白い壁に囲まれて華美な装飾品ひとつない、質素な部屋。
あるのは固そうな白い長椅子とちいさいテーブル、そして奥に続くドア。
控え室か特殊な研究室のようなその部屋に、ひとりの男が入ってきた。
「ふう」
男は疲れたように溜息を吐いて、椅子に座り込んだ。
その身を包んでいるのは躯にフィットしたアンダースーツと呼ばれるもの。
着ている意味があるのかと問いたい程、躯のラインも綺麗についた筋肉も余すことなく晒されている。
ある意味、全裸よりも扇情的だ。
地肌が見えているのは顔と手だけだが、その顔すら上半分はアイパッチで隠されている。
肌の色、艶やかな黒い髪、すらりとした躯つきの男はオリエンタルっぽい風貌をしていて、年齢は不詳だ。
シュン。
再び開いたドアから次に入って来たのは、同じアンダースーツを着込んだ、背の高い白い肌と金髪を持つ青年。
「タイガーさん、お疲れ様です」
両手に紙コップを持った青年は男に近づくと、片方を差し出した。
「お、サンキュ」
男はそれを受け取り、温かく湯気をあげるコーヒーの香りを楽しむように鼻を鳴らす。
「大丈夫ですか?」
「なにが?」
「いえ、いつもより疲れているようにみえるから」
青年は苦笑して、男の隣に座りながら言った。
「まあな。1回の出動で能力を2回使ったからなー」
「ちょっとハードでしたね」
「でも俺、元気だけが取りえだから!」
まだお前には負けねぇぞ、と男はニヤリと青年に笑いかけ、コーヒーに口をつける。
「ん?なんかいつもと違うな」
「美味しくないですか?」
「いいや、うまいよ」
せっかく青年が持って来てくれたヒコーヒーにケチをつけるつもりはない。
「それは・・・よかった」
並んで座っている青年の唇が微かに歪んだ笑いを浮かべたことに、男は気がつかず残りを一気に流し込んだ。
*
白く長く続く廊下を、男は青年に抱きかかえられるようにして歩いていた。
その足取りは重く、支える青年がいなければすぐに倒れてしまうだろうことが予想できるほど、頼りない。
「どうしちまったんだ、俺は」
自分の状態が理解できず、男は戸惑ったように呟くと、青年がその顔を覗き込むようにして問いかけた。
「眩暈だけじゃなかったんですか?」
「最初は、な。だけどどんどん躯が重くなってきて・・・うまく手足が動かねぇ」
言葉と共にぐらりと傾く躯を引き寄せ、青年は男を横抱きにした。所謂お姫様だっこと言われるものだ。
「だっ!」
驚いて身を捩るが、反対にガシリと抱え込まれてしまう。
「医務室までもう少しです。歩けないなら仕方ないでしょう?」
「だけどよう」
「すぐですから我慢してください。それに今更でしょう?」
楽しそうに言われて、男はぐっと言葉を詰まらせた。
なにか反論をしようとするが、うまい言葉が見つからなかったのか口をパクパクさせただけで、すぐに溜息をついて諦めたように身を任せた。
悔しそうに、恥ずかしそうに俯く男は、青年がまた妖しい笑みを浮かべたことに今度も気がつかなかった。
*
医務室は明かりが落とされていて真っ暗だった。当たり前だが当直医も既にいない。
電気をつけて時間を確認すれば深夜0時過ぎ。
こんな時間に医務室を使うものなどいないのだから当然といえば当然だろう。
青年は男をゆっくり丁寧にベッドへ横たえる。
されるがままの男はベッドに下ろされると長い手足をぐったりと伸ばした。
力が入らないのだろうということは男の様子を見ただけでわかる。
「どうしちまったんだ、俺は」
戸惑ったような男の声には不安が篭っている。
