1度快感を得た体は柔らかい愛撫にさえ再び熱を帯び始める。
「大ちゃん」
 甘くその名前を呼んで、中指で唇をなぞる。黒田の意図に気づ
いて浅倉はためらいがちに目を伏せたが、やがて舌をのぞかせ
るとその指を口内に導いた。戸惑うようにしていたのは最初だけ
で、すぐに淫らな音を立てながらその指に舌を這わせる。緩く目
を閉じて行為に没頭している表情に強烈な熱を感じながら、それ
でも自分だけが暴走してしまわないように最後の理性で欲を抑え
る。唇から指を引き抜いて、代わりに舌を差し出すとためらいなく
唇が迎え入れる。奪い合うような激しいキスの合い間に黒田の手
は背中を這い、双丘を割った。キスに夢中になっていた浅倉は、
少しずつ胎内に入り込んでくる指に気づいて肩を揺らした。
「……痛い?」
 久しぶりだから、と続ける黒田に浅倉はゆっくりと首を振った。
「平気……」
 そして浅倉は少しでも負担がかからないようにとそこをほぐすよ
うに動く黒田の指をやんわりと押し留めてその目をのぞきこんだ。
「いいから」
「……え?」
「今度は……ボクが」
 そう言って浅倉は再び黒田の腰を跨いだ。そして熱く猛った黒
田自身に手を添えて自らにあてがう。
「大ちゃん……まだ無理だよ」
「大丈夫……」
 大きく息を吸い込んで、浅倉はゆっくりと腰を落としていく。まだ
慣らされていない個所は痛みに熱くなる。
「辛い、でしょ?」
 歪んだ表情からは快楽の欠片も見えなくて。黒田は少し身を起
こすとその体に腕を回して止めようとした。しかし浅倉は大きく首
を振ってその腕を押さえる。
「邪魔、しないで」
「でも」
「黒田が……欲しい。もっと……」
 浅倉はそう言ってぎゅっと目を閉じると一気に腰を落とした。お
そらくかなりの痛みを伴ったのだろう。その唇からは小さな悲鳴
が上がった。
「大ちゃん……大ちゃん?」
 肩に額を押し付けて荒い呼吸を繰り返す浅倉を呼ぶ。
「大丈夫だから……」
「全然大丈夫そうじゃないよ?」
「……黒田、うるさい」
 そう言って浅倉は顔を上げて問い掛ける。
「いい?」
「……何が?」
「気持ちいい?」
「いいけど……大ちゃんもよくならないと」
 その言葉に浅倉は口元に笑みを浮かべた。
「じゃあ好きって言って、キスして」
 そう言って唇を薄く開いて舌をのぞかせる。黒田も微かに笑み
を浮かべて、軽くキスをした。
「好きだよ」
「もっと……いっぱい言って……」
 どれだけ好きと言っても、どれだけキスをしても、離れていた時
間を埋めることは出来ない。どれだけ愛し合っても朝が来れば違
う世界が待っている。それでもキスをして体を重ねるのは、今確
かに愛していることを、そして愛されていることを心に刻むため。
次に会うまでの長い時間に、決して切れることのない絆を結び合
うため。
 幾度となく繰り返すキスの中で、黒田は浅倉の体の変化を見つ
けていた。繋がった部分がただ痛みだけで収縮していたが、今は
緩やかに黒田を包み込んでいる。浅倉の呼吸に合わせてゆっくり
と腰を動かすと、痛みのためではない声が小さく漏れた。
「もう大丈夫?」
「……うん」
 優しく何度か突き上げると浅倉は甘い吐息を漏らして黒田にし
がみつく。
「足り、ない」
 黒田の耳元で浅倉は吐息と共に言葉を吐き出す。
「こんなんじゃ……足りないよ……」
 黒田はその言葉に微笑み、軽くキスをした。
「そんなこと言ってると、明日帰さないよ?」
 冗談ぽい口調に込めた本気の想い。帰したくない。このままど
こにも行かせたくない。でも、朝は無情にも必ず巡ってくる。全て
を捨ててしまえるほど……お互いしかいらないと言えるほど、強
くない自分たち。
「明日の話なんか……いらないよ」
 深い闇が赦す束の間の時間だけが唯一。だから明日の話は
しない。
「そうだね……」
 黒田はそう言って苦笑にも似た笑みを浮かべ。そして浅倉の
体を強く抱き締めた。
「大ちゃん、ちょっと捕まってて」
 そう言って黒田は浅倉の腕を自分の首に回させ、繋がった部
分が浮かないようにきつく抱き寄せる。
「このままは、いや?」
 体勢を変えようとしていることに気づいて浅倉はその目をのぞ
きこむ。
「嫌じゃないけど。でも、大ちゃんがキツイかなと思って。それに」
「……それに?」
「もっと気持ちよくなろう?」
 黒田はそう囁いて浅倉を軽く抱き上げ、体を入れ替える。そし
て下に抱き込むと深く自身を突き立てた。突然の衝撃は浅倉に
甘い快感をもたらし、そしてそれは繋がり合った部分から黒田に
も伝わる。
「もっと……大ちゃんが欲しい……」
 上がる息の中で告げると、浅倉はゆるりと微笑みを浮かべた。
「ボクも……黒田が、欲しい……」
 その言葉を合図に、黒田は腕を突き直すと激しく浅倉を求めた。
浅倉もそんな黒田をより深く迎え入れようと腰を浮かせる。全身
に広がる快楽に震えながら、互いを求め合う。このまま全てが溶
けてしまえばいい。ドロドロに溶け合って、隔てる形すらなくなっ
て、そして交じり合うことが出来たなら。
「大ちゃん……」
 熱い囁きが限界を伝える。
「一緒に……黒田……」
「うん……」
 一層激しくなる律動。最後の快楽を貪って、そしてキス。解放。
互いに大きく肩で息をしながら視線を絡める。それだけで今感じ
ていることが同じものだと分かる。足りない、と。その全てを奪い
尽くしたいと。この闇夜が包み込んでくれている間に全てを自分
のものにしてしまおう。


