「じゃあ、」 膝を抱えて落ち込む兄に、妹は言った。 「―――今日はボクが、乱暴にしてあげるね」 アルフォンスは、エドワードの大きな手を掴んで、自分の胸に押し当てた。強く強く。兄の手のひらが自分の胸に当たる感触に息を漏らす。 「は、ぁ……」 胸の形が変わるほど強く押し付けたから、痛いくらいだった。手の持ち主は、されるがままに身を任せている。いつもは受け身な妹の突然の行動に驚いているのだろうか。 だが、その行為を強いているのもアルフォンスなら、余裕がないのもアルフォンスの方なのだ。剥き出しの胸と肩が小さく震えてしまっている。 妹はしばらくそうしていて、今度は、先程まで自分の胸に押し当てていた手のひらを上に滑らせた。口に含むためだ。丸い大きな目を心持ち細めて、切なげな顔で。チラチラ見える赤い舌が艶かしい。 エドワードの逞しい人差し指を口に咥えて、舌を這わせる。ちゅっと音をさせて唇を寄せて、それから咥え込んだ長い指は、ひどく熱かった。一生懸命舌を動かして、指と指の間まで舐めて、それらしいことをしようと努力する。 「アルはお口が感じるんだよなぁ……」 ごくりと生唾を飲み込んだエドワードが囁いた。頬が赤い。 それを聞いたアルフォンスは、口に含んでいた指を開放して、圧し掛かるようにエドワードにキスした。喋っちゃダメ、とでも言うかのように。 「んっ……」 吐息のような息が漏れた。 細くしなやかな身体がエドワードを押し倒して、華奢な手がエドワードの両頬を包んでいる。呼吸さえままならないキスだった。 「はっ、あ」 あまり上手とは言えない。強く強く押し付けられるだけの唇に、乱暴に絡められる舌。ちっとも上手くいかなくて、時折歯が重なってはぶつかる。飲み込み損ねた唾液が唇から一筋零れて、あごを伝った。 エドワードは、性急な動きに息ができない。苦しい。 ―――ただ、息ができないのは、仕掛けているほうも同じなのだけど。 自分より一回りは大きい兄の身体を押し倒した妹は、拙いながらも、自分からキスを仕掛けている。それなのにその表情は、苦しそうに眉根を寄せて、目の端に涙を浮かべているのだ。 「はぁ……っ」 弾んだ息が耳をつく。懸命に舌を絡める妹が、唇が離れた一瞬に酸素を求めた証拠だ。こっそりと目を開けて盗み見た表情は、酸欠みたいに赤くなっていた。気持ち良くて上気しているのとは、明らかに違うその表情。 ―――あんまり積極的で驚いた。 本当はこれくらい乱暴なほうが好きなのかな、こいつ。 エドワードだって苦しいのだ。圧し掛かってくる身体は気持ち良いけど自分勝手だし、自由の利かない肉体はひどく不自由だ。だからといって力任せに跳ね除けるわけにもいかないから、もどかしい。 二人は兄と妹だ。体力も腕力もエドワードが勝っているのは確実なのだから、止めさせようと思えばできるのだが、そんなこともったいなくてできるわけがない。 ………思わず「もっとゆっくりやってくれ」と頼みたくなってしまう。 妹の細い腕が自分の身体を起こそうと必死に手を添えてきたから、たまらなくなってエドワードは、自ら身体を起こした。アルフォンスは息せききってそこに腰を降ろす。 そしてわずかに躊躇した後、大きく屹立したそれを身の内に飲み込んだのだった。 「―――っっ」 雷が落ちたみたいな、ビリビリとした衝動。 エドワードは、自分を包むそれのあまりの狭さに息を飲んだ。ちっともゆっくりじゃない。本当に、急にそれは自身を飲み込んだのだ。熱くて狭いのに、きゅうきゅうと絡み付いて締め付けてくるそれ。 過ぎる快感は苦痛と同じだ。 「ア……アル」 名を呼べば、乱暴な行為を強いてきた妹もまた苦しげな表情をしていた。 いや、エドワードよりもさらに苦しそうで、きゅうっと目をつぶった端には涙が浮いている。今夜の行為を仕掛けたのはアルフォンス自身なのに、まるで苛められているみたいな表情だ。 一気に兄を飲み込んだ妹は、加減のできない腕で必死に兄の首にしがみ付いて、わずかに背筋をのけぞらせていた。そうして悲鳴を上げないように、瑞々しい唇をかみ締めて耐えている。圧倒的に準備の足らないまま受け入れたそこはすごく狭くて、太ももが震えていた。 「急すぎるぞ、……辛いだろ?」 やせ我慢の妹は、それでも首をぶんぶんと横に振った。 「ちょっとつらい、けど、でも、」 言いながら、ゆっくりと腰を揺らし始める。だが、動きがおそるおそるだったのは最初だけで、その動きは徐々に激しくなった。