「声は普通にでるんですね?」
「ああ。でも、躯はもう動かねぇ。動くのは・・・・・・首くらいか」
動かしてみようと努力していたのか少しの沈黙のあと、首だけを軽く左右に振って言った。
「本当に動かないみたいですね。では感覚は?」
「感覚?」
男をベッドに下ろしたあと、医療棚を漁っていた青年はふたたび戻ってきて、男の手を取った。
マッサージするように掌を親指でキュッキュと押さえる。
「どうですか?」
「ん、気持ちいいかな」
ふぅと小さく息を吐いて、少し安心したように答える。
「気持ちいい・・・って。じゃあ、これは?」
片手で掌をマッサージしたまま、もう片手で手首を握り、柔々とした動きと共に徐々に上へ移動させていく。
手首から腕、肘、二の腕、肩。
感触を確かめるような動きを受けても男の躯はピクリとも動かない。
「触れられてるのはちゃんとわかるぜ。ただ動かない」
「そうですか」
「気がつかなかったけどさ。さっきの犯人、なんか変な力を持ったNEXTだったのかなぁ」
困ったように男は顔を顰めた。
「とりあえずさ、医者に・・・」
「その必要はありません」
男の言葉に青年の言葉が被さる。
「え?」
驚いて顔を向けた男の眼に、キラリと光を放つメスが映った。
「バニ・・・?」
近づく切先に男は怯える。
相棒である青年が男の動かない躯に向けてメスを近づけているのだ。
通常であれば冗談半分に笑って避けられるが、今はまったく動けないのだ。どうしても躯が恐怖を覚える。ある意味本能だ。
「ちょっ、待て、なんだ、なにをっ」
「動かないでください。貴方を傷つけたくない・・・って動けなかったですね」
アンダースーツの左肩辺りが摘み上げられ、浮いた生地にプツリと刃物が刺さった。
感覚が間違いなく残っているのなら、肌に傷はついてない。
ピピピと生地が裂かれる小さな音と共に、素肌が外気を感じはじめる。
「・・・バニ」
固く眼を瞑り、唯一動かすことが出来る首さえ動かさず、男はか細い声で呟いた。
隠し切れない怯えが顔に表れている。嗜虐心を煽る表情だ。
カランと音をたて、メスが床に投げ捨てられる。
躯から刃物が遠ざかったことに気がついて男の表情が緩んだ、そのとき。
アンダースーツの切れ目を両手で掴んだ青年が、それを一気に引き裂いた。
左肩から右脇腹まで一直線に破られ、その下の素肌が露にされる。
鍛えられた躯は無駄な脂肪はなく、綺麗な筋肉を浮き上がらせている。
「なっ!?」
「こっちの感覚は?」
大きな掌が胸元をスルリと撫で上げた。
「あるよ、あるけど、なんでこんな」
「じゃあ、ここは?」
遠慮ない動きで、白い指がまだ柔らかそうな乳首を摘んだ。
「あっ!?」
いくら確認のためとはいえ、普通ならそんなところは触らない。
それなのに青年はクニクニと指先で捏ねくりまわす。
弄られている乳首はジリジリと起き上がり固くしこっていく。
「や、やめろっ」
「感じてるんですか?・・・可愛い」
遊んでいたもう片方の手が、引き締まった腹を優しく撫でまわし始める。
その動きは明確に性的なものを含んでいて、触れられている男以上に触れているだけの青年の息遣いも徐々に荒くなっていく。
「やめろ、やめてくれ、バニー!」
唯一動く首を左右に振って拒絶の意思を伝えるが、躯を弄る動きは止まらない。
「コーヒー」
「・・・え?」
現状にそぐわない言葉に男は快楽に潤み始めた目で青年を見上げた。
「美味しかったですか?」
「な、なに・・・言って・・・?」
「無警戒なのはありがたいですが・・・少しは疑った方がいいですよ?」
