日の一族が浮かび上がる。

















                  『 サスケは優しいいい子ですよ・・・ 』


















遠い昔、遠い日の優しい顔が一瞬脳裏を霞めた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・」
サスケは唇を噛み締めると、手にしていたクナイを振り下ろし、 “うちは イタチ”と名の刻まれた部分の石盤を削った。

力強く、何度も、 何度も。


その瞳から涙が頬を伝い落ちた。













































コトリ・・・・・・・・・



サスケは木の葉の額当てをを外すと机の上に置き、用意した手裏剣などのホルスターを手にして最後に部屋を
グルッと見渡す。 その目に、もう迷いはひとかけらも無かった。









時は既に丑の刻を回ろうとしてた。
日中は喧騒の中の木の葉の里も、闇が支配するこの時間は人ひとりいない。
まるで、この里には自分だけしか存在しないのかと錯覚を起こす程に。

里の外にずっと続く山々は更に闇を作り出していたが、そんな闇夜に大きく浮かぶ満月はまさに旅路を示唆していた。
里を出る前に、サスケは一度だけ振り返り、その目に木の葉の里を映した。






そして木の葉の里の塀を越え様とした時だった ----------------------------------------







「ドコ、行くつもりなの、 サスケ君。」




サスケは声のする方を振り返えると、そこには腕を組んだ銀髪の上忍が立っていた。






「・・・・・里を出る。」

沈黙をきめ込むかと思っていたら、サスケは背中を向けたままポツリと呟いた。



「何、言ってんの、  そんなの許すワケないでしょ。」



「呼んでるんだ。 ・・・あいつ、・・泣いてた・・・・・・・オレの・・・・・」



「ダメって言ったらダメ。 里を抜ける気か?下忍の今のお前が、何が出来るって言うんだよ」
それまで足を止めていたサスケは急に外に向かい走り出そうとした瞬間、後ろで話をしていたカカシが目の前に現れ、
サスケはそれに向かって、おもむろにクナイを投げつけようとしたが、カカシに軽々と止められてしまう。


「里を抜けるのは認めないよ。お前はまだまだおもての事をを知らなさ過ぎる」

「五月蝿い!離せっ・・・!」押すにも引くにも、クナイを握ったその手をカカシは離そうとはしない。



「 ・・・・・・・・・・っ 」


「今、里を抜けてどうする?イタチを追うのか?居場所は分かっているのか?返り討ちどころか今のお前とイタチじゃ
話にならないぞ。 それを知っていて、みすみす行かせるわけないデショ。----------------------お前の担忍としてな」






                   “今のお前とイタチじゃ話にならない”


自分でも分かっていた事を、第三者から・・・特にこの上忍から指摘され、図星だけに唇を噛む。


「そう死に急ぐな、サスケ。 やめろ、復讐なんて侘しい事」
サスケはカカシの言葉を否定するかの様に顔を背けていた。
カカシはそんなサスケにため息を軽くひとつ吐き、話を続けた。


「近々、この木の葉の里で各里の下忍が集まり総での 『中忍』 試験が開かれる。
まずは、それに出場し、中忍になれ。
自分自身の力がどれ程か、分かる筈だ。お前は鍛え様によっちゃ、ずば抜けて伸びる事も出来る。
その為の特別修業もつけてやろう」

自分の生徒から、特に火影の命令でもあるサスケの身の保護にもしもの事があればかなりの減給処罰モノ。
それを思うカカシは何を言ってでも目の前のうちは一族末裔を引き止めなければならなかった。
なんとも迷惑な話だと、再びため息を吐きながら

「・・・・そうなりゃ、ま、 嫌でも向こうから訪れるかもな〜」
ワザと惹きつける曖昧な言葉で。



サスケの脳裏に霞めるのは、13歳で既に暗部隊長を任されていた兄の顔。
同じ年を迎えても、自分は -------------------------------------------- そう考えると唇を噛み締めた。

イタチへの情報も皆無の薄々状態なサスケは情報が欲しかったが、更に自ずの力量をはかりたかった。
“自分は如何程に強いのか”常々いつも頭にあった。
“このままで勝てるのか”不安要素がいつも住み着いていた。
その部分をカカシの言葉により、ハッキリと明朗に曝け出されてしまった気がした。


「・・・・・・・・ 確かなんだろうな」

「------------ 一応、これでも上忍は長いんでね」
サスケは握られた手首をカカシから奪い返すと、来た道を戻る様に踵を返した。
そんな後姿が儚くも妙に可愛く見えて、カカシは思わず手を伸ばしサスケの頭をポンポンと軽く叩くと
「子供扱いするな」とばかりにそんなカカシの手を払おうとする。


「 ・・・・・ゴメンな、サスケ」

去り行くサスケの後姿に向かい呟くカカシ。






























オレはまだ、この場所に居て良いのだろうか   許されるのだろうか?



カカシの ・・・ アイツのコトバがそれを肯定した様で ・・・






オレはもっと強くなりたい いなくなってしまったアイツに打ち勝てる様に・・・














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