―――比例して、アルフォンスの眉間の皺も濃くなったのだけど。 「でも、兄さんも、つらいでしょう?」 ―――ああ、なんだ。そういうことか。 やっと納得がいった兄は、負けず嫌いな妹の顔をまじまじと見つめた。快感よりも苦痛が勝っている表情だ。額に浮き出た汗と熱に上気した頬、浮かんだ涙の粒がかわいい。 この妹が自分主導で快感を引き出すには、まだまだ経験が足らないのだ。まだ一人では気持ち良くなれない、ということらしい。 バカだ、こいつ。 いつもはしっかり者でとても賢いのに、時々バカで、かわいすぎて、嫌になる。 「――痛めつけようとしてる奴が、逆に苦しくなってどうすんだよ。本当バカだ、……グッときちゃうだろ」 浅はかでかわいい妹は、今までの意趣返しに、この兄を痛めつけようとしているらしい。 確かにエドワードだって辛い。まだあまり濡れてないそこは狭くてキツクて、十分に大きくなったエドワードは痛いとさえ感じていた。 だがそれは、いずれ快感に摩り替わるための甘い苦痛なのだ。あとちょっと、もうちょっと、………アルフォンスが気持ちよくなったら。堪え切れないほどの快楽に変化する。 エドワードは、ここに来てようやく自ら腰を揺らめかせた。ゆるり。 今まではこの妹がどうしたいのか読み切れず、大人しくされるがままになっていたけれど。 「なぁ、アル。……息ができないキスと、独り善がりの前戯と、痛くてキツクて気持ちいい挿入の仕返し、していいか」 「……ッ、ダ、ダメ」 「ダメ」 ダメにダメと返されて、妹は焦った。すでに体中汗まみれだけど、手に汗握るほど緊張して、焦った。 だって、――ぜんぎとか、挿入とか、そういう直接的な単語を言われるだけでも嫌なのだ。いたたまれなくて耳が痛くなる。両手でぎゅっと耳を塞いで、聞こえない振りをしたくなる。 痛めつけてやったはずの兄はまったく堪えてなくて、辛そうにも見えなくて、妹はなんだか泣きたくなってしまった。 この兄に「頼むからもっとゆっくりしてくれ」って言わせるはずだったのだ。「翻弄されるのは辛いから、もっと穏やかな方がいい」って泣き言言わせるつもりだった。いつも自分が哀願するみたいに。そうやって、自分の気持ちをわからせてやる予定だったのに。 ―――あんなにあんなにがんばったのに、ちっとも効果ない。 そして今も、腰を揺らされつづけているのだ。 頭がくらくらした妹は、悔しくて、言わなくてもいいことまで口走ってしまった。 「し、仕返しの仕返しなんておかしい」 「あー、やっぱりそういう趣向だったんだ」 「……!やだよう、やめて」 「ダメ、もう無理。争いが争いを生んで、因縁は深く刻まれていくんだぞ」 エドワードは見当違いなことを言って、繋がったままの妹をベッドに押し倒した。急な体位の変化に妹は泣き出してしまう。 「こすりすぎていたい」 「うんうん、アル、がんばったよなぁ。今度はオレが、お礼に朝までがんばってやる」 「いらない、バカ、バカ兄、……もうやだ」 「……悪いと思ってるよ。だから泣くな」 エドワードは動くのを止めて、シーツに沈み込んで子どもみたいにしゃくりあげるアルフォンスの頬に手を添えた。できるだけ優しく撫でてやる。そっと。 それから、気まずげにぽつぽつと言い訳を始めた。 「オレだってな、酷くしたいわけじゃないんだ。その……優しくしたいと思ってるんだ。たまにはじゃないぞ。いつもそう思ってる」 「じゃあ、なんで」 「だから、ごめんってば。アルはさ、自分ばっかりが翻弄されてると思ってるみたいだけど、―――本当はオレの方が、余裕ないんだ」 あーみっともねえ、こんなこと言わすなと、エドワードはそっぽを向いた。動きたいのを我慢して話してるからだろうか、最後の方は眉間に皺が寄ってしまっている。 それでも、妹の頬を撫でる動きは優しいままだ。 その様子があんまり不器用に見えたから、妹は繋がったまま押し倒されたことをちょっと横に置いて、小さく笑ってしまった。 「わ、しめつけんな。もう動くぞ」 乱暴で傍若無人に見えた王様の正体は、ただの若く余裕のない男だった。声を上擦らして慌てる様がかっこわるい。 「……うん、ゆっくりだよ」 「――努力します」 ただもう、えろが書きた…かった……。ばたり。 冒頭を端折るどころか完全カットしたら、えちしかなくなりました。ばたんきゅう。 次にえろ書くとしたら弟だな。アたんが地位や名誉のある名もなきおじさんに舐めるようにしつこく見つめられる話!(変態) |