唇に笑みを浮かべる青年の含みのある言葉に、男はハッと気がついた。
「まさかあれに何か・・・」
「一時、自由を奪うだけのものです。躯に害はないから安心してください」
「ふざけんな、どういうつもりだ!」
男は責めるように怒鳴るが、青年は動じることなく微笑んだままだ。
「どういうつもりって」
腹を撫でていた手がスルリと下肢へ向かう。
破れたアンダースーツの下に忍び込んでくる指に男はヒッと喉を鳴らした。
「貴方、自覚がないんですか?こんな厭らしい躯を隠すことなく見せ付けて、いつも男を誘っている」
「はぁ!?」
「ファンも仲間もそこ辺ですれ違うだけの男も、そして僕も・・・いつも貴方を犯したくって仕方ないんですよ」
差し込まれた手がギュッと丸まり、ピッタリとした生地を盛り上げる。
「アァッ!?」
「なんだ、もう固くなり始めてる・・・同性に触られて感じるなんてホントに貴方は淫乱だ」
グニグニと遠慮ない動きで揉みこまれて、男は仰け反った。
突き出された喉に舌を這わせ、乳首と股間への与える刺激を強くする。
「乳首も立ってますよ、気持ちいいんですね?ここも」
喉元から首筋、鎖骨、と濡れた舌がナメクジのように這う。
胸元まで降りると弄られて赤く膨らんだ乳首を咥えた。
「やめっ!」
乳輪ごと吸い込み舌先で先端を穿ると男が悲鳴をあげた。
やめろと言いながらもその声には快楽を含んだ甘さが交ざって混ざっている。雄を煽る厭らしい声色だ。
抵抗できない、動けない躯は、愛撫から逃れられない。
本意でなくとも、性器を握られれば気持ちいいし、擦られ続ければ勃起する。健康な人間の男なら避けられない生理的反応だ。
「ずっとこうしたかった・・・想像以上ですよ」
青年はうっとりとして、快感に耐えられず喘ぐ男を見下ろす。
切り裂かれたアンダースーツの下から覗く肌はしっとりとした汗と青年の唾液で濡れそぼっている。
「もっと見せてください」
下肢を弄っていた手を引き抜くと、布地を更に下方に向かって引き裂いた。
ビリリと大きな音を立てアンダースーツが破かれる。
途端に弾けるように飛び出した性器は先走りに濡れ、ぶるぶると大きく揺れた。
「すごい厭らしいです。男に抱かれるためにある躯ですね」
「馬鹿・・・言うなっ」
「もうこんなになっておいて・・・何を言ってるんです?」
青年は脈打つ側面を指先で軽く撫でる。輪郭をなぞるようにゆっくりと優しいタッチで。
すでに天高くそそりたつ性器は強い刺激を求めて、ヒクリと震えた。
「どうして欲しいですか?」
「やめてくれ、マジで」
「・・・嘘ですね」
ぐいと乱暴に足を広がされた次の瞬間には、股間に青年の顔が埋まっていた。
「アッ、アア!」
男が発した声は快楽に引き攣っている。動かないはずの腰がビクンと大きく跳ねた。
先走りを溢れさせる先端に青年の唇が吸い付いたのだ。
じゅるじゅると啜る音が響き渡る。
それを聞いた男の顔が羞恥と快楽で真っ赤に染まる。
震える唇から喘ぎと共に「いやだ」「やめろ」という拒絶の言葉が絶え間なく発せられるが、口淫が止まることはない。
喉の奥まで飲み込み吸引する。
頬肉に先端を擦り付けて小刻みに揺らす。
縊れに軽く歯を立てて刺激する。
とめどなく先走りを溢れさせる先端を舌で穿る。
性器への愛撫は激しさを増し、あらゆる刺激を、快楽を与え続ける。
男の声色が鳴き声にかわり、固くパンパンに膨れた性器が吐精する寸前になって、青年は顔をようやくあげた。
ぐっと伸び上がり顔を覗き込む。男の表情は淫蕩一色に染まっていた。
