なかなか去らない熱を何度も分け合って、ようやく昂ぶり
から解放され始めた時、浅倉はふと思った。黒田は、どうし
て優しいのだろう?と。
「……何?大ちゃん」
浅倉の髪を愛しそうに優しく撫でていた黒田は、不思議そ
うな目に気づいて少し体を起こす。
「よく飽きないなぁ、と思って」
「は?何が?」
「こうやって触れたり、名前を呼んでくれたり。飽きない?」
その言葉に黒田は大きく目を見開いた。浅倉は飽きたんだ
ろうか?それとも、こういうのは嫌なのか。いや、もしかしたら
マンネリとか倦怠期とか、そういうやつなんだろうか?
「……なにか誤解してるね?今」
ショックを受けているらしい黒田に浅倉は呆れた表情を浮か
べた。
「君が飽きないのかと思ったの」
「……オレ?なんで?」
「だって、そういうもんじゃない?」
男というものは総じて行為『そのもの』を楽しみたい生き物で、
その前後の雰囲気作りは苦手だ。しかし黒田はいつだって優
しい接触を繰り返す。
「こういうの、やだ?」
「まさか。でも、もし義務感とか、そういうのでやってるんだった
ら、無理しなくていいのになぁと思って」
「……はぁ?」
黒田は心底呆れた声を出して、ため息をついた。
「オレが義務とかでやってると思ってたんだ?」
「……だって」
「オレは大ちゃんが好きなんだよ?ずっとこうしてても飽きない
よ。むしろ足りないぐらいかな」
そう言って緩やかに浅倉の頬を撫でると、軽くキスをした。
「大ちゃんがこういうの飽きたのかと思ったよ。もしかしてマンネ
リ?とかさ」
その言葉に浅倉はくすくすと笑って黒田の背中に両腕を回した。
「もし飽きたって言ったらどうする?」
「えっ?……考えたことないなあ……」
うーん、と悩む黒田に浅倉は笑いながら肩に額を押し当てた。
飽きるなんて、そんなことあるわけないのに。
「場所変えるっていうのはどう?」
「えぇ?」
そんなことでマンネリというものは解消されるものなんだろうか。
そう思って浅倉は首を傾げた。まぁ確かにさっきはどちらかの部
屋ではない行為、刺激的、ではあったけれども。そんなことを考
えて1人赤くなる。
「あっ、じゃあさ」
黒田は突然名案を思いついたとでも言いたげに声をあげた。
「場所を変えるのがだめならさ」
「うん?」
キョトンとする浅倉の耳元に唇を寄せると、黒田はわざと低く甘
い声で囁いた。
「縛る、とか」
それを聞いて瞬時に赤くなり目を見開く浅倉に、黒田は自分の
悪戯が成功したような気持ちになった。こうしてうろたえる浅倉も
可愛いもんだなぁ、なんて思いながら。
「そ、そんな趣味あったの?」
「大ちゃんは?そういうの嫌?」
「嫌だよ!いや……だけど……」
「けど?」
「倫がしたいなら……しても……いい、よ?」
意外な答えに、今度は黒田が目を見開く番だった。
「な、なんで?嫌なんだろ?」
「そうだけどっ。でも……君なら、許せる……かも」
真っ赤になったままぼそぼそと言う浅倉に黒田は言葉を失った。
本意ではない行為は、屈辱だと感じても仕方のないことだ。しかし
それでも浅倉は言ったのだ。君なら、と。
「大ちゃん……」
自分の全てを受け入れようとする浅倉に、泣きそうなほどの幸せ
を感じる。こんなに愛しいと思える人にはもう出逢えない。黒田は
力をこめて浅倉を抱き締めた。
「り、倫……?苦しいよ?」
「縛らせて……大ちゃん……」
明日には違う世界が待っているから。会えない時間の方が長い
から。だから、せめて。
愛しいあなた。
どうかその心を縛らせて。この想いという見えない鎖で。
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