W.W.W アルフォンスは常々、兄の衝動的な性欲にはほとほとまいっていた。 だからちょっと改めて欲しくて、軽く注意をしただけだというのに、それがなんでこんな目に。 汗ばんだ手のひらや腕の感触が、引っ付いては離れていく。暗いところで密着する湿った肌は、生々しくて心地が良くて、それだけでアルフォンスを翻弄した。 くっついているなら、いっそずっとくっついていればいい。それなのに、まるでからかうみたいに触れてはまた離れていくから、涙が出るほどもどかしい。 「もう、なんとかして…」 平常の状態だったら絶対に口にしないような台詞が、思わず口をついて出る。 エドワードの夜目にも光るきんいろの目が、まるで夜行性の動物みたいに輝いて、弟を見つめた。白く白く汚れたアルフォンスを。 「くち、白いのいっぱいついてる」 白いの。 耳に届いたその言葉に、弟は耳を塞ぎたくなった。ひどいひどい。ひどい心労だ。とんでもないストレスだ。だって、そんな、『白いの』だなんて。 その単語の意味するところと、必要以上に湿った兄の声の響きに、アルフォンス少年は泣きそうに表情を歪めた。恥ずかしくて死にそうだ。 「なー、オレ中で出さなかっただろ?えらい?」 「……っ」 とっさに上手い罵詈雑言が浮かんでこないのが、ものすごく悔しい。 エドワードは、これ以上ないくらい幸せそうなにやけ面をしている。頬を上気させて、だらしなく弛んだ口元をどうにか噛み締めて、弟の唇や鼻先、白い液体の飛び散ったほっぺたを嬉しそうに眺めて。 口の中に出さなかったからえらい?わざと顔にかけておいて、偉いだろって?ふざけるな。 荒い呼吸を繰り返す弟が、忌々しげに自分の顔を拭おうとしたら、やに下がった兄はそれを両手で押し留めた。手首を掴んで、しっかりとベッドに縫い付ける。 「拭いたらだめ。もっと汚すんだ」 夜の暗闇にちっとも似合わないその声は、うきうきと浮かれ上がってそう宣言した。 アルフォンスは常々、兄の衝動的な性欲にはほとほとまいっていた。 たとえば、シャワーを浴びた後の清潔な身体。たとえば、帰宅後に服を着替えるその手付き。たとえば、食事を咀嚼する口元や喉の動き。ため息、視線の流れる様子、首や肩をさするその仕草。そういう日常にありふれた何気ないものが、突然、エドワードの情欲を刺激するらしい。 それはアルフォンスの予想しないタイミングで訪れる。 背後にゆらりと熱い気配を感じたら、その時点でジ・エンドだ。たとえそこがリビングでもキッチンでも、あのけものがその気になってしまったら、抵抗するのは難しい。 どんなに手加減なしのボッコボコに抗っても、あの兄はやたらと頑丈で諦めが悪いから、ちっとも引き下がらないのだ。不屈の精神で乗り越えてくる。 そうこうしているうちに、はぁはぁと荒い息遣いが情欲と愛情を伝えてきて、アルフォンスの抵抗はだんだん鈍くなってしまう。根負けだ。 ……結局、痛くて苦しい思いをするのはこの弟だというのに。 もちろん、弟だって少年といえども男なのだから、性欲はある。気持ちいいことは嫌いじゃない。兄とこうゆうことをするのだって、ふたつもみっつも言いたいことはあるけれど、一応は納得しているのだ。 でもそれは、こんな状況なんかじゃない。決して、断じて、絶対に。 身体も心もすっかり準備の整った状態で、夜寝る前の一時を迎えたいと思っているのだ。 だからアルフォンスは、今日こそはっきり注意してやろうと思って兄を呼び止めた。自分の部屋に近い廊下で呼び止めたから、自然に自室で話をすることになった。なぜベッドの上になったのかはわからないけど。 そこで、覚えたてのサルみたいに衝動的に盛るのは止めてくれ、いつも中で出すのも止めてくれ、もっと穏やかで思いやりのある行為を―――と、ああだこうだ滔滔と言い聞かせた。 すると、何を勘違いしたのかこのバカ兄は。 「……、なかで、ださなきゃいいんだ?」 と、勘違い極まった発言をしたのだった。 すでにアルフォンスの腹はエドワードの放ったもので白く汚れていた。身の内を深く抉られ、掻き乱され、いく寸前にそれはぐいと引き抜かれた。そして、アルフォンスの薄く引き締まった腹の上を白く汚した。 「あぁ……」 入り口の辺りがひくひくと震えるのが、少年自身にもわかった。恥ずかしくて泣けてくるけど、それ以上に、もどかしくて泣けてしまう。 「ひどい、バカ、そうろう。バカ」 「だっていっぱいアルにかけてやんなきゃいけないから」 「いらない、いらない。兄さんはバカだ、ひどくてさいていだ」 「アルが外に出してほしいってそう言うから、そういう趣向だから、オレ今日はぜんぜん我慢しないんだ。しなくていいの」 快感のためだろうか。いつもよりずっと舌足らずにそう言った兄は、満足げに上気させた頬を弛めてそう言った。手は、腹に散った白い液体をぐいぐいと塗り広げている。 「すげえ、どろどろ……。いい眺め。まつげにもついてる」 そう教えられて、アルフォンスはぎゅっと目を瞑った。拭き取りたいけど、両の手首を一纏めに戒められているからそれもできない。 エドワードが心底興味深そうに言うから、よけい恥ずかしいのだ。これがただの意地悪目的なら、アルフォンスだってこうも胸が苦しくならないだろう。 この兄は自分がとても気持ち良いものだから、弟も気持ち良いに違いないと信じて疑っていない。片方が羞恥を物ともしない性質で、片方が羞恥を感じる性質だから、ああ、こんなにも始末に負えない。 「顔と腹には出した。もっかいくらいいけそう。なあ、どこがいい?アルが望むとこにかける」 「〜〜〜ッ」 ここがいいか、と、傍若無人なけものが我が物顔でアルフォンス自身を握って擦り上げたから、そこからも白い液体が放たれた。 「わ、出た」 羞恥で顔が赤くなる。 「だっ、て、だってさっき、もういきそうだったんだ…」 「オレの手も白くなった」 放たれたばかりの白いそれが、生ぬるい体温のままに滴り落ちる。エドワードは、ためらいもなくそれをひと舐めした。自身の手のひらから伝った白い雫を、腕の内側辺りで舐め取って。 「―――なぁ、だから、最後はどこにかけてほしい?」 むせ返るほどの熱と愛と性欲を込めて、そう言った。上気した頬と潤んだ金目が狂暴でたまらない。 ひどい羞恥と心労と身体の熱さと、それから否定できない快感に促されて、アルフォンスはついに口にした。 「もういい。いつもみたいにしていい」 「いつもみたいって?」 「外はもういい。もういらないって言ってるんだ」 それを聞いた兄は、弟の汗の浮いた額と涙の浮いた目じりに、ちゅっとキスをした。ついでに軽く舐める。どちらも塩辛い味がして、エドワードは苦く笑った。 「―――アルが望む場所に」 弟の白く汚れた頬を手のひらで一つ撫でて、それから、腹の底から沸き立つ衝動にまかせて腰を沈めた。 |