荒い息を吐く唇の端から唾液が流れ落ち、薄っすら開いた瞳は潤んでいて、目の端から涙が流れている。
全身は朱に染まり、大きく上下する胸のうえで乳首がツンと尖っている。
もちろん股間のものは発射寸前で、ダラダラと溢れた精液が性器と陰毛をじっとりと濡らしていた。
どこからどうみても厭らしい眺めだ。
ごくりと青年の喉が鳴る。
男の膝裏に手を差し込み、ぐんなりと力のない躯を持ち上げた。
腰が浮き上がり強制的に屈伸させられた体勢に、男が苦しげに呻いた。
現状を確認しようと開かれた瞳は、すぐに驚きに大きく見開かれる。
「ホラ、こんなに感じてる。見えるでしょう?」
青年の言葉の通り、勃起した性器は持ち主の顔の上でゆらゆらと揺れていた。
躯を折り曲げるように屈伸した体勢は、男自身の下肢を嫌でも見せ付ける形だ。
タラリと一滴、白い粘液が垂れ、男の頬を汚す。
あまりにも屈辱的な体勢、同性に愛撫され反応している己の躯を目の前に見せ付けられ、男の顔が泣きそうに歪んだ。
だがすぐに、その表情は驚愕に変わる。
「やっ、ダメ、だ、やだっ」
子供が愚図る仕草で男は頭を振った。あまりのことに言葉もきちんと発せられないらしい。
バサバサと黒い髪がシーツを鳴らす。
薬に侵された男が出来る抵抗はそれだけ。
どんなに嫌がっても拒絶しても、青年の意のままに事は進んでいく。
「やっ、あぁっ」
持ち上がった尻に、天井に向けられた穴に、青年の濡れた舌が触れた。
蕾んで硬く閉じているはずの後門を舌先でノックすると、薬の影響からなのか後門は柔らかく解けた。
チロチロと擽ぐるように舐める。
それに反応しピクピクと痙攣する穴はまるで挿入を誘っているようだ。
「きたない、ヤメ、」
「どこが?綺麗ですよ。それに上手に僕を誘っている」
袋から何もない道を渡り後門までをべろんと舐めあげる。
「やっ、あっ!」
「嘘ばっかり。気持ちいいのでしょう?」
その証拠を見せ付ける意味で、ブラブラと萎えることなく揺れている性器を掴んだ。
「カチカチじゃないですか。尻を舐められて悦ぶなんて淫乱ですね」
「バッ・・・!」
怒りと羞恥に怒鳴ろうとする男の抵抗を封じるように、青年は性器を扱きだした。
同時に尻穴を唇と舌を使って愛撫する。
元々射精寸前までいっていた躯だ。性器への直接的な刺激をうけて、あっという間に快楽の波にのまれていく。
もう男の唇からは発せられるのは喘ぎだけ。
尻穴に舌先を差し込み体内を嘗め回すと、甘く嫌らしい声で啼いた。
穿るように先端に爪を立て、尻穴に1本指を捩りこんだ瞬間。
男は引き攣った叫びをあげながら、達した。
びゅくびゅくと吐き出された精液は本人の顔や胸元に降りかかる。
健康的な肌が白濁とした液で汚されていくのを、青年はうっとりとした表情でみつめた。
射精したばかりの男の顔は艶やかで妖かしく、青年の欲情をこれ以上ないほど煽る。
目に映るすべて、厭らしい光景だ。
青年はゆっくりとした動きで片手を下ろし、アンダースーツの下から己の性器を取り出した。
ソレは禍々しい程勃起し、腹につくほど硬く反り返っている。
死角にあるソレに男は気がつかない。
すぐにでも自分を犯そうと涎を垂らしているモノの存在を。
「すごくヒクヒクしていますよ、もっと欲しいって言ってるみたいだ」
青年が舌なめずりしながら捩りこんだ指をくにくにと動かすと、言葉通り指を咥えこんだ穴が蠢いた。
どこからどうみても卑猥の一言に尽きる。
無理矢理吐精させられ、男は大きく胸を上下させながらぐったりしていたが、青年の言葉を聞いて我に返った。
