穏やかな午後の日差しを台無しにするような甲高い悲鳴が聞こえたとき、ちょうどよかったと思った。
探し人が其処にいることが知れた。この広い屋敷を歩き回る手間が省けた。

中庭で予定時間を大きく早まって発見出来た主の姿を見て、なるほどこれは叫ぶわと誰ともなしに心中で呟く。
頭の先から爪の間まで全身泥にまみれたその姿は、よく言えば子どもらしくて微笑ましいが、
貴族としての風格はいったい何処に捨ててきたんですかと誰かの苦言が同時に頭を掠める。
慌てふためくメイドをよそに無心で泥をいじる子どもに呆れながら問う。
「何をなさってるんですか、ルーク様」
弾かれたように顔を上げた主は
「ガイ!」
腕を振り上げ
「土!」
まるで宝物を自慢するようにきらきらと輝かせて手の中の土を見せた。


------15分前
「ガイ遅い」
さっきまで自分と遊んでくれていたのに
ちょっと出てくる、すぐ戻るからと言って出て行ってしまった。
しばらくはじっと黙って待っていたが、とうとう我慢しきれなくなって
すっくと立ち上がってガイが出て行った扉から同じように出る。
赤い絨毯の上を跳ねるように歩く。
本当は走りたいけれど、まだ走るのには慣れていなくて、しょっちゅう転ぶから
あまり走るなとガイから言われていた。
確かに痛いのは厭なので素直に従う。
食堂を通り抜け、ふと優しい色が見えた気がして数歩下がると
「いた!」
見つけた。
こちらに背を向けているが間違いなくガイだった。
嬉しくてつい気が付けば走ってしまっていた。
見付かったら怒られるかもしれない。
けれどそれでもいいと思った。
ガイに少しでも早く会えるなら。
ガイ!と叫ぼうとして、ふと鼻腔をくすぐる匂いに気付いた。
水の匂い。





「そうですね、土ですね」 「うん!俺と同じ!」 _______________________________________________________

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