バディのバディをうっかり観察してみた


髪をポンポンとタオルで挟んで叩きながら、バーナビーはロッカールームへ向かった。
柔らかく猫毛気味の髪はいきなりドライヤーをかけるととんでもなく跳ねる、乱れる、ボサボサになる。
タオルドライしたあと、ヘアワックスをつけて丁寧に乾かす必要がある髪質だが、長年続けてきたことなので面倒だとは思っていない。
だが、虎徹のようにタオルでガシガシ拭いても絡まない痛まない髪質は少し羨ましい。
簡単にドライヤーで乾かしたあとはヘアムースで髪を整えたり、それなりの手間はかけているようだが、それにしたって時間的にはバーナビーの半分しか使っていない。
いつもはハンチングで隠されているが、真っ直ぐで芯のある髪は黒々としていて太陽の下ではキューティクルで艶々しているのだ。
天使の輪なんて30代後半の男性に必要がないもののはずだが、こればかりは髪質の問題だからどうしようもない。

そんなどうでもいいことをつらつら考えながらドアをあけると冷たい空気が流れ込んで来た。
シャワールームの湿気を含んだ空気とは違い、火照った体には気持ちいい湿度と温度だ。
自分のロッカーへ向かうと、既に虎徹はロッカーの前で着替える準備を始めていた。
タオル1枚腰に巻いた後ろ姿にゆっくりと近づいていく。ふたりのロッカーは隣同士だ。
さっき触れた鞣革のような背中の筋肉が、虎徹が動く度に綺麗に動いている。
医学生や美大生に、筋肉の付き方や動き方を教えるのにちょうどいい見本のような体である。

「まだ、着替えてなかったんですか?」

虎徹の横に並び、ガコンとロッカーの扉をあけながらバーナビーは言った。

「まだもなにも、戻って来たばっかだってーの」

弱点である腰に触れられ、逃げ出したのを笑われて、ご機嫌斜めなのか虎徹は横目でじとりとバーナビーを睨んだ。
確かに走り去っていったとはいえ、バーナビーもひとしきり笑ったあとすぐにシャワールームを出たのだ、時間的にあまり差はない。
わかってはいるが、散々虎徹に振り回された気分だったから、少しくらいこっちから遊んでやってもいいだろう、と思う。

「おじさんだからですかね。動きが鈍いんじゃないですか?」
「大きなお世話ですー」

またもや唇を突出し、語尾を伸ばす虎徹に、バーナビーは苦笑する。
やっぱりおじさんのくせになんか可愛いと思ってしまうのだ。そしてこんな自分は残念すぎると感じる。
乾いたタオルでシャワールームから持ち帰ってきたシャンブーやボディーソープの容器の側面を拭きながら、虎徹で占められそうな思考を手元に戻す。
コンディショナーがそろそろ無くなりそうだから近々新しいのを持って来ないといけない。
シャワールームに設置されている品は好きなメーカーではないから、あれを1回だけでも使うのは遠慮したい。
こだわりのない虎徹が少し羨ましいかもしれない。
あんな手抜きな手入れでも、肌質も髪質も申し分ないなんてある意味ズルい。
結局、考えていることが虎徹に戻ってしまっているのをバーナビーは気が付かないまま、ロッカーの奥にジャンプー類を仕舞っていると、パサリと軽い何かが落ちる音がした。

「ありゃ」

続く虎徹の声に、つい視線を向けたバーナビーは瞑目して固まってしまった。
片手に下着を握った虎徹の腰からタオルが落ちてしまっていて、彼は完全に全裸状態だった。
さっきまで隠されていた股間が露わになってしまっている。
下生えは髪と同じく黒々としている。
特に手入れをしているようには見えないが、見苦しくはない程度に整っている。少なくともジャングルではない。
見慣れた自分の白い肌に金色の陰毛、それと全然違う色のコントラスト。
引き締まった腹筋の下、健康的な色の肌に黒はとても映えていて、とても、とても・・・バーナビーには厭らしく見えた。

