今電話が鳴ればいいのにと思う。
そうしたら最低限の労力で最大の効果を得られるのに。

(…どうしよう)

亘はきゅっと下唇を噛んだ。
自力でこの状況を抜け出さなくなてならなかった。
目の前の男は一向に帰る気配を見せない。

男は先程からずっと「かっきてきかくしんてききょうざい」とかいうものの説明をしてくれているが、
そんなものは亘の頭の上を横滑りするばかりで、
ときどき「はあ」「そうなんですか」と適当に相槌を打つので精一杯だった。
そうして頭の中でどうやってこの人を追い出そうか、そればかり考えていた。

すみません、お鍋に火をかけたままなんです。
日が暮れる前に祖母に電話しなくちゃいけないんです。

理由だけなら山ほど思いついた。
だが、実行するには絶え間なく話し続ける男の喋りに割って入らなくてはならなかった。
お人好しな性分の亘にとってそれはテストで100点取るよりも難しい作業だった。

やはり先程の電話が悔やまれる。

男が家に来て「ほうもんはんばい」をはじめてすぐの頃にリビングの電話が鳴った。
咄嗟に男の方を見たら「どうぞ行ってください」ととても愛想良く言われたので
言われるがままに電話に出て、そうして再び玄関に戻った。

あのとき自分は最高のチャンスを自ら棒に振ったのだ。
そのことに気付いてからもう何度も悔いている。
気付いた瞬間自分はなんて馬鹿なんだろうと頭を抱えたくなった。

電話を切らずに受話器を抱えたまま、「学校の先生からなんですけど、大切な話みたいなので」
とかなんとか適当に理由を付けて、リビングから顔だけ出して、
安全な位置から正当な理由を正々堂々と掲げて追い帰すことができたのに。

実際そんな気の利いた台詞が咄嗟に浮かんだかどうかは別にして、
あれは確かに今の亘が思いつく限りで最高の理由になり得た。

(…母さん)
母と二人暮しをはじめて、出来る限り自分のことは自分でしようと努めてきた亘だったが、今回はお手上げだった。
母ならきっと「ほうもんはんばい」にも慣れていてすぐに追い帰せるだろう。
だが頼みの綱の母が帰宅するにはまだまだ時間があった。

男の説明はまだ続いている。
最初の頃は興味半分で聞いていたが、次第に事の大きさに気付いて恐ろしくなった。
「ほうもんはんばい」に対する自分の認識が甘かったと思い知らされた今はもう早く帰って欲しいとしか思わない。

所在なさげに玄関のタイルを見つめていると、ふと先程の電話の相手が浮かんだ。
(美鶴なら…)
美鶴ならこんなことで困ったりしないのだろう。
きっと、大人でも余り思いつかないような、上手い言い方をしてあっという間に切り抜けてしまうんだ。

何だか益々自分が情けなくなって亘は溜息を吐いた。

そんなこと起こるはずない、と分かっていても思ってしまう、
今地震が起こればいいのに。お隣で火事が起こればいいのに。
ぼくが突然気を失ったらいいのに。もう一度電話が鳴ればいいのに。








「…何やってるんだ、おまえは」



魔法使いが、来た。








その確率は/ミツワタ





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