ハッと視線を投げた男の前で、青年は指を引き抜き、代わりに小さいチューブを押し当てた。
片手でグシャリと握りこむと、先から白い軟膏が押し出されてくる。
「心配しないでください。そこの棚にあった塗り薬ですから」
「な、なんで、そんなもん」
「女性器と違ってここは濡れないんですよ?痛い思いはしたくないでしょう?」
にっこり微笑むも言っていることはかなり物騒だ。
尻穴周辺に落ちた軟膏を塗り広げていく行為は、これから何をされるかということを男に容赦なく伝えてくる。
「嘘だろ・・・?」
「なにがです?」
「そんな、馬鹿げたこと」
「馬鹿げたことって・・・こんなことですか?」
軟膏をたっぷりと塗りこめられた尻穴に、軟膏をたっぷり絡めた指が挿入されていく。
さっきは突然だったが、今度は存在感を示すようにゆっくりと2本の指が、それも確実に奥まで。
「ア、アアッ」
目の前で自分の中に埋まっていく指。
男は信じられないという表情を浮かべながら呻いた。
ぬるりとした感触と共に侵入してくる指は、異物感こそあっても痛みはまったくない。
「・・・慣れているのですか?」
「や、抜けっ」
現実逃避するように目を閉じて、男は青年に懇願した。
だが、青年はそれを無視し、更に問いかける。
「ねぇ、ココを使われるのは初めてじゃないのでしょ?」
「何、言って・・・」
「こんなに簡単に入って・・・誘うみたいに内部が蠢いてる」
「そんなわけあるか!ぬ、抜けって!!・・・ヒッ!!」
内壁を抉られて、男は仰け反って呻いた。
白く長い指が抽送をはじめる。まるで擬似セックスだ。
これからの本番行為への前準備、練習だというかのようなピストン運動。
「誰に抱かれたんですか?やっぱりスポンサー?」
「やっ・・・アッ、なにをっ・・・!」
「賠償金のために枕営業しているってもっぱらの噂ですよ?いったい何人と寝たんですか?」
尻穴を犯され、内壁を指先で擦り上げられ、男の抵抗は徐々に薄れていく。
射精して萎えていた性器も少しずつ力をつけ始めていた。
「こんなに感じて・・・誰に開発されたんです?」
「し、してないっ、そんな・・・こと・・・アアッ!!!」
「前立腺です、気持ちいいでしょう?」
ぐりぐりと抉るように指を曲げると、男の躯がビクンと跳ねた。
喉を反らし喘ぐ唇から唾液が流れ出す。
「やっ・・・アッ・・・あぁぅ・・ンッ」
「本当に初めてだというなら凄い才能ですよ、男に抱かれるための躯だ」
青年は一気に指を引き抜き、支えていた男の腰を下ろした。
屈伸させられた苦しい体勢と尻穴への刺激から開放され、男はぐったりと全身をベッドへ沈ませる。
ビリビリに破かれたアンダースーツ。
破り広げられ、すでに生地は首周りや手足の部分にしか残っていない。
全裸よりもそそられる、厭らしい姿だ。
肌は汗と精液に濡れ、顔にも白濁とした液が散っている。
ぷっくりと膨れた乳首が、荒い息と共に上下する胸元を飾る。
勃起した性器と濡れた陰毛、そして軟膏と愛撫でドロドロに溶けた尻。
青年の視線が男の躯を隅々まで視姦する。
「もう・・・我慢できません」
興奮気味に呟くと、青年は投げ出された男の両足を抱えあげた。
残った軟膏をすべてチューブから絞り出し、自分の性器と男の尻穴にべったりと塗り広げる。
「は、なに・・・?」
薄目をあけた男の視界に、覆いかぶさる青年が見えた。
同時に尻穴に擦りつけられた撓った熱の感覚で、ようやく青年が何をしようとしているか理解した。
