お早う御座います、と
言ったつもりなのだろう、彼は。
実際に聞こえてきた音は、
掠れているし、震えているし、引っくり返っているし、
ただ、自分を指す「ヒバリさん」という言葉だけは
割とうまく、相対的に考えるならばうまく発語出来ていた。

(…沢田綱吉)
今朝、何とも情けない挨拶と呼べるかどうかも疑わしいものを
自分に向けて放った小さな頭をぼんやりと見下ろす。
心底厭そうにボールを目で追いながら、
することもなく我が身を持て余す様は、全身で体育は嫌いですと言っていた。
彼は弱い。
体力がないし、運動神経も悪いし、精神面もすこぶる脆弱。
別段自分から群れるつもりはないらしく、
ひとりでいるのを見掛けることが多かった。
群れることすら億劫なのか、おそろしいのか、
だからからかわれる、野次られる、絡まれる。
言い返せばいいものをそれをせず、諦めているのか認めているのか、
ただその場を凌ぐことに全力を注いでいるように見えた。
(…刹那的だね)
力のない子だ、と思った。
あらゆる方面に、目も当てられない程。
机に向けていた視線を再び軽そうな頭に向ければ、
「、」
あ、と思った一瞬後、
鈍い音が2階の応接室まで聞こえてきて、
観察対象は予想通り無様な格好でグラウンドにダイブをかましていた。

ガタン――ッ

咄嗟に蹴り上げた椅子が大きな音を立てる。
窓に近付き、事の次第を見守っていると、
わらわらと彼に集まる級友たち。
その人口密度の高さに軽くこめかみが引き攣る。
そして、出た。
いつも彼と一緒にいる彼にとって特別な2人。
手を取って助け起こす彼らに、沢田綱吉は恥ずかしそうに笑う。

(なに、そのかお)

気が付けば引っ手繰るように掴んでいたトンファーを片手に、
鼓膜が痺れるような音で扉を蹴り開けた。
勢いのまま駆け出したところで――身体が凍った。
頭をよぎったその考えは、
自分の生み出したものでありながら到底自分の理解を超えていた。
群れている連中を噛み殺すのはいつものことだし、
彼を殴るのだって今回が初めてじゃない。
けれど、今、このタイミングで彼を殴ることは、してはいけないことのように思えた。
彼に問題があるのではない。
問題があるのは、自分。
殴ってはいけない。
もしも殴れば、それは自分の弱みを見せることになるのではと、
「…………」
そう思った。
馬鹿げている。有り得なさすぎて話にもならない。
挨拶ひとつまともに出来ないような、そんな子に。
そんな距離のある子の、何を。
それでも、殴ることだけは躊躇われた。

それはまるで熱烈な愛の告白のようだと、

そう思ったから。






あれ、もしかして/ヒバツナ























おまえがいつまでもしつこいからさわだがめいわくしてるだろう。

そんなわけないでしょう ひがいもうそう あ ごがつびょうですかおだいじに。

目の前で繰り広げられる激闘に

止めに入ることはおろか、口を挟むことすらできるはずがなく、

ツナは青ざめた表情でただ其処に立ちつくしていた。

・・・事の始まりは、今から遡ること16時間前、

相変わらずツナの部屋で我が物顔でくつろぐ骸の発した一言からだった。

「ボンゴレ、僕は死んだんですよ」

「・・・・・・」

言ってることは分かるが意味が分からなかった。

は?という顔で骸を見れば、彼はクフフと笑った。

「文字通りの意味なのですが」

分かりませんか?と小首を傾げるように問う。

今ツナは床の上に座って宿題をしていて、骸はベッドの上で本を読んでいたから

自然と骸がツナを見下ろす形になる。

「だってお前生きてるじゃんか」

困惑しながら答えると骸は笑みを深めた。

「僕が此処に来た理由を話していませんでしたね」

そう言って手にしていた本を閉じ、ゆっくりとした動作でベッドを降りた。

ツナの困惑した視線が骸を追う。

全身、此方に、座って、手が、手を、とって

「僕を見抜いてくださいボンゴレ、そのために来たんです」

気付けば骸の顔が厭に近くにあって、

え、と思うより先に世界が暗転した。









小さな軽い身体を担いで約一週間程お世話になった家の玄関を出る。

段差を降りて、一段、二段、

道路に出たところで思わぬ人物と遭遇した。

「・・・おやおや、あなたまさかボンゴレのストーカーですか」

無意識に担ぐ手に力を入れながらもにっこりと笑顔を向ければ、

家の塀に凭れ掛かるように立っていた全身真っ黒の男が酷く不快そうに顔を歪めた。

「お前と一緒にしないでくれる」

「ですがどう考えても不自然ですよ、とてもね」

クフフ、と笑えば、それもまた癪に障ったようで男は対峙するように前へ出た。

「赤ん坊に言われたのさ、今日の夕方此処に来れば面白いことが起こるって」

まさかこんなことだったとは思わなかったけどね

そう言って雲雀は骸の手の中のものを確認するように鋭い眼光を向け、スッとトンファーを構えた。

「置いていきなよ」

「何故です?あなた別にボンゴレの恋人とかじゃないでしょう」

「お前の手には余る代物だよそれは」

「ならば尚更あなたには不要だ」

雲雀の不快指数が高まったのが分かった。

ボンゴレを降ろす時間はあるだろうか、と考えていると、

「沢田」

まるで考えることを牽制するかのように声を上げた雲雀に、骸の不快指数も一気に同じくらいまで上昇した。

雲雀のツナを呼ぶ声が、まるで普段からそう呼び合っているかのように、

骸の存在を切り離すようにふたりの言葉だと言うかのように聞こえたのが何より不愉快だった。

「起きるわけがないでしょう。あなたの声なんかで目を覚ますことがあったら僕は死ぬ」

「・・・お前、沢田に何したの」

「別に」

何も。

「ええ、何も」

繰り返し、言う。何故だか急に満たされた気分になった。











続。




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