 翌日、黒田は自分のスタジオに向かう前に浅倉を送り届けた。
エンジンを一旦切り、しばらく2人は車の中で無口になった。離れ
がたくて、お互いに『じゃあね』が言えない。いつも繰り返されるこ
となのに、何度繰り返しても慣れない瞬間。そしていつも切り出す
のは、浅倉だった。
「じゃあ……行く、ね」
「うん」
 かつては同じ時間を過ごしていた場所。でも今は浅倉の新しい
時間が流れている場所。全てを壊してもいい、奪いたいと……そ
う思いながら拳を握り締めて彼を見送ることは弱さだろうか。それ
とも、強さだろうか。
 浅倉が建物に消えるのを見届けてからエンジンをかける。それ
がいつもの習慣だった。しかし今日は浅倉が入り口で立ち止まり
こちらをじっと見ていた。運転席のウィンドウを下げて少し身を乗
り出し、声には出さずに『どうしたの』と問い掛ける。その瞬間浅
倉が黒田の元に駆け寄り、その目を見つめる。どちらが求めるわ
けでもなく、柔らかく唇が重なる。
「見送らないで」
 キスの余韻を残しながら離れた唇で浅倉はそう言った。
「見送られたら……もう会えない気がするから」
「……大ちゃん」
「ボクは振り返らない。だから君も行って」
 またね、と手を振って。一緒にいた頃のように何気なく別れた
ら、あの頃のようにすぐに会えそうな気がするから。
「じゃあ、また」
 黒田はそう言ってエンジンをかけた。
「うん。またね」
 浅倉はそう言って、少しぎこちない、でも今出来る精一杯の笑
顔を見せて手を振った。そして背を向けてスタジオへと向かう。
黒田もゆっくりとアクセルを踏み込む。後ろは、見ない。

 2人が歩く陽のあたる場所は遠く離れているけど、それでも闇
夜の中では寄り添うように傍にいる。昇る陽の光に怯えながら、
情けないままでいい。 弱さも強さもいらない。何も必要ない。

 ただこの手に残るあなたのぬくもりこそが真実。













 

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