指などではない、もっと大きく凶暴な肉棒を男の体内に捻り込もうとしている。
動かないはずの足が動いた。
油断していたであろう青年の胸を蹴飛ばした男は必死だった。
躯を回転させ、ベッドの端へ向かい這うように逃げる。
ノロノロとした動作であったが、さっきまでとは違い、自分の意思で動くことが出来ている。
いきなりの抵抗に驚いた青年だったが、すぐにその理由を知った。
逃げる男の全身は青く発光しているのだ。
向けられた背中を見つめて青年は妖しく微笑む。
ベッドの端に手が届いた瞬間、締まった腰を両手で掴み、ベッドの中央まで引き戻した。
「薬で動けない状態で身体能力を100倍にしたって、たいした力は出ないでしょう?0に100をかけたって0にしかならないんですよ」
「ゼロじゃない!」
確かに0ではなかったようだが、残っていたのはほんの僅かな力。
それを100倍にしたところで通常の半分にも満たない。
その証拠に、抵抗は女子供よりも弱く頼りない。
「少し抵抗があった方が組み敷いているって感じがして楽しいですけど」
腰を引き上げ四つんばいさせた男の背後から青年が覆いかぶさる。
両手と両足を突っ張り、躯を捩りながら抜け出そうとしても体勢は変わらない。
それどころか。
突き出され、露にされた尻の谷間に、硬く撓った青年の性器が擦りつけられた。
獣の体位。
さっき正面から組み敷かれていたときよりも挿入するのが簡単な体位だ。
「やめろ、ダメだ、バニッ!!」
腰をくねらせ挿入を避けようとする仕草は、反対に雄の征服欲を煽るような動きにしか見えない。
「そんなに誘って・・・すぐにあげますから」
腰を固定していた両手がスルリと下肢へ移動する。
左右に振られる尻肉を軽く握りながら、両方の親指を尻穴に突きこむ。
「ヒッ!?」
「ああ、ちゃんと柔らかくなっていますね」
2本の指をクニクニと動かし感触を確かめる。
能力で少し自由が戻ったといえど、軟膏で広げられた尻穴は少し抵抗を増したとはいえ柔らかい。
くい、と押し広げると指の隙間から赤い内壁がチラリと見えた。
青年の喉がごくりと鳴る。
ああ、もう。
小さく呟くと、乱暴な動きで更に穴を広げ、勃起した性器の先端を宛がう。
男の躯がビクリと震え、恐怖に強張るより早く。
青年は指を放して一瞬パカリと開いた穴に性器を一気に捩りこんだ。
「アアァァァァァァァァァッッッ!!」
切り裂くような悲鳴が部屋に響き渡る。
体内の奥の奥まで犯された男の眼は大きく見開かれ、その眦から涙が溢れ出していた。
「凄い」
動かずにいられないのか、青年は男が落ち着くのも待たず、律動をはじめた。
大きくは動かない。抉るように奥を突くように小刻みに腰を前後させる。
「アッ、アッ、やだ、バニッ!アアァ」
シーツを握る男の指は力を入れすぎているのか真っ白だ。
前に逃げようとしては引き戻され、その勢いで奥を思いっきり突き上げる度、男は悲鳴をあげた。
弱弱しくも抵抗する躯を、それも女ではなくいつもは誰よりも強い男を、捻じ伏せて犯すことは征服欲を満たし、雄としての欲望が際限なく膨れ上がる。
鳴き声も、叫び声も、徐々に快楽を含んでいく嬌声も。
まるで音楽のようでしかなく、興奮を煽る一因になっているだけだ。
「ああ、イイ・・・スゴイ」
そう繰り返す青年の動きは、どんどん激しさを増していく。
潤滑油代りの軟膏と青年の先走りが混じり、結合部からはくちゃくちゃと厭らしい水音が鳴り続ける。
摩擦を楽しむようにストロークを大きくすると、男は全身で身悶える。
