智明×亜毅(ボクサーEND後で同棲してる設定)

 寒さで目が覚める。
 目をうっすらと開いてみると、部屋の中はまだ真っ暗だ。念のため、枕元にある目覚まし時計を手繰りよせて時間を確認してみると、3時過ぎ。さすがにまだ余裕で二度寝が出来る時間だ。
 何故寒かったのかと思えば、いつの間にか布団が肩の下までずり下がってしまっていたかららしい。無造作に布団を肩の上まで引っ張り上げる。
 でも、これだけじゃ足りない。
 半ば無意識にそう感じた。既に体に習慣として染み着いているのだ。左に二回寝返りを打つと、そこにはあたたかいものが……いや、物ではなく、人がいるのだと知っていた。そのようにしてみると、思った通りにそこにいる。
 息のかかりそうな距離にぴったりと近付くだけでは、まだ充分ではない。両手を伸ばして抱き寄せると、硬くて張りのある感触が全身に伝わってくる。抱き枕だと言うには少し硬すぎるし、大きすぎる。体重を絞らなければならないから以前よりも痩せて、ますます骨と筋肉の主張の強い感じになっているし、布団からはみ出してしまうから、いつも足を曲げて寝ているということも知っている。
 それでも、この抱き心地とこの体温が何よりも一番好きで、好きだから、誰にも譲れない。
「ん……うぅーん……」
 少し大きめの寝息が聞こえてきて、起こしてしまったかなと思ったが、目は開かなかったのでそういうわけではないらしい。ただ、向こうからも手が伸びてきた。これもいつものことで、きっと無意識なのだろう。
 薄っぺらい煎餅布団の中でぎゅうぎゅう抱き合って、少し息苦しくなるが、あたたかさで言えば最高値になった。
 そのうち、抱き潰されて死ぬんじゃないかと思うこともある。そんな考えが頭をもたげる度に、必ず同じ結論を出している。
 別にそれでも、いいや。
 そう思うとすぐに、この上なく安心した心地で、瞼の裏の世界に戻って行けるのだ。


 自分の体を覆っているものが静かに離れて行きつつあることに気づき、再び目を覚ます。カーテンの隙間から朝日
が漏れて、辺りは薄明るくなっていた。
「あき……?」
 乾いた喉から小さな声で呼びかける。
「あぁ、起こしちゃったっすか?」
 その声ははっきりと覚醒した、大きくてよく通る普段通りの声だった。
「……ロードワーク、行くのか」
「そうっす」
 既に寝間着からトレーニング用のウェアに着替えている最中だった。
「俺も行く……」
 そう言って体を起こす。寒くてまだまだ布団に潜っていたい気持ちもあるが、何とか体を動かした。
「え、そんな、いいっすよ! 智明、昨日寝たの遅かったじゃないっすか。まだ寝てた方が」
「おい、亜毅……」
 少しイライラして、そのお陰で弾みがついて勢いよく立ち上がることに成功する。その勢いのままにぎりぎりまで接近して、両頬を思い切り引っ張ってやった。
「ふわ!? と、ともあひ…?」
「いつまでもご主人様みたいな扱いすんな、バーカ。何のためにこの前自転車買ったと思ってんだ。ついてくからな、今日からは! 毎日だ!」
「わ、わかったっす、ごめんなさいっすぅ、は、はなひて……」
 ねじり上げるようにして頬から指を離した。
「へへ、ごめん。じゃあ準備するから、ちょっとだけ待っててな」
「はいっす!」
 カーテンを開けると、建物の隙間から差し込む角度の低い冬の太陽光が、目に刺さるように眩しかった。

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