そんな視線にまったく気が付かない虎徹はタオルを巻きなおすことなく、そのまま着替えを続行した。
下着を持つ手をおろし、片足をあげ、下着を履こうとする。
あげた足は左足で、運悪くバーナビーのロッカーは虎徹の右側だった。
つまり、片足をあげる動きにつられ軽く揺れた性器がバーナビーには丸見えだったのだ。
さっきまではチラリと見えていただけのそれが存在感を持ってバーナビーの視界に入った途端、なぜかどうしようもない程の羞恥が湧き上がった。
肌や髪、骨格や筋肉。人種によって体の造りは微妙に違う。
だが、性器までそうだとはあまり考えたことはなかった。というか、他人の性器をまじまじと見たのは初めてだ。
色も形もバーナビーのそれと違う。
虎徹の性器は肌の色よりも濃い色をしていて、はっきり言って卑猥の一言に尽きた。

「ちょっ、前を隠してください!」

慌てて顔ごと視線を逸らしたが、すでに脳裡にはしっかりと映像として焼き付いてしまっている。
サイズは小ぶりなのに、赤黒いそれはまるで使い込まれているように見えて、嫌でもセックスをイメージさせる。
バディのそういうプライベートを垣間見たくはない。
だから、さっさと隠して欲しいのに。

「なんでだよ」
「なんでってなんですか!?」
「男同士だから別に構わないだろ」
「男同士でも!普通人前で全裸になんかならないでしょう!」
「え?なるだろ?」
「は!?」

思いがけない言葉が返って来て、驚いたバーナビーはせっかく背けた顔を戻してしまった。
パンツ片手にキョトンとした虎徹は前を隠すこともせずに、バーナビーを見ている。
どういうことだ、この人は誰の前でも裸になるのか?
どういうシチュエーションなら全裸になる必要があるというのか。
もしかして露出狂なのか、いやいや、それじゃぁただの変態だ。ヒーローがポリスの世話になるなんて冗談にもならない。
ちょっとパニックを起こしかけて、でも視線は虎徹の体にロックオンされていて逸らすことが出来ない。
何を言おうかとパクパクと口を開け閉めしているバーナビーを見て、虎徹が「あっ」と何かに気が付いたような表情を浮かべた。

「ごめん、ごめん、つい地元でのくせで」
「・・・地元?」
「そう、出身のオリエンタルタウン」

オリエンタルタウンでは全裸で過ごすのが常識だというのか!?
と、バーナビーの思考がとんでもない方向へ飛びそうになる前に、虎徹が答えをくれた。

「銭湯とか、温泉とか、聞いたことない?」
「・・・セントーはありませんが、オンセンなら」
「入ったことある?」
「ありません」

そうか、そうだよなーと妙に納得した様子で虎徹がうんうん頷いている。
が、相変わらず全裸のままで目のやりどころに困る状況だ。

「水着で入る国もあるみたいだけど、日本とかオリエンタルタウンでは裸で入るんだよ、温泉って。おっきな浴場にみんな素っ裸で風呂に入んの。裸のつきあいって、言葉もあるくたいだからなー。もちろん普段は人前で裸になったりしねぇけどさ、シャワーのあとだと別にいいかなーって気になっちゃってさぁ。シュテルンビルトの奴らはびっくりするみたいだな。最近は他のヒーローはすっかり馴れてスルーしてくれるようになったけど、バニーちゃんはそんなこと知らねえもんな、悪かったよ」

ポリポリと頭をかきながら一気に説明した虎徹は、最後の最後でようやく気が付いたように、隠す仕草をした。
だが既に遅し。
虎徹の体の隅々までバーナビーの脳裡にインプットされてしまっていた。
今まで男に性的な眼で見られることはあっても、男を性的な眼で見たことなどなかった。
それほど虎徹の下肢は厭らしかった。未だに動悸が収まらないほど。