小刻みに律動し奥を突くと、男の唇から短い喘ぎが発せられる。
内部を抉るようにスイングさせると、男は仰け反って鳴き声をあげた。
無理矢理犯されたはずの男の性器は萎えることなく、腹につくほど勃起しダラダラと先走りを溢れさせていた。
先端から漏れた液が糸を引きながらシーツに滴っていく。
「もう・・・っ」
青年が耐えられないというように喘ぎ、前へ手を回し男の性器を握り込んだ。
「アッ!!」
数回擦っただけで男は簡単に絶頂を迎える。
汗に濡れたしなやかな背中が仰け反ったあと、小さな叫びと共に弾けた。
吐精の締め付けで、続けて青年も弾ける。
最奥に注ぎ込み終わり青年がブルリと躯を振るわせたとき、男から青い光が消えた。
長いセックスだったような気がしたが、時間的にはたった5分だったらしい。
能力が切れたせいかなのか、それとも吐精したせいなのか。
男の躯から力が抜けベッドに沈み、その尻から性器がズルリと抜け出た。
ハァハァと荒い息を吐く男の横顔は涙と汗と唾液にまみれ、壮絶な色気を醸し出している。
今は閉じてしまった尻肉の間から内股へかけて精液がトロリと流れ出していた。
「抵抗がなくなるのは残念ですけど」
肩に手をかけ、くんなりと力が抜けた男の躯を仰向きに引っくり返す。
「でもあと1時間は能力を発動できないから・・・薬が抜けてきても貴方は僕には敵わない。好きなようにできますね」
若さのせいなのか。男の色香にあてられたのか。
射精したばかりだというのに青年の性器はもう勃起していた。
投げ出された男の両足を抱え込み、腰を擦り付ける。最初に犯そうとしていた体位だ。
「・・・あ?」
下肢への違和感に男が眼をあけると、圧し掛かってくる青年の躯が視界一面に広がっている。
そしてじりじりと広がっていく尻穴。ふたたび男を襲う圧迫感。
「もっといっぱい啼いてくださいね?」
「や、バニ、駄目だっ…うぁぁぁぁぁぁっっ!!」
抵抗ひとつ出来ない躯を青年は遠慮ない動きで揺さぶり、奥の奥まで犯す。
男に許されたのはただ喘ぎ続けることだけだった。
*
ピーーーーーッ!
精液の匂いが充満した医務室に電子音が響いた。
ギシギシ鳴っていたベッドの軋みが更に大きくなる。同時に淫靡な水音と掠れた嬌声も。
「アァァッ!」
「くっ」
ふたりの声が重なったあとに、すべての音がやんだ。残っているのは荒い息遣いだけ。
体位をかえ、何度も青年は男を犯した。
泣き喚き、最後には喘ぐだけになった男は体力気力共に限界だったのか、最後の吐精のあと意識を飛ばした。
汗と涙と精液に塗れ、くたりとしている躯から青年は性器を引き抜く。
ぐぼりと音がし、男の閉じきれない穴から大量の精液が溢れだした。
ピーーーーーッ!
ふたたび電子音が鳴り響く。
「こんなどきに出動要請ですか」
青年は顔を顰め、名残惜しそうにしながら男から離れた。
ベッドから降り、自分の始末を終え身支度を整える。
「貴方が医務室に行ったのはみんなご存じだから、体調不良で休んでいることにして僕だけ行ってきますね」
疲れ切って眠る男の顔の涙を親指で拭い、青年はそっと囁いた。
もちろん返事はない。強制的なセックスからようやく解放された男は夢の中だ。
「すぐ帰って来ますから待っていてくださいね」
チュッと唇にキスをして、汚れたままの躯に掛布を被せる。
「もっともっと愛してあげますから」
青年は妖しく微笑み、男を残しひとり部屋をあとにした。
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