『共犯者』


「あぁ、倫……っ」
 腕の中で恋人が快楽に悶える。誰にも見せたことのない顔で自
分だけの名前を呼ぶこの時間が黒田はたまらなく好きだ。
「や……倫……やだ……ぁ」
「何がいやなの?やめてほしいの、大ちゃんは?」
 彼の1番感じる部分をわざと外しながら黒田は意地悪く聞いた。
満たされないもどかしさに身を捩る姿が艶めかしい。
「もっと……」
「もっと、どうしてほしい?」
 浅倉は一瞬羞恥に唇を噛んだが、すぐに黒田の耳に囁きかけ
た。
「もっと、して……いっぱい突いて……」
 普段なら言わない淫らな台詞に黒田は体が熱くなるのを感じ
た。もっと乱してみたい。卑猥な台詞を、熟れた唇で紡がせたい。
「どこ突いてほしい?」
「そんなの……っ」
「言わないとしてあげない」
 焦らすような緩慢な動きを繰り返す黒田を浅倉は涙目で見上
げた。
「ん?」
 浅倉は思いがけない力で起きあがると、呆然とする黒田の腰
を跨いだ。そして自らその欲望を受け入れていく。
「うそ、だろ?」
 いつもの浅倉ならこんな大胆に求めたりしてこない。挑発的に
腰を揺らしたりしない。黒田は普段ならありえないその強烈な快
楽に夢中になった。
「あぁ、そこ……っ……倫……そこ、イイ……」
 これは本当に浅倉なのか。恐ろしく乱れる浅倉に黒田はそん
なことを思っていた。浅倉がこんなにも求めてくれるなんて、夢
みたいだ。
「もっと……もっとして……」
 絶頂はすぐそこまで来ていた。枕元で鳴る目覚ましすらどうで
もいい。
 ……目覚まし?


「……だよなぁ、やっぱ」
 バシン、と目覚ましを止めた黒田の目に飛び込んできたのは
乱れた浅倉ではなく、いつもの天井で。1人には少し広いベッド
には愛しいぬくもりすらない。
「夢だと思ったよ、あんな大ちゃん……」
 どうせ夢なら、最後までイキたかった。そしてもっと虐めてもっ
と泣かせておくんだった。黒田は毛布をめくり、しっかりと存在を
示した自身に深くため息をつく。
「ガキか、オレは……」
 いくら最近会ってないとはいえ、淫らな夢を見て勃てるなんて、
なんか恥ずかしい。
「あーあ」
 もう1度深いため息を漏らして、半端に放り出された欲を処理
するためにバスルームに向かったのだった。

 その日はふとした瞬間に夢での浅倉の痴態を思い出しては赤
面するやらにやけるやらで、周りからは奇異な目で見られたり
「昨夜はお楽しみだったのか?」
 とからかわれたりした黒田だった。
 深夜、仕事を終えて車に乗り込もうとした黒田は、不意に鳴り
響いた携帯を手にしてドキリとした。着信を示す画面には愛しい
人の名前。
「もしもし?」
『黒田?ボク』
「うん。久しぶり」
 昨夜あんな夢を見たばかりでこの声を聞くのはなんだか気ま
ずい。あんな夢見て申し訳ないという思いがあるからだ。
『今仕事中?』
「いや、これから帰るとこ。大ちゃんは?」
『ボクももうすぐ帰るとこだよ。最近どう?忙しい?』
「レコーディングも落ち着いたからね。前ほどじゃないよ」
 優しい浅倉の声。電話とはいえ、言葉を交わすなんて一体い
つぶりか。あんな夢を見るくらい飢えてもしかたないよな、と自
分に言い聞かせてみる。
『ねぇ』
 浅倉が電話の向こうで少しためらうような声を出す。
『会えない、かな』
「今から?」
『そう』
 浅倉から会いたいと求められるのはかなり珍しい。何かあった
のだろうか?そう思って沈黙した黒田に誤解したのか、浅倉は
慌てて言った。
『ごめん、仕事終わったばっかりだから疲れてるよね』
「違うよ!大ちゃんこそ、いいの?」
『うん……なんかね、会いたい、すごく』
 もしかしてこれも夢だったりするのか?黒田はそんなことを考
えながらも顔が緩むのを止められなかった。
「今どこ?迎えに行く」
『いいの?』
「オレだって大ちゃんに会いたいよ、少しでも早く」
 黒田の言葉に浅倉は嬉しそうに笑い、自分の居場所を告げた。

 浅倉が告げた場所に着くと、自分を見つけた浅倉がふわりと微
笑んで駆け寄ってきた。
「久しぶり」
 助手席に腰を落ち着けた浅倉はにっこり笑った。
「黒田、元気そうだね」
「それだけが取り柄だからね。大ちゃんは……少し痩せた?」
 頬に手を滑らせると、何故か浅倉は真っ赤になった。その様に
黒田は驚く。
「どうしたの?」
「あ……ごめん、久しぶりだから、なんだか恥ずかしい……」
 そう言って目を伏せる浅倉に黒田は柄にもなくドキドキした。恥
じらう彼を、思い切り泣かせてみたいような危険な衝動に駆られ
るのは昨夜の夢のせいだろうか。
 奇妙な沈黙を乗せて車を浅倉のマンションに滑らせる。部屋に
向かうエレベーターの中で黒田がそっと手を握り締めてきた。浅
倉は少し驚いた顔をしたが、すぐに頬を赤らめながら握り返したの
だった。
「会いたかったんだ、ずっと」
 聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で浅倉が呟く。
「会いたくて……夢に見るぐらいだった」
「……夢?」
 一瞬自分の欲望に満ちた夢を見透かされたのかと思った黒田
だったが、浅倉は頬を染めたまま言葉を続けた。
「黒田の夢を見たよ」
「どんな?」
「………」
 小さな音を立ててエレベーターは浅倉の部屋の階で止まった。
答えを返さないまま浅倉は部屋に向かい、黒田を招き入れる。そ
して静かに鍵をかけて、暗闇の中まっすぐに黒田の目を見つめた。
「ボクの夢、呆れないでね」
「え?」
 そんな変な夢を見たのだろうかと不安げな表情をする黒田に、
浅倉は少し背伸びをして唇を合わせた。
「こういうこと、してた……」
「え?」
「夢の中で、キスして……そして……抱かれてた。何度も」
「大ちゃん」
 黒田は浅倉の背中をドアに押しつけると、きつく唇を貧った。
「誘ってる?」
 耳たぶを甘噛みすると浅倉は微かに肩を震わせながら、それで
もはっきりと頷いた。
「呆れて、ない?」
 抱き上げられた腕の中で浅倉が問う。
「なんで?」
「だって、そんな夢見るなんて……おかしいよね……」
「おかしくない。オレも、見てたから」
 驚く浅倉に軽くキスをして、その体をベッドに沈める。角度を変え、
深さを変え、本気のキスを繰り返す。
「ねぇ、大ちゃん」
 耳元で囁かれる熱い声に背筋が震える。
「夢の中のオレは優しかった?」
「優し、かったよ……?」
「オレの夢の大ちゃんは、すっげー淫らだった」
 その言葉に浅倉の顔が瞬時に赤くなる。
「乱れる大ちゃんが見たいな……」






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