バーナビーに気を使ったのか、虎徹は背中を向けてから下着を履きだした。
軽く前かがみになった背中から腰のライン。
それどころかキュッと硬く締まった小ぶりな尻がバーナビーの眼に晒されているのだ。
腰と同じく、引き締まり形のいい尻。
屈んだ姿勢のせいで、足の間から見えてはいけないふたつの影が一瞬見えたような気がした。
すでに前を見た後だから今更だが、角度が違えば受ける衝撃も違う。
今まで気が付かなかったが虎徹も他人から性的な眼で見られることが多いのかもしれない、と思ってしまうほど扇情的だった。
無意識にゴクリと咽が鳴る。それにバーナビー自身は気が付かなかった。
下着を履いた虎徹は体を伸ばし、ロッカーからシャツを取り出そうとして、バーナビーの視線に気が付いたようだ。
じっと逸らさず考え込むようなバーナビーを見て、少し小首を傾げ、そしてすぐに何かを思いついたようにハッとした。

「バニー!まさか!?」

遠慮ない手がぬっと伸びてきて、バーナビーの腰のタオルを剥ぎ取った。
自分が真っ裸にされたことでようやく我に返ったバーナビーは「何をするんですか!!」と怒鳴って、タオルを取り返す。
すぐに股間は隠したが、虎徹の視線が股間をとらえたことは確かだ。
その証拠に、茶色い瞳は大きく見開かれ、隠された股間に視線が投げられたままだ。
茫然とした表情を見て、まさかと一瞬自分を疑うが、性器は通常運転通りで臨戦状態は示していない。
虎徹を卑猥だと思ったことで反応してしまっていたのかと焦ったがそうではなかった。
そしてすぐにそんな心配をしてしまった自分自身に気が付いて死にたくなった。
仕事の相棒で10歳以上年上のおじさん相手にいったいなにを。

「あなたこそ・・・セクハラじゃないですか!!」

死にそうな気分を振り払おうともう一度怒鳴ると、ようやく虎徹はギギギと音が鳴るような仕草で視線を外し、着替えを再開した。
嫌な沈黙が流れる中、無言で黙々とふたりは服を身に着ける。
シャツを羽織り、スラックスに足を通し、靴を履く。
バーナビーと違って、虎徹の動きは早く、あっという間に帰り支度を済ませてしまった。

「・・・バニーちゃん」
「・・・なんですか」

バタンとロッカーを閉じた虎徹が地獄の底から響くような低い声でバーナビーを呼んだ。
今日は散々振り回された感があるバーナビーは警戒心丸出しで応える。
さっき虎徹が叫んだ「まさか」の意味はわかっていないが、今度は何を言い出す気なのか。

「言っとくけどな!」

虎徹が体ごと振り向いて、ビシリと人差し指をバーナビーに向けた。

「東洋人の勃起率を舐めんなよ!通常時は負けてるかもしれねぇが、勃起率は平均で1.5倍だ!俺はそれ以上いくんだからな!!」

一瞬何を言われたかわからずに、ぽかんとしてしまう。
ぼっきりつ?1.5倍?
虎徹は何を言っているのだろう。

「それにこういうのは大きさだけじゃない。硬度、角度、機動力、テクニック、すべてを総合しての価値だからな!わかったか!」
「・・・はぁ・・・?」

言うことだけ言うとすっきりしたのか、虎徹は「わかったならいい。じゃあな、バニー!」と少し強張った笑顔を残して、ロッカールームから飛び出していった。

「いったい、なんだったんだ?」

硬度、角度、機動力、テクニック?
そして1.5倍のぼっ・・・勃 起 率 ! ? ! ?

ようやく虎徹が言いたかったことを理解したバーナビーは、気が抜けてヘタヘタと床に座り込んだ。
何言ってんだ、何考えてるんだ、あのおじさんは!
結局、あんな真面目な顔してシモネタか!!!
なんだ、あの人は。本当に馬鹿だ、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!


この十数分で何度、虎徹を馬鹿だと思ったことだろうか。
性的や卑猥に見えたことはすっかりと頭から消え去り「虎徹は馬鹿だ」という言葉だけがバーナビーの頭をぐるぐるとまわり続けた。
 
 
 
  

 

 




■あとがき

ただのシモネタ(笑)
男性陣は意外とこういうことを気にするよねーと思いまして。
それに人種の差ってのもあるしね!





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